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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十五章

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領域侵食

 

 アンリの勘が囁く。


 これは悪い剣。しかもフェル・デレよりも強いなんて嘘を吐くにもほどがある。たぶんだけど、ルート兄ちゃん達が剣に操られていたのはこの剣のせいなのかも。なら、アンリがこの剣を破壊する。


『面白い。我が思考誘導を撥ね退けるか。さすがは因子を持つ者だな』


「何を言っているのか分からないけど悪い剣なのは分かってる。ここで朽ち果てて」


『それは断る。ようやく我に見合う体が手に入るのだ。お前ほどの力を持つ体なら死ぬまで戦い続けることも可能だろう。お前の体を使って破壊と殺戮をまき散らす。それが我が使命なのだ』


 やっぱり悪い剣だ。ここで壊しておかないと大変なことになりそう。ならアンリがここで破壊する。


「アンリはそんなことしない。貴方に触れることなく破壊する。観念して」


『残念だがそれは無理だ。思考誘導を撥ね退けたまではいいが近くに寄り過ぎたな。お前の体はすでに捕らえた』


 いけない。アンリの体が勝手に動く。さっきまでのなんとなくそうしなきゃいけないっていうレベルじゃなくて、物理的に動かされている。アンリの意志で体が動かせない。


『近くまでくれば我が念動力で引き込むことが可能だ。さあ、我を手に取れ。お前の体を寄越すのだ。体が崩壊する寸前まで我が使ってやろう』


 かなりピンチ。アンリの体が勝手に動く。さっき走ってここまで来ちゃったからスザンナ姉ちゃん達を思いっきり引き離しちゃったし、どうしよう?


『さあ、もう少しだ。安心しろ、お前の体はこのフラガラッハが十全に使って――なんだと!?』


 あれ? なんだか、体を動かせる感じがする? というよりも抵抗できるようになった?


『お、お前! なぜ抵抗が――そうか! その剣の仕業か! すでに思考プログラムを持つ剣を持っていたか!』


 え? フェル・デレのこと?


『おのれ! 我をハッキングする気か!? 造られて間もない貴様ごときに我が負ける訳が……!』


 よく分からないけど、フェル・デレが戦ってる?


『き、貴様、一体、どれほどの魔素を――我が――領域が――食いつく――されて――』


 いつの間にか声が聞こえなくなっちゃった。それにアンリの体も動く。もしかして、フェル・デレが勝った?


 フェレ・デレを見たけど特に何も変わっていない。綺麗な剣の表面にアンリの顔が映るだけだ。


「アンリ!」


 剣を見ていたらスザンナ姉ちゃんが走ってきた。その後ろにはクル姉ちゃん達もいる。


「アンリ、どうしたの? いきなり走り出すから驚いた」


「この剣に操られていたっぽい。でも、フェル・デレが守ってくれた。今はもう大丈夫」


 アンリがそう言うと、みんなびっくりしたみたいだ。実はアンリもびっくりしてる。よく考えたらなかなか得難い体験だった。自分が自分じゃないような感じはああなるんだ?


「スザンナ姉ちゃん、アンリは大丈夫だから」


 スザンナ姉ちゃんがアンリの体をべたべた触って怪我がないか調べてる。くすぐったい。


「ここまで来ちゃったのならちょっと調べてから帰ろうか。スザンナのチェックは時間がかかりそうだからね」


 クル姉ちゃんの提案にルート兄ちゃんはしぶしぶだけど認めてくれた。若い傭兵さんはちょっとだけ嬉しそうだ。


 クル姉ちゃんが周囲に分析魔法を使って調べ始めた。もちろん、その剣にも分析魔法を使っているみたいだ。


「アンリ、何があったのか教えて」


 一通りアンリを調べ終わったスザンナ姉ちゃんに今までのことを説明した。そしてフェル・デレを掲げる。


「やっぱりアンリの魔剣フェル・デレは最強だった。その辺の剣には負けない」


「そこに刺さってる剣も、フェル・デレも意思のある剣ということ? それは驚き」


 スザンナ姉ちゃんの言葉にルート兄ちゃん達が驚いてる。


「インテリジェンスソードと言うことか。滅多にお目にかかれるものではないんだがな」


 意思のある剣をインテリジェンスソードって言う。つまりフェル・デレにも意志がある。いつかタンタンちゃんみたいにお話できるのかな? というか、今もお話できる?


「フェル・デレはしゃべれる?」


 ……特に反応がない。お喋りはできないってことかな? アンリを守ってくれるだけでも十分だけど、お喋りでできたらもっと楽しいのに残念。


「長い年月をかければいつか話してくれるかもしれないな。大事にしていた武具の声を聞いたことがあるというのはお年寄りに多い。人の一生をかけるくらいの年月がなければ話はできないのだろう」


 アンリもいつか歳を取ったらフェル・デレとお話ができるってことなのかな。タンタンちゃんは元々しゃべれる武器だったっていうからフェル・デレとは違うのかも。どちらかというと、この刺さっている剣とタンタンちゃんが一緒なのかもしれない。あとでフェル姉ちゃんかアビスちゃんにちゃんと連絡を入れておこう。


「調べ終わったよ」


 クル姉ちゃんの分析魔法が終わったみたいだ。


 結果からいうと、この剣はもうタダの剣みたいだ。とくに何の効果もなく普通の剣みたい。ただ、状態が「領域侵食による崩壊」ってことになってるみたい。


 たしかこの剣もそんなことを言ってたかな? 食い尽くされるとか。それが領域侵食とかいう状態なのかも。


 フェル・デレは結構すごい性能だった。さすがフェル姉ちゃんの名前を持つ剣だ。アンリの命名だけど。


 そして残念がっているのは若い傭兵さん。高く売れると思ったけどそんなことはなかった。たぶん、これがインテリジェンスソードだと分かっていたからシシュティって人も大金貨を千枚も出すって言ったんだと思う。タダの剣ならそんなにお金を出すとは思えない。


 フェル・デレのせいではあるんだけど、その剣は悪い剣なんだから仕方ない。だいたい、破壊と殺戮をまき散らすなんてやっちゃいけない。やっていいのは相手がピーマンのときだけ。


「まあ、ちょっと待って。がっかりするのはこの話を聞いてからだよ」


 クル姉ちゃんが笑顔でそんなことを言った。皆が不思議そうにクル姉ちゃんを見る。


「剣に価値はなさそうだけど、この台座はかなりの値打ちだね。ちょっと重いけど、亜空間に入れちゃえば重さは関係ないし、かなりの値段で売れるかも!」


 そういえば台座がかなり豪華だった。確かにこれなら高く売れるような気がする。これなら赤字にならないのかな?


 一瞬だけ傭兵さん達の動きが止まったけど、次の瞬間には大喜びだ。ルート兄ちゃんはそんなことないけど、嬉しそうなのは間違いない。


「スザンナさん、アンリちゃん、改めてありがとう。これで少しは紅蓮も持ち直せると思う」


「これはアンリの暴走が原因。本来はあんなことしちゃダメなんだからお礼は言わないで。アンリも自分のおかげとか思っちゃダメだよ」


 スザンナ姉ちゃんは厳しい。でも、その通りだと思う。それにフェル・デレがなかったらアンリは操られてた。よくよく考えるとアンリは何もしてない。謙虚にいよう。


「うん、これは偶然が重なっただけ。お礼はいらない。それに冒険は帰るまでが冒険。浮かれないように気を付けるべき」


 そういうとルート兄ちゃんは笑った。


「確かにその通りだな。帰りも気を引き締めないと。よし、お前達。ここには他にも色々あるが触るなよ。この台座を持っていけばそれなりになる。今回はこれで十分だ」


「団長。念のため、この剣も持っていきますか? ダメ元でシシュティに売りつけましょうよ」


 若い傭兵さんが剣を指しながらそんなことを言った。もう壊れた状態だから大丈夫かな? でも、持っていくならアンリの出番だ。


「それならアンリが持ってく。大丈夫だとは思うけど、いざという時でもフェル・デレが守ってくれるから」


「やめて。それは私が水を使って亜空間に入れておくから」


 スザンナ姉ちゃんはすぐに水を使って剣を亜空間に入れちゃった。もう大丈夫だとは思うけど、スザンナ姉ちゃんは心配性だからお任せだ。


 さあ、今度こそ帰ろう。


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