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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十四章

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魂の宿る剣

 

 人生はそんなに甘くない。齢十歳にしてアンリはそれを学んだ。


 アイドルの頂点。まだアンリには早かったみたいだ。むしろ飛び入りのリンちゃんのほうが拍手喝采だったという結果に。アンリも可愛さでは売れなくなってきたということ。もっと別の売りを見出さないと。


 でも、ダンス自体は精霊様達に勝った。精霊様達がすごく悔しそうにアンリ達を見てたし。だから半年後くらいにまた勝負をすることになった。まあ、次もコテンパンにするつもり。


 それと次はアンリ達が勝ったら何かお願いを聞いてくれるということになった。今の時点では特に決めていないけど、精霊様にしかできないようなことを考えておこう。ちなみにアンリ達が負けると精霊様になにか捧げものをしないといけないみたいだ。九大秘宝の一つを捧げようかな。それ以前に負けるつもりはないけど。


 そして今日はドワーフのグラヴェおじさんに呼ばれた。


 ダンゴムシさんの魔虫のせいでしばらくはダンジョン攻略をしてなかったから、魔剣フェル・デレのメンテナンスをお願いしていた。たぶん、そのメンテナンスが終わったんだと思う。


 自己修復のスキルを持っている剣だから特に見てもらう必要はないんだけど、それでも大事に使ってる剣だから、たまにはプロに任せておかないと。それにそろそろバージョンアップの時期。次はバージョン七かな。七ってなんか縁起が良さそうだから好き。


 そんなわけで、スザンナ姉ちゃんと一緒にグラヴェおじさんの工房へ向かっている。


 クル姉ちゃんは冒険者ギルドで何かの手続きをするみたいだし、マナちゃんはローズガーデンで冒険者さんの怪我を治癒魔法で治す仕事をしているから、スザンナ姉ちゃんと二人だけだ。二人だけっていうのは久しぶりな気がする。


 チラッとスザンナ姉ちゃんを見る。


 たしかもう十八歳くらい。なんていうか、異様にクール。普段はいつも感情のないような顔をしてすごくミステリアスになってきた。アンリの前だとそんなことはないんだけど、周囲からのイメージを聞くと大体そんな感じだ。


 クル姉ちゃんはスザンナ姉ちゃんとは正反対で天真爛漫って感じかな。人懐っこいというか、誰とでも仲良くなりそうな感じ。


 マナちゃんは十歳でも分かるほど美人さんになってきた。たぶん、あと数年もしたらリエル姉ちゃん並みに美人になりそう。もともとリエル姉ちゃんに似ているってこともあるんだけど、それいうと、マナちゃんはものすごく喜ぶ。こっちが引くくらいに。


 皆に会ってから五年。ちょっとしみじみ。


「アンリ、どうかした? グラヴェさんの工房に着いたよ」


「ちょっと考え事してた。アンリも歳をとったなって」


「十歳だよね?」


「体感的には二十歳くらいかな」


 そんな会話をしながらグラヴェおじさんの工房へ足を踏み入れた。


 ここに来るといつも色々な音が聞こえてちょっと楽しい。ハンマーの音や火の燃える音、それに熱い金属を水に入れたときの音とか結構多彩だ。そして臭いも独特。金属とかの匂いなんだと思うけど、それも悪くない。


 それに最近はこの工房にもいろんな人がいる。グラヴェおじさんに仕事を教わっている獣人さんだけじゃなくて、ドワーフさんが弟子入りってことでやってくることが多い。


 それはゾルデ姉ちゃんのお父さんが関係しているっぽいけど、村にドワーフさんが増えてちょっと嬉しい。


 そんなドワーフさんの一人がアンリ達に気づいて、グラヴェおじさんを呼んでくれた。でも、何だろう? ちょっと皆がソワソワしている感じだ。


 そしてグラヴェおじさんがやってきた。いつも以上ににこやかだけど、どうしたんだろう?


「おう、アンリ。急に呼び出して悪かったな」


「大丈夫。それにグラヴェおじさんにはアンリの大事な剣を預けてる。なにかあればすぐに駆け付けるつもり」


「そうか、そうか。さて、さっそく本題に入ろう。五年かかったが、ようやく約束を叶えることができたんじゃ」


「約束?」


「まあ、見てもらえれば分かると思うぞ。おう、すまんが、こっちへ持って来てくれ」


 グラヴェおじさんがそう言うと、獣人さん達が二人で台座に乗せた魔剣フェル・デレを運んできてくれた。工房の人たちが全員仕事を止めてそれを見てる。


 その目はなんていうんだろう。憧れって言うか、すごくまぶしい物を見ている感じだ。ドワーフさん達は「おお」とか言ってるし。


 見た目には特に変わった様子はないけど、もしかしてバージョンアップしたのかな? あ、よく見たらかなり大きくなってる?


「要望の剣じゃ。受け取ってくれ。不壊のスキルを持つ壊れない剣、魔剣フェル・デレじゃ!」


「壊れない剣……完成したんだ!?」


「うむ。アンリの要望どおり、壊れない剣じゃ。自己修復のスキルはなくなったが、この剣に傷がつくことはない。永遠にこの世に残るということじゃ。鍛冶師が一度は夢見る最高の武器じゃな」


 なんだろう。そう言われると、すごい物を作ってもらった気がする。


「儂が作れる物の中では最高傑作じゃ。メンテナンスをする前から少しだけその予感があったのでな、悪いが少し大きめに作らせてもらった。これからアンリの身長がどれくらい伸びるかは分からんが、アビスが予測した身長に合わせて作っておる。おそらく、アンリが十五くらいになったころに丁度良くなるじゃろう」


 少し大きめなのはそのせいだったんだ。でも、嬉しい。これがアンリ専用の剣。魔剣フェル・デレの最終バージョン。


「持ってもいい?」


「もちろんじゃ。これはアンリ専用の剣じゃからな。ただ、さっきも言った通り、今のアンリにはかなり大きい。もしかしたら剣を振るえないほどの重さになったかもしれん。そうだったらすまんの」


「大丈夫。振るえないなら振るえるまで素振りをするまで。重いくらいじゃアンリは止められない」


 台座にあるフェル・デレのグリップを両手でぎゅっと握る。獣人さんが二人で運んだくらいだからすごく重いのかな?


 そう思ったんだけど、すんなり持ち上げられた。むしろ今までよりも軽い気がする。びっくりしたけど、皆のほうがびっくりしたみたい。


「ア、アンリ、重くないの? すごく軽そうに持ってるけど?」


「うん、確かに重さはあるけど、今までよりも軽いくらい」


 普段クールなスザンナ姉ちゃんでもびっくりしているみたいだ。確かにアンリよりも大きいし重そうな剣を軽々しく持っているのは周囲から見るとシュールなのかも。


 グラヴェおじさんが顎に手を当ててアンリをジッと見ている。そして、ニカッと笑った。


「アンリはフェル・デレに所有者として認められたみたいじゃな」


「所有者として認められた?」


「うむ。昔、大事に使ったものには魂が宿ると言ったことがあったじゃろう? その剣には魂が宿ったんじゃ。そしてアンリを所有者として認めた。だからアンリには軽く、アンリ以外には重くなるんじゃ。儂らでは二人がかりで運ぶほど重いんじゃぞ?」


 グラヴェおじさんがそう言うと、みんなが感嘆の声を上げた。魂が宿る武具って言うのはすごくレアだとか聞いたことがある。さっきよりも剣を見る目がすごくなった。それにグラヴェおじさんのことも尊敬の目で見てる。たぶん、鍛冶師さんの中では偉業なんだと思う。


 それはともかく、フェル・デレには魂が宿った。アンリ専用の剣に魂が。


「フェル・デレ。これからもよろしくね」


 とくにフェル・デレから声は聞こえない。でも、キラッと光った気がした。


 うん、たぶんだけど、フェル・デレもよろしくって言ったんだと思う。よし、さっそく試し斬りをしよう!


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