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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十五章

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紅蓮の宴

 

 今日は紅蓮の施設で宴だ。


 名目としてはルート兄ちゃん達の救出と運営資金調達おめでとうといったところ。


 だけどもう一つある。紅蓮に新しい仲間が加わった。それは当然、スザンナ姉ちゃんとアンリ。つまり、今日の宴の主役はアンリ達だと言ってもいい。


 昨日、あの後、色々あったけどアンリ達は正式に紅蓮の一員になった。


 クル姉ちゃんは色々渋っていたけど、「アンリ達は親友だよね?」という言葉にノックダウン。「脅された」って言ってたけど、なんて人聞きの悪いことを言うんだろう。これは友情を盾にした交渉。脅しなんかじゃない。逃げられない感じの言葉ではあると思うけど。


 クル姉ちゃんは「村長さんに怒られちゃうなぁ」とか困った風に言ってたけど、嬉しそうにもしてたから問題ないと思う。


 問題はアンリ達だ。


 あのままの勢いでおじいちゃんに念話した。おじいちゃんにはちょっと理解が追いつかなかったみたい。返答がなかったから、今度はお母さんに念話した。


 ものすごく大きなため息をつかれたけど、しばらくは認めてもらえたんだと思う。でも、誰かをこっちに送って状況を見るって言ってたかな。だれが来るのかは知らないけどアンリ達がちゃんと傭兵をやっているって見せておかないと。


 そんなわけで今日からアンリもスザンナ姉ちゃんも紅蓮に所属する傭兵だ。とは言っても今日は特にすることなし。夜から始まる宴まで部屋で休憩だ。スザンナ姉ちゃんも昼食をとったらすぐに寝ちゃってるし、アンリも宴までに体力を回復させておこう。




 夜になったら宴が始まった。


 最初にアンリとスザンナ姉ちゃんが紅蓮の一員になったという報告でものすごく盛り上がった。


 救出されたルート兄ちゃんも主役なんだけど、アンリ達が加入するってことのほうが盛り上がった。つまり主役を食ったということ。今後もそういうのを目指していきたい。


 その後、アンリ達はクル姉ちゃんのそばで宴料理に舌鼓。お城から料理人が来ててたくさん料理を作ってくれているみたいだからしっかり食べる。


 確かに美味しいけどやっぱりニア姉ちゃんほどじゃない。でも、これはこれで美味しい。


 食事をしながらクル姉ちゃんに紅蓮のことを教えてもらっている。クル姉ちゃんとお話をすることで、アンリ達に近寄ってくる団員さん達を牽制する効果もあるみたい。


 たぶん、クル姉ちゃんがいないとアンリ達はもみくちゃ。しばらくはみんなをアンリ達に近づけないようにするって方針らしい。


 理由は分かる。


 スザンナ姉ちゃんは強いし美人。男の人どころか女の人まで虜にしてる。モテモテだ。意外とアンリもモテモテだけど、スザンナ姉ちゃんには及ばない。悔しいとも思えないほどの戦力差がある。数年経てばアンリも戦えるくらいの美人さんになれるかな?


 それはいいとして、クル姉ちゃんに色々と説明を受けた。


 紅蓮は大規模な傭兵団で全員だと千名くらいいるみたい。ただ、常時本部にいるのは二百人くらいでほとんどは帝都以外で頑張っているとか。


 男女の比率は八対二くらいで、女性の傭兵さんは結構少ない。それでも二百人はいるみたいだけど。


 アンリ達は女性だけの部隊である戦乙女部隊というところに所属することになった。この部隊はクル姉ちゃんが隊長をすることになってる。いままではベルトア姉ちゃんが隊長だったんだけど、クル姉ちゃんが戻って来たから隊長の座を譲るみたいだ。


 そしてアンリ達はクル姉ちゃん直属のチームになるみたい。それにアンリ達は命令系統も違うとか。かなり優遇されているけど、アンリはともかくスザンナ姉ちゃんに命令を出せる人がいないので、仕方ない感じだ。たしかにアダマンタイトの冒険者に命令するのは気が引けるかも。


 色々教わったところでクル姉ちゃんがアンリ達を見た。


「もう一度聞くけど、アンリもスザンナも本当に良かったの? いや、嬉しいんだよ? 二人が紅蓮に所属してくれるなんて最高の結果だとは思ってる。でも、色々と将来が心配だよ」


「クル姉ちゃんは気にしなくていい。これはアンリ達が決めたこと。アンリもそろそろ色々なことを経験しておいた方がいい。ちなみに勉強をしたくないから帰りたくないってわけじゃないからそこはきちんと理解して」


「……まあ、そんなことだとは思ったよ。それはいいけど、いつか私、村長さんに怒られるんだろうなぁ……というか、フェルさんに怒られそうなんだけど……何かあったらちゃんとフォローしてよ?」


「クル姉ちゃんに無理やり誘われたって言うから安心」


「安心なのはアンリとスザンナだけだよね!? ……でも、しばらくは一緒だから嬉しい。マナをソドゴラ村に一人だけ残しちゃったからちょっと申し訳ないんだけどね」


「念話で状況を伝えたから大丈夫。マナちゃんは分かってくれた」


 マナちゃんはそれならってことで、アビスちゃんのダンジョンへは行かずに治癒魔法の勉強に専念するって言ってた。孤児院で冒険者さんたちに治癒魔法を使ってお金を稼ぐみたいだ。


 次に会う時は成長したマナちゃんをみせるって鼻息を荒くして言ってた。でも、それはアンリも同じこと。次に会う時はバージョンアップしたアンリをマナちゃんに見せよう。


「クル――ああ、アンリちゃんもスザンナちゃんもここにいたのね」


 ウル姉ちゃんだ。そのウル姉ちゃんはアンリとスザンナ姉ちゃんを見て微笑んだ。


「アンリちゃん、エルフの村でのことって覚えてる? 結構前のことだけど」


「うん、覚えてる」


「あの時のアンリちゃんの作戦が今のルハラ帝国を作っているかと思うとなんだか変な気分ね」


 そういえば、アンリが作戦みたいなものを語った気がする。でも、あのときはその後のフェル姉ちゃんに完敗。アンリは帝位を簒奪してもクーデターが勃発して流浪の民になる未来だった。次があるなら気を付けよう。


「それで、あの時、アンリちゃんを紅蓮に迎え入れようって話があったんだけど、それも覚えてる? 今になってそれが叶ったのかと思うと不思議な縁よね」


 良くは覚えてないけど、そんなことを言ってた気がする。参謀として迎え入れたいとか。そう思うと確かに不思議な縁。


「うん、不思議だけど、これからスザンナ姉ちゃんと一緒にお世話になります」


「ご丁寧にありがとう。でも、私はすでに紅蓮を抜けているから、あまりお世話はできないかもね。ベルやロックも同じ。私達はディーンの下で親衛隊をやってるから。紅蓮と縁を切ったってわけじゃないけどね」


 そういえばそうだった。スザンナ姉ちゃんみたいなクールビューティのベル姉ちゃんと、上半身裸のロック兄ちゃんは紅蓮を抜けたとかクル姉ちゃんが言ってたっけ。


「そうだ、言うのが遅くなったけどルートを助けてくれて本当にありがとう。私達がやれれば良かったんだけど、立場上助けに行けなかったのよ。本当に助かったわ」


 ウル姉ちゃんはアンリ達に頭を下げた。


 元紅蓮だとしても、今はディーン兄ちゃんの親衛隊をやってるわけだし、そう簡単にダンジョンへは行けないのかも。なんとなく事情は分かる。


「気にしないで。アンリ達はクル姉ちゃんの親友。だから助けた。ウル姉ちゃんに頭を下げられる理由はない。この宴の料理で十分」


 アンリがそう言うと、ウル姉ちゃんは少しだけぽかんとしてから笑い出した。


「アンリちゃんはフェルに似てるわね。ディーンが帝位を奪い返した直後にフェルもそんなことを言ってたわ。頭を下げられても嬉しくないとか、料理の約束は守れよとか」


「それはアンリにとって最高の褒め言葉」


 フェル姉ちゃんと似ているって言われると嬉しい。アンリもいつかフェル姉ちゃんみたいになりたい。


「喜んでくれたのなら嬉しいわ。それじゃ今日は何でも好きな物を食べてね。ディーンからも二人にはどんなことでもしてあげるように言われているから。それじゃクル、あとは頼んだわよ。私はルートのところへ行ってくるから」


「うん。そういえば、ベル姉さんとロックは?」


「私より先に来てるはずなんだけど、今は見えないわね……なんか最近あの二人一緒にいることが多いのよね。まあ、別にいいんだけど、なんというか、焦るわね……」


 ウル姉ちゃんは複雑そうな顔をしてからルート兄ちゃん達のほうへ足を向けた。


 そしてクル姉ちゃんもなぜか難しい顔をしてる。


「クル姉ちゃん、どうかした?」


「うーん、ベル姉さんとロックがいい感じっぽいんだよね。でも、ベル姉さんってロックを毛嫌いしてたところがあるからちょっとどうなんだろうって――まあ、どうでもいいよね。ほら、アンリもいっぱい食べて。スザンナもさっきから黙々と食べてるし」


 スザンナ姉ちゃんは食べてたピリ辛骨付き鶏肉の骨をお皿に置いてから布で口を拭いた。


「辛い料理って意外と好きかも。ディアちゃんみたいに激辛料理は食べられないけど、これなら結構いける」


「あ、本当? 自国の料理を美味しいって言われるのはなんか嬉しい。好きなだけ食べて」


「いただく。アンリはあまり食べてないね。辛いの苦手?」


「そうでもないんだけど、こう変化が欲しいところ。ちなみにデザートとか出る?」


「さすがにソドゴラみたいにリンゴは出ないよ? あれって大陸の西側じゃほとんど出回ってないし。でも、最近、ウゲン共和国からパイナップルって言う黄色い果物が流通するようになって結構おいしいらしいよ。すごく甘いんだって。たまに酸っぱいらしいけど」


「それは良い情報。早速食べよう」


「まあ、待って。実はもっとすごい情報があるんだ」


 クル姉ちゃんがニヤリと笑った。


「なんと今日はアイスクリームもあるみたい。それにパイナップルをトッピングするとか聞いたよ」


「なんて素敵。パイナップルのイメージがないからよく分からないけど、甘いものに甘いものを組み合わせたら、それは最高だと思う」


「だよね! でも、そういうのはみんな狙ってるから注意してね。こういう時はたとえ仲間でも敵だから」


「ものすごく短い言葉なのに矛盾してるけど意味は分かる。ここはチームを組もう。妖精愚連隊の力を見せつける」


 デザートで後れを取るわけにはいかない。たとえ修羅となってもデザートを勝ち取るぞ。




 宴が終わってからスザンナ姉ちゃんと部屋に戻ってきた。


 今日はこのままもう眠る。ちょっと食べ過ぎたのとデザートで本気を出しすぎちゃったから疲れた。


 スザンナ姉ちゃんにおやすみなさいを言ってからベッドにもぐりこむ。そして寝る間で色々考える。


 アンリとスザンナ姉ちゃんは紅蓮に所属することになった。


 長い時間、おじいちゃん達が近くにいないところで何かをするのは初めてだ。でも心配はしてない。なんてったってスザンナ姉ちゃんがいるし、クル姉ちゃんもいる。傭兵団の人達もみんないい人っぽいし、傭兵稼業も楽しそう。


 これからアンリは傭兵だ。具体的に何をするのかは知らないけど、たぶん、楽しいことだと思う。明日からクル姉ちゃんが色々教えてくれるみたいだからしっかり教わろう。


 傭兵王って言われるくらい頑張ろうっと。


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― 新着の感想 ―
[一言] おはようございます。 更新ありがとうございます。 村からの脱走ではなく、勉強からの逃走でした。 色々な伏線の回収と、本編の裏側のお話が読めて楽しいです。 なんだかアンリの修業というよりは、…
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