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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十五章

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あやつり人形

 

 地下墳墓の地下十六階層までやってきた。


 なぜかここから雰囲気が違う。


 地下十五階層までは天井も低いし、石でできた通路だったんだけど、ここからはなにか形容しがたい壁だ。ただ見たことはある。アビスちゃんのエントランスに使われているような材質だ。なんだっけ、漆喰? その白い漆喰の壁が続いてる。


 それに壁がほのかに光ってる? 光球の魔法がいらないくらいだと思う。念のため光球はそのままだけど、消えてもたぶん大丈夫だ。


「スザンナ、アンリ。ここからはもう一段階警戒を強めて。ルート達が先行しているとはいっても、ここは未踏領域。何があるか分からないから」


「ここはアビスのダンジョンに似てる。もしかすると、アビスみたいに意思がある何かがいるかもしれない。二人ともあまり離れないように」


 クル姉ちゃんとスザンナ姉ちゃんから緊張感が伝わってくる。ここからが本番なのかも。アンリもちゃんと警戒しておこう。


 いつもどおり、スザンナ姉ちゃんが水のトカゲを放った。まずは情報収集だ。


「これまでの階層よりも範囲は狭いね。基本的には一直線。途中にいくつか部屋っぽいものがあるけど、中はなにもない」


 先に進むだけなら簡単ってことなのかな? でも、魔物はいるのかな? ここまで来るにはかなりのゾンビがいたけど。


「魔物はいるの?」


「魔物もいないみたいだね。上の階までは結構ゾンビとかが多かったんだけど、この階には誰もいないみたい。それでも一応注意しながら進もう」


 スザンナ姉ちゃんの言葉に頷いてから、三人で先に進んだ。




 ちょっとだけ拍子抜け。行けども行けども何もないし誰もいない。一直線の通路とその先にある階段。ずんずん進んでもう地下二十階層だ。


 アンリが不思議に思うように、スザンナ姉ちゃんもクル姉ちゃんもちょっとおかしいって思っているみたい。


「階段を降りてるけど、本当に進んでるのかな? なんというか、同じところを延々と移動してない? 転移の罠とかに引っかかってるのかな?」


「魔力を感じないからそれはない。同じ通路が続いてはいるけど先には進んでる。もし同じところを移動してたら、階段の近くに残してるトカゲがいるはず。いないってことは別の階層」


 スザンナ姉ちゃんはいつの間にかそんなことをしてた。それなら先に進んでいるんだと思う。でも、これだと進んでいないように錯覚しちゃう。もしかしたらそういう罠ってことなのかな?


「スザンナは抜け目ないね。でも、そうだったんだ? それならそれでここは何なのかな? 明らかに上の階層とは別物なんだけど、ここが何なのか全く分からないね?」


 確かに分からない。でも、アンリは少しだけ情報がある。フェル姉ちゃんやアビスちゃんの話を聞いていると何となくだけど、そう思う。


「もしかしたら違う世代の遺跡なのかも。アンリの知識だと、ここは第二か第三世代の遺跡だと思う」


 アンリの言葉にスザンナ姉ちゃんもクル姉ちゃんも考え込んじゃった。


 考え込んでいたクル姉ちゃんがアンリのほうを見た。


「アンリ、ここでは念話できる? 上の階層では無理みたいだけど、ここならどうかな?」


「ならちょっとクル姉ちゃんに念話を送ってみる」


 ……ダメ。全く気付いてない。


「クル姉ちゃんに念話を送ったんだけど、ダメみたい」


「うん、確かに念話は聞こえなかった。それじゃ、ヴァイアさんに作ってもらったっていう念話用の魔道具はどう? 亜空間に入れてるよね? あれならもしかすると念話の妨害に影響されないかも」


「持ってきてるけど、ここから誰に念話するの?」


「もちろんアビスだね。アビスは地下墳墓を普通の遺跡とか言ってたけど、ここは明らかに違うよね? アビスに念話が届くなら色々やってくれるかもしれないし、なにか分かるかも」


 それは盲点だった。確かにここが普通の遺跡じゃないならアビスちゃんの力を借りられるかもしれない。こういう不思議な場所はアビスちゃんの専門だ。


 ヴァイア姉ちゃんから貰った鉄の板っぽいものを取り出す。そしてアビスちゃんに念話を送った。


 ……残念、こっちもダメだ。


「ダメっぽい。アビスちゃんからの返信がなかった」


「ダメかぁ。なら私達で何とかするしかないね。まあ、今回は調査じゃなくて救助だから、余計なことはせずにルートを見つけたらすぐに帰ろう」


「それがいい。もう少し進んでみよう。次が二十一階層になるわけだから、なにか変わるかもしれない。次の階層でなにも変わらないようならちょっと考えよう」


 希望的観測だけど、スザンナ姉ちゃんの言う通り。まずは進んでみよう。




 第二十一階層にやってくると今度はかなり広い通路に出た。いままでは単に同じ通路の階層が続いていただけでちゃんと先に進んでいたみたいだ。でも、ここはなんだろう?


 上の階層とまた変わった感じ。壁や床が金属でできてるみたいだ。それに奥の方から地響きのような音が聞こえてくる。ちょっと不気味。それに少しだけ気持ちが悪い。なにか嫌なものが近くにある気がする。


「この階層を調べるからちょっと待って」


 スザンナ姉ちゃんがまた水のトカゲを放つ。複数のトカゲさん達が広い通路の奥へ向かっていった。


 しばらくするとスザンナ姉ちゃんが顔をしかめる。


「スザンナ姉ちゃん、どうかした?」


「トカゲがやられた。奥に扉があってその部屋に誰かいるみたいなんだけど、あれって……」


「もしかしてルート達!?」


「そうかもしれないけど、ちょっと変な感じだった。警戒しながら向かってみよう」


 三人で広い通路を歩く。


 かなり進むと、通路の奥に両開きの扉が見えた。地響きのような音もこの部屋から聞こえてくる。なんとなくだけど扉に近づくと嫌な感じがする。入っても大丈夫なのかな?


「クル、アンリ、扉を開けるけど、気を付けて」


 クル姉ちゃんと一緒に頷く。念のために魔剣フェル・デレを構えておこう。


 扉を開けると、部屋の中は形容しがたい場所だった。


 以前、フェル姉ちゃんに教えてもらったような場所と言えばいいのかな?


 大きな円柱のガラスに緑色というか、ちょっと変な色の水がたくさん入っている。それがたくさんある場所だ。研究所とか言う名前の場所だと思う。


 そして円柱の中には剣が入ってるものがある。緑色の水な上にゴポゴポと泡がたくさんあるから見づらいけど、間違いなく剣だ。なんで入ってるんだろう? 水の中にあったら錆びたりしないかな?


「アンリ!」


「え?」


 スザンナ姉ちゃんの声で気づいた。誰かがアンリに向かって剣を振りかぶっている。でも遅い。相手の剣をフェル・デレで受けた。


 あれ? でも、この人って……?


「ルート! その子は味方だよ!」


 クル姉ちゃんの叫ぶ声がする。よく見ると以前エルフの森で見た人だ。あとから聞いた話だけど、あの時はディーン兄ちゃんの振りをしてたはず。あの頃の面影がある。この人がルート兄ちゃんで間違いない。


 でも、何だろう。目が虚ろだ。それに嫌な感じがする。


「アンリから離れろ」


 スザンナ姉ちゃんのドスの利いた声が聞こえたと思ったら、太い水の柱が目の前にいるルート兄ちゃんを襲った。その勢いでルート兄ちゃんが吹っ飛ぶ。たぶん、十メートルくらいは吹っ飛んだ。


「スザンナ! その人がルートだから!」


「クル、待って。あれは様子がおかしい」


 吹っ飛んだルート兄ちゃんは床に倒れていたけど、腕を使わずに足の力だけで立った。体の重心がおかしい感じに動いてる。なんだかあやつり人形みたいな動きだ。でも、ルネ姉ちゃんの人形より雑。


「ル、ルート……?」


 立ち上がったルート兄ちゃんはものすごい跳躍をしてクル姉ちゃんのほうへ襲い掛かった。


 でも、ジャンプ中にスザンナ姉ちゃんがまた水で吹き飛ばす。今度は空中で吹っ飛ばされたからかなり遠くに落ちたみたいだ。


「ちょ! スザンナ! もう少し手加減して!」


「そんな余裕はない。あれは何かに操られてる。動けないようにするから手伝って」


「わ、分かった。で、でも、できれば穏便に――」


「それは約束できない。危険だと思ったら致命傷になる攻撃も辞さない――だから二人とも力を貸して。怪我はさせるかもしれないけど、なんとか生きたまま捕らえるよ」


「うん、アンリも手伝う。なんとか取り押さえよう!」


 クル姉ちゃんのためにもなんとか少ない怪我で済ませよう。


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