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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十五章

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強さの証明

 

「アンリさん! 私とも模擬戦をお願いします!」


 レイヤ姉ちゃんがいきなりそんなことを言ってきた。ここはアンリの認識を変えるためにもやっておいた方がいいような気がする。


 アンリは強くなったとは思うけど、まさか同年代の子とこんなに違うとは思ってなかった。というか、十二、十三歳の基準が村に来た頃のスザンナ姉ちゃんしかいないし、村のみんなや魔物さんは本気出したらもっと強い。


 ロモン聖国でバルトスおじさんから一本取ったけど、あれは向こうから攻撃しないように手加減してもらっていたわけだし、村のみんな以外の強さがよく分かっていないのは問題だ。


 村に住んでいる人以外の強さやアンリがどれくらいの強さなのかを再確認するべき。


「うん、レイヤ姉ちゃん。アンリと勝負」


 そういうと周囲から歓声が上がった。結構盛り上がってる。クル姉ちゃんの話だとルート兄ちゃんが危険な状態だから結構暗い雰囲気だって聞いたんだけどそうでもないみたいだ。


 それともクル姉ちゃんが帰ってきたから雰囲気が明るくなったのかな?


 ならアンリも強いことを証明しよう。みんなの強さを確認しつつ、ルート兄ちゃんを助け出せるかもしれないという希望の星にアンリはなる。


 魔剣七難八苦を構える。そしてレイア姉ちゃんを見た。


 レイヤ姉ちゃんも木製の剣を構えている。かなり背が高い。アンリの頭一個分よりもさらに背がある。あの身長から繰り出される剣は重そう。馬鹿正直に剣を受けたら大変な事になる。


 ここは受け流しだ。


 傭兵さんの開始の掛け声と同時にレイヤ姉ちゃんが飛び出してきた。そして基本に忠実な上段からの打ち下ろし。


 アンリはそれを剣で斜めに受ける。それと同時に体を右にずらしながら相手の剣を自分の剣に沿って流すように躱す。


 レイヤ姉ちゃんの剣が地面に叩きつけられた。うん。やっぱり結構強い攻撃だ。


 たったそれだけの攻防だったけど、周囲から感嘆の声が上がった。


 もしかしてこれってすごい技術なのかな? 確かにこれを覚えるのに時間がかかった。でも、これを覚えないとミノタウロスさんの攻撃を受け流せないから必死に覚えたんだけど。


 レイヤ姉ちゃんは剣をもう一度振り上げると、また同じように攻撃してくる。でも、何度やっても同じだ。アンリには効かない。そもそも遅い。しっかりと目で追えるから簡単に受け流せる。


 レイヤ姉ちゃんも受け流されるのは分かっていたみたいで、打ち下ろしだけじゃなくて、横薙ぎもしてきた。


 それも受け流す。攻撃を受け止めるようなことはしない。アンリは体が小さいし腕力もまだまだ。できるだけ腕力に頼らない防御をしないと。


 何度か同じことを繰り返したら、レイヤ姉ちゃんの息が上がってきた。たしか攻撃ってかわされたり、受け流されたりするとそのぶん体が泳ぐから、真正面から受けられるよりも疲れるってゾルデ姉ちゃんが言ってた。たぶん、それが効き始めたんだと思う。


 ならチャンスかも。今度はアンリから攻撃だ。


 一気に間合いを詰めて、短くコンパクトに攻撃。一撃必殺の攻撃じゃなくて相手のスタミナを奪う。致命的にはならないけどそこそこな場所を攻撃して防御させるいやらしい攻撃だ。


 こうやって徐々に相手のスタミナを奪う。たしか体が大きい人は持久力が少ないってユーリおじさんから教えてもらった。大きい人と戦うにはまずはスタミナを奪うのがいいらしい。


 アンリは勝つためなら何でもする女。一撃必殺が信条だけど、勝つためならその信条すら曲げて見せる。だって、そうじゃないとアビスちゃんのダンジョンを進むことなんてできない。


 いつの間にか、レイヤ姉ちゃんは剣を持っている手が下がっていて、大量の汗をかいてる。うん、これ以上はよろしくない。倒してしまおう。


 フェイントのない最速の打ち下ろし。それでレイヤ姉ちゃんの剣を叩き落とした。その瞬間にレイヤ姉ちゃんも膝をついて座っちゃった。


「ま、まいりました……」


 うん、これでアンリの勝ちだ。


 また周囲から歓声の声が上がる。


 とりあえず勝てたけどレイヤ姉ちゃんは同年代と比べるとどうなんだろう? 強い方なのかな?


「えっと、レイヤ姉ちゃんは強い人?」


 レイヤ姉ちゃんは膝を曲げて座り込んじゃってる。肩で息をしているから疲れて動けないのかも。


「あの、それって精神的な追い打ちかなにかですか……」


「そういう意味じゃなくて、アンリはレイヤ姉ちゃんくらいの年齢の人の強さをよく知らないから確認したいだけ」


「そういうことですか。自分は十五歳にしては強い方だと言われてます――いま、アンリさんに負けましたけど」


 ちょっと自虐的。でも、そっか。レイヤ姉ちゃんは同年代に比べると強いんだ。なら勝ったアンリはもっと強いってことかな。


 結論からするとソドゴラ村にいるみんながおかしいんだと思う。フェル姉ちゃんは魔族だし別格だから何の基準にもならないけど、他のみんなに関してもうすうすそんな気はしてた。


 よく考えたら、魔物のみんなでルハラ帝国とかロモン聖国に喧嘩をうって勝てるレベルだった。フェル姉ちゃんが強すぎだから気付かなかったけど、みんなも普通より強いのは当たり前な気がする。


 そんなことを考えていたら、なぜかアンリの周囲でみんなが手を上げていた。


 どうやらみんなアンリと戦いたいみたいだ。リエル姉ちゃんが言ってた人生には三回あるというモテ期なのかも。


 疲れてはいないけど、これ以上やるのもちょっとどうかと思う。一晩寝れば疲れは取れると思うけど、できれば明日のためにも体力は残しておきたい。


「アンリはもう二戦してる。次は私が戦うから希望者は手を上げて」


 スザンナ姉ちゃんがアンリの前に立ち塞がるように出てきた。


 スザンナ姉ちゃんがアダマンタイトの冒険者ってことをみんな知ってるみたいだ。今度は誰も手を上げなくなっちゃった。さすがに模擬戦とはいえスザンナ姉ちゃんといい勝負ができるとは思ってないのかな。


「ロビーにいないと思ったらこんなところにいたんだ?」


 寮の方からクル姉ちゃんが何人かを連れてこっちにやってきた。


 そして状況を見て色々察したんだと思う。一度アンリのほうを見てからみんなを見渡した。


「アンリの強さは分かった? 明日は私とスザンナ、そしてアンリの三人で地下墳墓に行ってくるけど異議はないね? みんなは紅蓮の留守をまかせたよ」


「クルさん。その、アンリちゃんは確かに強かったですけど、あくまでも模擬戦で強いだけでは? 実戦では動けなくなるって話はよくありますし、アンリちゃん以外にしたほうがいいかと」


 傭兵さんの一人がそう言うと、何人かは同意しているみたいだ。確かに今やったのは模擬戦。模擬戦でいくら強くても、実戦で強いかどうかは分からないと思う。


 でも、アンリの場合はどちらかと言うと実戦のほうが強い……と思う。


「ああ、言っておくけど、アンリはどちらかと言うと実戦のほうが強いよ。どんな形で模擬戦をしたのかは見てないけど、はっきり言ってその木の剣で戦っている以上、ものすごく手加減されてるからね?」


 クル姉ちゃんがそんなことを言いだした。アンリの思っていることを言ってくれて嬉しい。


 でも、クル姉ちゃんの言葉にも一部の傭兵さん達は納得していないみたいだ。


「アンリ、フェル・デレを出して」


 クル姉ちゃんの言葉に従って亜空間ポーチから魔剣フェル・デレを取り出した。アンリの背丈よりも大きな魔剣だ。


 一応強いってアピールのために素振り。一度だけ剣を地面ギリギリまで打ち下ろす。剣圧で地面の砂がぶわっとなってちょっと格好いい。


 周囲から感嘆の声が上がった。


「アンリはその剣を持っている時が最強。その剣を装備しているアンリには私でも勝てないから。なんならアンリともう一戦してみる?」


 クル姉ちゃんがそう言うと周囲がざわつき始めた。


 もう一戦くらいならやってもいいけど、戦おうという人はいるかな? このフェル・デレに当たったら痛いと思う。


「なら私が」


 クル姉ちゃんが連れてきた人が前に出た。クル姉ちゃんと一緒に来たってことは傭兵団の幹部ってこと? すごく強そう。この人と実戦形式の模擬戦をするのかな?


 ……ちょっとだけワクワクしてきた。


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