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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十五章

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聖地

 

 ゴールヴの町を出て二日目。今日は草原を南下している。


 もうそろそろお昼くらいになるけど、護衛の仕事は順調だ。というよりも、スザンナ姉ちゃんがいるからほとんど何も起きない。起きないというよりはトラブルが起きる前に対処できるってことかな。


 人を襲ってくるような魔物もこっちから奇襲をかけられるし、この辺りは盗賊もいないとか。この辺りは暑いのが大変なくらいで、それ以外は普通に旅をしているのと変わらないくらいだ。


 でも、そうなると、アンリはちょっと不満だ。襲われたほうがいいってわけじゃないんだけど、もうちょっとこうイベントがあってもいい。スザンナ姉ちゃんの水竜は、乗り心地がいいけど、緊張感がないと眠っちゃう。


 ここは話をして少し気を紛らわせよう。


「今日の夜には町に着くんだよね? なんて町?」


「実は私も知らない。クル、この次の町はなんという名前?」


 馬に乗ったクル姉ちゃんが、アンリ達が乗っている水竜の近くに寄ってきた。


「ヴァルトって町だよ。そこを出ると、三日くらい町はないから準備をしっかりね……とはいってもアンリ達は空間魔法を付与されたポーチを持ってるから、帝都で準備が終わってるんだけどね」


 それはそのとおり。アンリとスザンナ姉ちゃんは一ヶ月くらい野宿しても平気なくらい準備してある。そのポーチが無くなったら大変だけど。


 でも、これで話が終わったら意味がない。もうちょっと色々聞いてみよう。そもそも護衛役として色々な情報を知らないのは良くない。


「どんな町なの?」


「どんな町と言われても普通の町としか答えられない――ああ、そうだ。ベルトアの故郷だから、聞いてみよう。ベルトア!」


 今度はベルトア姉ちゃんが近くへやってきた。というか、レイヤ姉ちゃんも来たみたいだ。アンリが言ったことではあるんだけど、護衛は大丈夫なのかな?


「呼んだか?」


「ヴァルトの町ってベルトアの故郷だよね? どんな町かアンリが知りたいんだって」


「いや、護衛中だろうが……そろそろ昼にするか? この辺なら魔物もいないだろうし」


「スザンナがいるから気を抜いてたよ。そうだね、バランさんに話をしてくる」


 クル姉ちゃんがバランおじさんの許可を得て昼食になった。


 普通は護衛対象と一緒に食事をすることはないんだけど、バランおじさんが一緒に食べようと提案してきて、今は全員が車座になって昼食を食べている。


 昼食とは言っても、保存食であるちょっと硬めの干し肉だ。すごく顎が鍛えられる。ニア姉ちゃんの料理が恋しい。あとお母さんの熱いスープも。


「それでアンリちゃんはヴァルトの町について知りたいのかい?」


「うん、どんなところ?」


 本当は眠気覚ましに聞きたかっただけなんだけど、護衛役としてちゃんと確認するべき。


「どんなところって、普通の町だね。特産物があるわけでもないし、近くにダンジョンがあるわけでもないから冒険者も少ないかな。ま、何もない田舎だから私もそこを飛び出して帝都へ来たんだけどね」


「そうなんだ?」


「特産物はないが、ここはある人達にとって聖地と言われておるぞ」


 バランおじさんがいきなりそんなことを言った。


 その言葉にベルトア姉ちゃんはちょっとだけ眉をひそめた。それにバランおじさんの護衛さんもちょっと顔をしかめている。あれはどういう感情なんだろう?


「ある人達って誰のこと?」


「一つは聖人教。もう一つは魔族の強さに魅入られた人達、だな」


「えっと、どういうこと?」


「昔、と言っても七、八年前か。その町は魔族によって壊滅的な被害を受けた。今のディーン皇帝陛下ではなく、前皇帝の頃の話だがな」


「そんなことがあったんだ? 何があったの?」


 あの頃ってフェル姉ちゃん以外の魔族がいたのかな? もしかしてドレアおじさんのこと?


「当時の皇帝を挑発した魔族がいてな、その魔族を殺すために三万の兵士を送ったんだ。その兵士達が逗留した、というか戦場にしたのが、その町だったわけだ」


 三万……? どこかで聞いたことがある。


「その魔族は一人だった。その魔族に兵士達は戦いを挑んだのだが――」


「どうなったの?」


「簡単に言えば壊滅だ。三万もいた兵士達はその魔族一人に負けた。それだけではなく、町の住人も巻き込んで壊滅したと言われている。まあ、壊滅とは言っても、死んだわけではないぞ。なぜかその場に女神教の聖女――今では聖人教の聖母だが、その方が兵士や町の住人を治した」


 リエル姉ちゃんが出てきた。となると、その魔族ってフェル姉ちゃんだと思う。


「そのせいで、町を壊滅させた魔族の力に憧れる人達と、奇跡ともいうべき癒しの力を見せつけた聖母の聖地となっているって話だ」


 すごく知ってる話だった。アンリはそれを見ていないけど、ディア姉ちゃんからそれっぽい話を聞いたことがある。


 スザンナ姉ちゃんの方を見ると、「うん」と頷くのが分かった。そしてクル姉ちゃんもちょっと笑って頷いている。


「あの、でも、それは嘘じゃないかって話がありますよね? 桁が二つくらい多いって。本当は三百人とか」


 レイヤ姉ちゃんがそんなことを言いだした。確かに聞いただけだと嘘っぽい内容だ。一人で三万を相手にして壊滅って。フェル姉ちゃんを知っていると桁が二つ増えても平気そうだけど。


「儂はそれを見ていないので何とも言えんな。ただ、その時の兵士達に話を聞くと、だれもが震えあがって何も言わなくなるんだ。うちの護衛みたいにな」


 バランおじさんは連れてきている護衛さんの方を見てそんなことを言った。護衛さんは、大きく息を吐いた。


「桁が二つ多いと言っているのは、当時その戦いに参加していなかった兵士達ですよ。ルハラ帝国の騎士団がそんな負け方をしたなんて信じたくないんでしょうね。ですが、間違いなく三万の兵士を一人の魔族が壊滅させました」


 護衛さんはブルリと震えた。


「怖かったですね――いえ、今でも少し怖いです。あとから聞いた話だとユニークスキルだったらしいですね。血が地面を這ってくるようなイメージで、その血に触れるとかなり重めの風邪を引いた感じになり、立っていられなくなるんです。隊列を組んでいた兵士達が何もできずにバタバタと倒れていくのは今思い出しても震えが来ます」


「そ、そんなにすごかったんですか……」


「あれで兵士を辞めた人達もいます。私もその一人です」


 フェル姉ちゃんはなんてことをしたんだろう。アンリが謝っておいた方がいいのかな?


「えっと、その魔族の人を恨んでる……?」


「いえ、そんなことはないですよ。確かにその時は恐慌状態になりましたが、当時の皇帝はもっとひどい感じでしたから。その皇帝をディーン様と共に倒したという話を聞きましたし、最初は町を巻き込みたくないからもっと広い場所で戦おうと提案していたみたいで、少なくとも兵士以外は傷つけたくないという魔族だったのかと思い直しまして。それに私は見ていませんが、なぜかお仲間の女性に説教されていたらしくて。町のど真ん中で正座させられていたとか」


 意外とフェル姉ちゃんのことを嫌ってはいないみたいだ。でも、説教?


「それに聖母様に治癒魔法をしてもらいましたからね、あれは一生の記念です。優し気な顔で苦もなく広範囲に治癒魔法を使う……私には女神様に見えましたね。あの事があって兵士を辞めましたが後遺症はありませんよ」


 リエル姉ちゃんがいい仕事をしてる。リエル姉ちゃんは、見た目だけは完璧だから知らない人が見たらそう見えるんだろうな。とにかく、フェル姉ちゃんが嫌われてなくて良かった。


「私も当時、町にいたんだけど、なぜか家の中まではそのスキルが及ばなかったようで事なきを得たよ。まあ、外にいた人達が大変なことになってたから、それを見て結構ショックだったけど……ご先祖様達はよくあんな魔族と何百年も戦ってたよなぁ」


 ベルトア姉ちゃんは町にいたんだ? アンリも一度、フェル姉ちゃんのユニークスキルを見たいな。受けたくはないけど。


「さて、それじゃ、そろそろ出発しようか。今日中にはヴァルトの町に着きたいからね」


 クル姉ちゃんの提案で出発することになった。


 準備をしてからスザンナ姉ちゃんと一緒に水竜に乗る。


「あれってフェル姉ちゃんのことだよね?」


「そうだね。あの人は知らないみたいだけど、フェルちゃんはただの魔族じゃなくて魔王だから、三万程度じゃ止められないかな」


 フェル姉ちゃんに勝つには三万の兵士にも勝てるくらいじゃないとダメなのかも……アンリと戦う時はユニークスキル無しでお願いしよう。もしくは人がたくさんいるところで戦えばユニークスキルは使わないかな?


 うん、純粋に力だけじゃ勝てそうにないから策を考えようっと。


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