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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十五章

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シシュティ商会

 

 アンリ達は地下墳墓に向けて移動中だ。


 移動手段は馬車。傭兵団「紅蓮」で用意している護衛用の馬車だ。


 昨日はヴィロー商会の本店で食べ物とか薬を準備したあと、紅蓮の寮にお泊りした。スザンナ姉ちゃんと一緒の部屋だ。なんというかいたれりつくせり。傭兵団の人達からいろいろと言葉をかけてもらったり、頑張って欲しいと言われたり、かなり応援された。


 アンリ達はどちらかと言うと部外者なんだけど、紅蓮の人達はそんなことは全く気にせず接してくれた。みんないい人だ。


 それに夜にはクル姉ちゃんのお姉ちゃん達が来た。ウル姉ちゃんとベル姉ちゃんだ。あとロックおじさんも。相変わらず上半身が裸だった。


 さすがにディーン兄ちゃんは来なかったけど、アンリ達が来ているのは知ってたみたい。アンリ達に何かあったらフェル姉ちゃんが殴りこんでくるから絶対に危ない真似はさせないでってウル姉ちゃんを通して伝えられた。確かにその可能性はある。アンリも気を付けよう。


 それはそれとして、ウル姉ちゃんとベル姉ちゃんは寮に来てから、すぐにアンリの説得を始めた。ディーン兄ちゃんの言葉もあるんだけど、やっぱりアンリはちょっと年齢が低すぎるみたい。


 でも、クル姉ちゃんがアンリは強いって言い張った。それにスザンナ姉ちゃんの力を最大限に発揮させるにはアンリが近くにいないとダメだってかなり説得してくれたみたいだ。


 最終的にはしぶしぶ了解してくれた。


 その後、なんとアンリ用のギルドカードを作ってくれた。


 冒険者ギルドが発行しているギルドカードは、色々な機能があって主に受けた依頼の達成状況を確認したり、お金を預けたりできるみたいなんだけど、今回アンリのために作ったカードはそういうのじゃない。


 このギルドカードは冒険者の状況を知ることも可能で、もし死んじゃうと、それが冒険者ギルドへカードを通して連絡してくれるみたい。


 縁起でもない話なんだけど、それのおかげでルート兄ちゃん達がまだ地下墳墓で生存しているのが分かっているとか。


 罠にかかって戻って来れないのか、それとも誰かが危なくて安全地帯から動けないのか、そこまで細かな状況は分からないけど、とにかく生きているということだけは分かる。


 このカードはアンリがそう言うことになった時のための保険みたいなものだとか。生きてるか死んでるかしか分からないというのは微妙な機能だと思うけど、地下墳墓では念話ができない場所だからこういうのも大事みたいだ。


 そんなわけでありがたくカードを貰っておいた。


 なんだかこういうカードを持っているとちょっと一人前になった気がする。ウル姉ちゃん達が冒険者ギルドに圧をかけて作らせたものだから、アンリの実力で手に入れた物じゃないけど結構嬉しい。大事にしよう。


 結構考え事をしてたんだけど、まだ着かないみたい。そろそろお昼になるけどまだかかるのかな?


「クル姉ちゃん、地下墳墓までもっとかかりそう?」


「もうそろそろだよ。ほら、少しだけ地面がぬかるんでいるでしょ? あのダンジョンの周囲は湿地帯だから近づいてきた証拠だよ」


 馬車の窓からちょっと頭をだして外を見ると確かに地面がぬかるんでる。さっきまでは砂というか乾燥した場所だった。確かに近づいているのかな。


「アンリ様、どうかされましたか?」


 馬車の周りには馬に乗った傭兵団の人がいる。アンリに声をかけたのはレイヤ姉ちゃんだ。でも、昨日から少し困ってる。


「レイヤ姉ちゃん、アンリのことはアンリでいい。様はいらない」


「いえいえ、そういう訳にはいきません。ベルトア様を圧倒できるほどの実力を持っている方を呼び捨てなんて、なんて恐れ多い」


 ソドゴラ村だとジョゼちゃん達にアンリ様って言われるけど、あれはアンリがボスだからだ。ここでのボスはクル姉ちゃんなんだから、そのクル姉ちゃんと同じかそれ以上の形で言われるのはちょっと困る。


 まあ、クル姉ちゃんは気にしていないみたいだけど。


 というよりも、ダンジョンに近づいてきたからクル姉ちゃんは緊張してきたのかな。先からちょっと顔がこわばってる。


 ここはアンリがちょっとだけでもリラックスさせよう。


「クル姉ちゃん、ルート兄ちゃん達は無事だから安心して。ギルドカードでも問題なかったから大丈夫」


「そうなんだけど、今の状態が分からないのがすごく心配でね。傭兵でも冒険者でもこういうことはあるって覚悟はしてたんだけど、実際にそうなるとやっぱり辛いよね……こう、最悪のことを想像すると胃がキリキリと痛い感じがするよ」


 ちょっとネガティブになってる気がする。気持ちは分かるけど、なんとかできないかな?


「クル、私とアンリがいるんだから絶対に助けられる。つまらないことを想像してないで救出することだけを考えて。あと、救出後の宴のことについてもね。ソドゴラ村だと結構やってたけど、傭兵団でもやるんでしょ? それはすごく楽しみにしてるから」


「スザンナ……」


「どんなダンジョンなのかは知らないけど、アビスほどのダンジョンなんてあるわけない。二、三日で攻略するつもりで行くよ。ついでにルートって人を助ける。そういう方針だから」


「スザンナ姉ちゃんはいいことを言った。その通り。アビスちゃんのダンジョンよりも最高で最強のダンジョンはない。アンリ達は常に最難関のダンジョンに挑んでたんだから、地下墳墓なんてちょちょいのちょい」


 クル姉ちゃんは少しだけ呆れた感じの顔をしてたけど、笑顔になってから両手で頬を挟むように叩いた。ちょっと痛そう。


「そうだね。マナはいないけど、私達は最高のダンジョンで修行してたんだから、その辺のダンジョンなんて簡単に攻略できるよね。うん、そう思ったら気が楽になったよ」


「その意気。ルート兄ちゃんを救出したら、紅蓮の寮で宴をしよう。ニア姉ちゃんほどの料理はないだろうけど、楽しみにしてるから」


「ニアさんほどの料理は確かにないね。でも、ディーン君にお願いしてお城にいる料理人を貸してもらおうかな!」


 クル姉ちゃんは元気になったみたいだ。さすがはスザンナ姉ちゃんと言うべき。アンリはスザンナ姉ちゃんの言葉に乗っかっただけ。アンリもあれくらいのことをすらっと言えるようにならないと。


 そう思っていたら、外にいる傭兵団の人から着いた旨の報告があった。そして馬車がとまる。


 馬車を降りて周囲を見ると、葉のついていない枯れた木がたくさんある。なんというかしょんぼりした感じの場所だ。それに今日は晴れていたのにこの辺りは曇りで暖かい日差しもない。こんなところにいたら気が滅入りそう。


 そして灰色のレンガでできたボロボロの建物。あの中に地下墳墓の入口があるのかな?


 クル姉ちゃんが馬車を降りると、その建物から何人かの人が出てきた。たぶん、傭兵団の人達だ。クル姉ちゃんが来る前から地下墳墓の低階層でルート兄ちゃんを探しているって聞いた。


 まだ見つかったって話は聞いていないから低階層にはいないんだと思う。


 クル姉ちゃんはその傭兵団の人達と色々話をしているみたいだ。時々、アンリ達のほうを見て驚いた顔になってるけど、一緒に行くことがまだ伝わっていなかったのかな。


「お嬢さん達はこの地下墳墓へ入るのですか?」


 いきなり背後から声をかけられた。振り向くと二十代前半くらいの若い男の人が立っていた。


 スザンナ姉ちゃんがアンリを庇うように前に立つ。


「何か用? そもそも誰?」


「私は商人のシシュティと言います。ダンジョンの入口で商売をすることを生業としておりまして、ご入り用の物があればぜひに、と声をかけていただきました。とはいっても、ここに運んでいる分は割増ですがね」


 なんだろう? 見た目はヴィロー商会にいたバランおじさんよりもいいんだけど、すごく胸がざわつく。アンリの勘がこの人に関わっちゃダメだって言ってる。


「悪いけど準備は万端。入り用の物はない」


 スザンナ姉ちゃんも同じ気持ちなのか、すぐにいらないって断った。


「それは残念です。ああ、そうそう。こういうダンジョンで見つかった物ですが、古いものであれば高額で買い取りますので、ぜひともご検討ください。相場の倍くらいの値段になると評判ですので」


「そう。考えておく」


「はい。では、縁がありましたらまたお会いしましょう」


 男の人は丁寧に頭を下げてから、この場を離れて行った。向かった先は商団……というのかな? 商人さんっぽい人達がたくさんいるみたいだ。


 とりあえず、離れてくれてよかった。なんというかあの人の近くにいると不安になる。不思議。


「あれがシシュティ商会か……」


「スザンナ姉ちゃんはあの人のことを知ってるの?」


「以前聞いた話だけどヴィロー商会と肩を並べるほどの大商会だよ。拠点を持たずにダンジョンの入口でお店を展開しているとか聞いたかな? 露天商みたいな感じ」


「ヴィロー商会と一緒? それはすごい」


「うん。それもあるんだけど、シシュティ商会のトップであるシシュティ――さっきの人なんだけど、謎が多いみたいなんだ」


「そうなの?」


「あの人すごく若そうだったでしょ?」


「うん。二十代くらい――二十代でヴィロー商会と同じくらいにしたってこと?」


 ラスナおじさんよりもすごいってことになるのかな?


「聞いた話だとあの人ってかなりの歳みたいだよ。そもそもシシュティ商会って六十年くらい前からあるらしいから」


「あの人って六十歳以上ってこと?」


「それはないと思うんだけど、色々と不思議な商会ってことかな。悪い噂は聞かないんだけど、いい噂も聞かないから積極的にかかわりたくない、というのが正直なところかな。あまりにも情報がなくて胡散臭いって感じ」


 それは分かる。スザンナ姉ちゃんに同意だ。


「アンリ、スザンナ、こっちの準備は終わったよ。それじゃさっそく中に入ろう」


 クル姉ちゃんの声が聞こえた。


 よし、シシュティ商会については記憶から消そう。余計なことを考えている場合じゃない。


 ここからがアンリ達の本番。慎重に、そして大胆に地下墳墓を攻略する。アビスちゃんのダンジョンで学んだことをここで発揮させるぞ!


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