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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十四章

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聖女の祝福

 

 夜になってマナちゃんの部屋に集まった。


 ローズガーデンの一室がマナちゃんの部屋だけど、窓からすぐに外へ出れるから脱出経路は完璧だ。


 あれから色々買い出しをして準備は整った。前にヴァイア姉ちゃんに貰った空間魔法が付与された袋にいっぱい詰め込んでる。


 アンリの九大秘宝は部屋に置いてきた。これは絶対に帰ってくるって言うアンリの意志表示。おじいちゃん達を騙すのはちょっと気が引けるけど、家出じゃないって思ってくれると思う。


「ねえ、アンリ。ここまで準備してから言うのもなんだけど、本当にいいの?」


「クル姉ちゃんが困ってる。なら助けるに決まってる。スザンナ姉ちゃんがいれば十分なんだろうけど、アンリも微力ながらお手伝いする。ちょっと行ってパパっと片付けるだけだから問題なし。アンリだってそろそろ冒険をしていい頃」


 クル姉ちゃんは申し訳なさそうにしてるけど、アンリとしては全く問題ない。あとでちょっと怒られればいいだけ。まだ子供であることは間違いないけど、責任はとっていい年頃。しっかりと怒られよう。


「クルもいい加減覚悟を決めて。アンリがこう言いだしたらもう止まらない。止めるならフェル姉ちゃんを連れてくるしかない」


「それはそうなんだけどね……うん、分かった。アンリやスザンナは絶対に無事に帰すから。だから二人とも無理はしないで」


「うん。それにもしかしたらアンリ達が着いた頃にはルートさんが帰っているかも。そうしたら普通にルハラを観光して帰るから。初めて行くルハラにはちょっと興味がある」


 そんな話をしていたら、いきなり扉が開いた。


「お前らそんなこと考えてたのか。まったく何してんだ」


 リエル姉ちゃんだ。ちょっと怒った感じの顔でマナちゃんの部屋に入って来た。


 いけない。これはどう考えてもバレてる。


 マナちゃんがリエル姉ちゃんの下半身に抱き着いた。


「みんな、行って! リエル母さんは私が抑えるから!」


 マナちゃんが身を挺してアンリ達を逃がそうとしてくれている。リエル姉ちゃん大好きっ子のマナちゃんが逆らうようなことをするなんて。


 ここでその気概に応えないのは女じゃない。ちょっと早いけど脱出だ。


「待て待て。別に止めないからちゃんと事情を話せ」


「そんなこと言って周囲を取り囲むつもりなのは知ってる。リエル姉ちゃんならそれくらいやる」


「信用ないな。だから大丈夫だって。今のところ知ってるのは俺くらいだから。ほら、マナも離れろ」


 たしかにこういう時のリエル姉ちゃんは信頼できるかも。ならちょっと話を聞こうかな。そもそもなんでバレたんだろう?


 とりあえず、窓からちょっと離れてリエル姉ちゃんの話を聞くことになった。でも、いつでも逃げ出せるように窓の鍵は開けておく。スザンナ姉ちゃんも水竜を森に隠してあるからすぐに飛び出せるはずだ。


 リエル姉ちゃんはアンリ達をぐるっと見渡してから、大きくため息をついた。


「アンリとスザンナはクルに付き添ってルハラへ行くつもりなんだな?」


「うん。クル姉ちゃんが困ってる。なら親友として助ける」


 アンリがそう言うと、皆が頷いた。


「そうか……そうだな。親友なら助けたいだろうし、助けてもらいたいと思うよな。でもなぁ、アンリ。お前はまだ小さいだろう? スザンナだけじゃダメなのか?」


「スザンナ姉ちゃんはアンリをソドゴラに残していくのがちょっと気掛かり。だから一緒に行く。それにアンリ自身がクル姉ちゃんの助けになりたい」


「そういえばお前等はいつも一緒だったな。むしろ離れ離れになると危ないような気もするな……もう一度確認するが、本当に行くんだな?」


「何度聞かれても答えは同じ。アンリとスザンナ姉ちゃんはクル姉ちゃんの助けになる」


 リエル姉ちゃんは目を瞑った。そして大きく頷く。


「分かった。なら村の皆には俺から説明しておく。だが、俺と約束しろ。絶対に無事に帰ってくるってな」


「もちろん約束する」


「それに落ち着いたらちゃんと念話を送れ。村長やマナにもな。みんな心配するだろうから毎日送れよ」


「それも分かった。毎日念話を送る」


「よし、それならお前等の旅の無事を祈って祝福してやる」


「祝福?」


「女神教時代によくやってたんだよ。聖女の祝福ってな。旅の無事を祈る願掛けみたいなものかな。結構評判が良かったんだぞ?」


 それは良い効果があるかも。あ、でも、アンリだけじゃなくてこの子にもお願いしよう。


「なら魔剣フェル・デレにも祝福をしてくれる? スザンナ姉ちゃんとこの子がアンリを守るわけだから」


「おう、構わねぇぞ……そうだ、ルハラへ行くんだよな? いい男がいたら紹介してくれ。交換条件みたいなものだな!」


「リエル姉ちゃんは色々台無し。マナちゃんもそれはメモしないほうがいいと思う」


「まあ、それくらい楽な気持ちで行けってことだよ。あまり意気込みが過ぎるとかえって失敗するからな。あと、アンリに言っておくことがある」


「アンリに?」


「ああ。お前は自分が思っている以上に大事な存在だ。村長や両親のウォルフやアーシャ、それにロモンにいるティマに悲しい思いはさせるなよ」


 リエル姉ちゃんの言っていることがよく分からない。アンリが自分で思っている以上に大事な存在?


「えっと、それってどういうこと?」


「分からなくていい。でも、皆がアンリを大事にしている。もちろんスザンナ達もだぞ? どんなことがあっても絶対に生き残れ。生きてさえいれば俺が何とかしてやるから」


「わ、私も絶対に助けるからね!」


 マナちゃんの言葉にリエル姉ちゃんが微笑んだ。


「そうだな、俺とマナの治癒魔法で必ず救ってやるから、絶対に死ぬなよ」


 リエル姉ちゃんはそう言って、アンリとスザンナ姉ちゃん、それにクル姉ちゃんの頭を撫でた。雑だけどすごく優しい感じだ。


 その後、リエル姉ちゃんに旅の無事を祈る祝福をしてもらった。


 なんかこう力が漲る感じだ。それに心なしか、魔剣フェル・デレもちょっと変わった感じ。よく分からないけど清らかな感じになった気がする。


「あと、これをもってけ」


 リエル姉ちゃんから液体の入った瓶を渡された。


「これは女神の涙――いや違うな。フェルの言葉だとエリクサーか。どんな怪我でもたちまち治しちまう究極のポーションだ。いつか成分を研究して作り出そうと聖都からかっぱらってきたんだが、お前たちが持っていた方がいいだろ。三本あるから一本ずつもってけ」


 スザンナ姉ちゃんもクル姉ちゃんもリエル姉ちゃんからエリクサーを渡された。たぶん、すごくお高いものだと思う。こういうのをパッと渡せるリエル姉ちゃんはすごいと思う。


「よし、それじゃ行ってこい。こっちは俺に任せろ。あと、約束を忘れんなよ?」


「うん。絶対に死なない」


「いい男を紹介するほうもだぞ?」


「リエル姉ちゃんはいつだって台無し。でも、見つけたら紹介する。マナちゃん、それじゃ行ってくるね」


「うん、気を付けてね。また一緒にアビスのダンジョンへ行くのを楽しみにしてるから」


 マナちゃんに頷く。


 アンリのいる場所はこのソドゴラ村だ。絶対に帰って来よう。お仕事はすぐに片付けるのがいい。パパっとルートさんを探してクル姉ちゃんの安心させてあげよう。


 アンリ達はマナちゃんの部屋の窓から外に出て村の北側にある森の中へ入った。ちょっと暗いけど、月明かりがあるから多少は見える。この先にスザンナ姉ちゃんが用意した水竜さんがいるからそれに乗って飛び出そう。


「アンリ、結構遅い時間だけど眠くない?」


 スザンナ姉ちゃんが心配してくれているみたいだ。でも、大丈夫。


「アンリの夜更かしレベルは上がった。まだまだいける。でも、竜に乗ったら寝ちゃうかも」


「うん、それは大丈夫だから。それまでは頑張って――あ」


 スザンナ姉ちゃんが止まった。何だろうと思って視線の先を見る。


 そっか。そういう可能性を考慮してなかった。


「こんな夜更けにどちらへ行かれるのですか?」


「フェル様に村の皆さんを守るように言われています。村を出て行かれてしまうとそれが難しいのでお戻りいただきたいのです、ボス」


 人型のアビスちゃんとジョゼちゃんだ。最後の最後で大変なことになっちゃった。


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