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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十四章

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冒険の始まり

 

 月明かりだけの森で、アビスちゃんとジョゼちゃんがアンリ達の前に立ち塞がった。


 アビスちゃんはともかく、なんでジョゼちゃんがいるんだろう? フェル姉ちゃんと一緒に遺跡に行っているはずなのに……でもそれはいい。さっきの言葉から考えるとアンリ達を止めようとしているだけは分かった。ここはきちんとアンリの意志表示をしておこう。


「アビスちゃん、ジョゼちゃん、アンリ達はこれからルハラへ行く。クル姉ちゃんが困ってるから助ける」


「もう少し詳しく教えてもらえますか?」


 アビスちゃんは興味があるのかな? 問答している暇はないと思うんだけど、ちゃんと話をしておいた方がいいのかも。


 クル姉ちゃんがアビスちゃんに事情を話した。そして最後にアンリとスザンナ姉ちゃんは悪くないってフォローしてくれている。


 アビスちゃんが頷いた。


「そういうことでしたか。行方不明になった方を探すと」


「はい。今、傭兵団は混乱しています。一応私が傭兵団のナンバーツーになるので、私が行かないと収まらないかと。そして探索に関しては信頼できる二人――アンリとスザンナにお願いしました。さっきも言いましたが、アンリとスザンナは悪くありません。私が無理やり連れ出そうとしたんです」


 クル姉ちゃんはアンリ達に非がないことを熱弁してくれている。そんなことしなくていいのに。怒られる時はいつだって堂々と怒られる。いい訳をするのはイタズラの時だけ。


「クル姉ちゃんはそういってるけど、アンリは自分の意志でクル姉ちゃんを助けようとしてる」


「アンリだけじゃない。私もそう」


 アンリの言葉にスザンナ姉ちゃんも便乗してくれた。うん。やっぱりスザンナ姉ちゃんは分かってる。


 アビスちゃんがちょっとため息をついた。


「分かっています。アンリ様もスザンナ様も、良し悪しはともかくフェル様に似ていますからね。知り合いが困っていたら絶対に助けようとするでしょう。ですが――」


 アビスちゃんはちょっと怖い目になってアンリ達を見つめた。


「アンリ様達はフェル様のように絶対的な力を持っているわけではありません。普通に怪我もするし、最悪死んでしまうこともあるでしょう。クル様がおっしゃった地下墳墓、これは人工の遺跡です。私のように疑似永久機関が作り出した亜空間のようなものではない。本当に危険ですよ?」


「それは知らなかったけど、危険なのは承知の上。だからこそクル姉ちゃんはスザンナ姉ちゃんに助けを求めた。でも、スザンナ姉ちゃんはアンリと一緒いるとパフォーマンスが高くなる。だからアンリも一緒に行く」


「安心して。アンリは私が絶対に守る」


「なるほど。ですが、言葉だけでは信用できませんね」


 暗さに目が慣れてきてたけど、一瞬でアビスちゃんが消えた――と思ったら、アンリの目の前にいて手刀を放っていた。でも、アンリに当たる前にスザンナ姉ちゃんが水の鞭のようなもので手刀の動きを止めたみたいだ。


「何の真似?」


「スザンナ様が本当にアンリ様を守れるか試したのです。ですが、もう少し腕前を見せてもらいましょうか?」


 いきなり、スザンナ姉ちゃんとアビスちゃんが戦いだした。


 暗い上に森の中だから動きが少し見えない。でも、いまのところ互角に戦っているみたいだ。


 アビスちゃんはフェル姉ちゃんみたいに格闘技で戦っている。フェル姉ちゃんと違うのは蹴り技があることかな。


 スザンナ姉ちゃんは腰に沢山つけてる管から水を操ってアビスちゃんの攻撃をいなしたり、攻撃したりしている。


「なるほど、なかなかお強いですね」


「そっちこそ」


 二人とも相当強い。でも、どっちも本気じゃない感じがする。お互い相手の力を計っているだけみたいだ。


「アンリ様」


「ジョゼちゃん? 言っておくけどアンリは行くって言ったら絶対に行くつもり。だいたい、フェル姉ちゃんだったら絶対に行く」


「そう言われてしまうと反論できませんね。ですが、アビスが言った通り、フェル様とアンリ様は強さの面において全く違います。アンリ様が足手まといではないと、私に証明してくれますか?」


 もしかしてアンリに戦えって言ってるのかな?


 ジョゼちゃんは魔物さんの中だと最強。アンリが勝てるわけがない。でも、勝つことが目的じゃない。アンリが足手まといじゃないほどの力を見せつければいいだけ。なら可能性はある。


 ヴァイア姉ちゃんから貰った亜空間の袋から魔剣フェル・デレを取り出した。


「本気で行く」


「どうぞ」


 ジョゼちゃんは余裕を見せている感じだ。実際に余裕なんだと思う。アンリとはそれだけの差があるということ。ジョゼちゃんの想定しているアンリの強さ以上を見せつければいいはずだ。


 ここは森の中。はっきり言って横斬りは無理。縦斬りしかない。


 ならあれだ。勇者のバルトスおじさんから一本取ったアンリスラッシュ。超高速で相手に近づき一刀のもとに斬り捨てる。


 あれから六年近くたった。あの頃のアンリスラッシュじゃないことをジョゼちゃんに見てもらおう。


 魔剣フェル・デレを右肩に担いだ。


 そしていつもつけてる重力魔法が付与された魔道具ジュウリョ君に魔力を送らないようにした。これでアンリは身軽になる。最近ずっとつけっぱなしだから、軽くなったのは久しぶり。


 さらに速度が上がる腕輪スバヤさんに魔力を込める。あのころとは違って今は三回使える。


 全力でアンリスラッシュをするのは久しぶりだ。でも、ジョゼちゃんなら大丈夫だと思う。本気でやろう。


 一度だけ深呼吸。そして飛び出した。


 一瞬でジョゼちゃんの前に移動した――そしてジョゼちゃんにぶつかる。ぶつかる瞬間、ジョゼちゃんの驚いた顔が見えた。たぶん、アンリも驚いた顔をジョゼちゃんに見られた。


 だってこんなに早く動けるなんて知らない。五メートルくらいの距離をほぼ瞬間的に移動した。あまりにも感覚が違い過ぎてジョゼちゃんにそのまま特攻しちゃった。ちょっと恥ずかしい。


「お見事です、アンリ様」


「え?」


「まさかあの距離を一瞬で詰めるとは思いませんでした。あの状態で剣を振られていたら、私でも真っ二つだったでしょう。もちろんスライムなので効きませんが」


「そうなんだ? アンリはなんというか距離感がつかめずに体当たりをかましちゃっただけなんだけど」


「慣れればいいだけです。今のアンリ様なら同年代に負けることは絶対にないでしょう。むしろ、冒険者ギルドのオリハルコンくらいの実力があると思います」


 ジョゼちゃん達はアビスへ来る冒険者さん達を知ってるから結構正しい評価なのかな? それなら結構嬉しいかも。


 ふと見ると、スザンナ姉ちゃん達も戦いを止めていた。


「スザンナ様のお力、見せて頂きました。それなら大丈夫だと思います」


「当然」


 暗いから良く見えないけど、スザンナ姉ちゃんはドヤ顔をしていると思う。


 アビスちゃんとジョゼちゃんが顔を見合わせて頷く。


「お二人が村の外へ行くのを認めましょう。ですが、お気を付けください。地下墳墓は私の力が及ばない遺跡。私はフェル様のサポートをしないといけませんので一緒には行けませんから」


「うん、気を付ける」


 ジョゼちゃんが一歩前に出た。


「本来であれば私が付いて行くべきなのですが、今はこの村で皆様を守るようにフェル様に命令されています。魔物達も一緒には行けませんので、どうかお気を付けて帰って来てください」


「うん、絶対に帰ってくるから」


「はい。ただ、魔物達は一緒に行けないといいましたが、帝都の東にある森の古城にデュラハンがいます。何かあれば助力を求めてください」


「そうなんだ? うん、たしかデュラハンさんはアンデッドだから、地下墳墓に一緒に行ってもらうと余計な戦いをする必要がなくなるかも」


「そうかもしれませんね。では、連絡を入れておきますので、一度訪ねてみてください」


「うん、ありがとう」


 ジョゼちゃんにお礼をいったところで、スザンナ姉ちゃんが水竜と一緒にやってきた。早速乗ってルハラを目指そう。


 水竜にスザンナ姉ちゃんとクル姉ちゃん、そしてアンリが乗った。


「それじゃ行ってくるね。魔物さん達には心配いらないって言っておいて」


「かしこまりました。ではご武運を、ボス」


「うん。それじゃスザンナ姉ちゃん、行こう!」


 アンリがそう言うと、水竜が飛び上がった。アビスちゃんとジョゼちゃんは下から手を振っている。アンリも手を振り返した。


 クル姉ちゃんは叫びたいのを我慢しているみたいだ。両手で口を押えている。よく考えたらクル姉ちゃんは空を飛ぶのは初めてだっけ?


 木の上まで水竜が飛び上がると、空にはお月様とたくさんの星が見えた。すごく綺麗。


「それじゃ行くよ。クル、道案内をよろしく」


「う、うん。お、お手柔らかに飛んでね……」


「よし、それじゃルハラの帝都へ向かって出発!」


 アンリがそう言うと、水竜が西の方へ向かって動き出した。そしてすぐにスピードアップする。下に見える木が流れるように動き出した。すごく速い。


 うん、今日この時からアンリの冒険が始まる。あとでフェル姉ちゃんから怒られるかもしれないけど、それも含めて冒険だ。頑張るぞ。


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