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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十四章

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女王蜘蛛

 

 アラクネ姉ちゃんが丸い糸の塊になって三日が過ぎた。


 アンリ達は第十階層でまだかまだかと見ているけど、丸い塊はピクリとも動かない。ちょっとだけ心配になってきた。ちょっとくらい剣で突いたほうがいいのかな?


『アンリ様、おやめください。下手に刺激を与えてもいい結果にはなりません。そろそろフェル様がお帰りになるころですので、このままお待ちください』


「そうなんだ? ならフェル姉ちゃんが来るまで広場で模擬戦でもしてる」


 アンリはスザンナ姉ちゃんと、クル姉ちゃんはマナちゃんとそれぞれ模擬戦だ。アンリ達は剣と水の勝負、クル姉ちゃん達は組手の模擬戦。


 スザンナ姉ちゃんは水を操ってクモの巣みたいな形を作った。それをアンリのほうに浴びせかける。あれに捕まったら終わりという戦い。それは躱せるんだけど、アラクネ姉ちゃんがやった頭上に大量のクモの糸を放出する技は躱せない。どうしたらいいのかな?


 そんなことを考えながら一時間ほど模擬戦をした。汗をかいたからちゃんと拭いてから休憩。ちらりと丸い塊をみたけどやっぱり変化はない。今日はお預けかな?


「お前達も進化の瞬間に立ち会うのか?」


 フェル姉ちゃんが急に転移してきた。ヴァイア姉ちゃんが考案した転移門じゃないから、アビスちゃんがここまで転移してくれたのかな。みんながフェル姉ちゃんにおかえりって言ってる。アンリも言わないと。


「おかえりなさい、フェル姉ちゃん。魔物さんの進化は珍しいってアビスちゃんに聞いたから、最近はここで待機してる。卵からひよこが出てくるのを見るのと同じノリで見てる。前にロンおじさんに見せてもらった」


「ただいま。そうか、確かに珍しいな。普通、人族が魔物の進化に立ち会うことなんてないだろうし……ひよこと一緒にしたらアラクネが可哀そうだぞ」


 よく考えたらひよこもにわとりに進化してる。進化の過程は見たことないけど、また卵になってニワトリが生まれる感じなのかな?


 それはいいとしてあとどれくらい待てばいいんだろう? そもそもアラクネ姉ちゃんの進化が終わらないと先の階層へ進めないんだけど。進化したアラクネ姉ちゃんに勝てるかどうかは別にして。


「そろそろ進化が終わりそうだな」


 フェル姉ちゃんがそんなことを言った。そういえば、フェル姉ちゃんは魔眼っていう何でも分かる目があるんだっけ? アンリも欲しい。それがあれば勉強しなくていいと思う。


 そんなことを考えていたら、丸い塊にひびが入った。そしてそのひびが塊の上から下まではいると、ぱかって二つに割れた。


 塊の中にはアラクネ姉ちゃんがいるけど、下半身がクモじゃなくて普通の人族みたいな足になってる。それにいつの間にか黒いドレスを着てる。


「進化したクモー!」


 アラクネ姉ちゃんはディア姉ちゃんみたいに顔の前で腕をクロスさせつつ、そう叫んだ。進化したって言うより、ディア姉ちゃんのチューニ病が移った感じもする。最近ずっと裁縫の下職をしてたからかな?


 そういえば、アラクネ姉ちゃんが戦力外になってディア姉ちゃんがちょっと涙目になってた。それはいいとして、ちゃんとおめでとうって言っておこう。たぶん、おめでたい。


「おめでとう、アラクネ姉ちゃん」


 そう言って拍手すると、皆も一緒に拍手してくれた。でも、アラクネ姉ちゃんは顔を横に振った。拍手されるのが嫌ってわけじゃないんだろうけど、なにか作法が違うのかな?


「もう、アラクネじゃないクモ。私は女王蜘蛛に進化して、ルノスって名前が付いたクモ」


「ルノス?」


「そうクモ。魔物は進化するとユニーク化して名前が付くクモ。私の名はルノス。その名前が私の名前だって頭の中に囁くクモ」


「それは幻聴的な危ない状況なんじゃ……?」


「いや、それで間違いないぞ。私の魔眼で見ても、アラクネは女王蜘蛛に進化して、ルノスって名前がついた。創造主や管理者は何がしたくてこんな面倒なことにしたんだろうな?」


 フェル姉ちゃんがブツブツいってるけど、アラクネちゃんがルノスって名前になったのは間違いないみたいだ。これからはルノス姉ちゃんって呼ぼう。


「えっと、それじゃ仕切り直し。おめでとうルノス姉ちゃん」


 もう一回拍手。皆も拍手すると、今度はルノス姉ちゃんも嬉し気だ。でも、アンリ達は敵同士。いつまでもなあなあではいられない。


「それじゃルノス姉ちゃん、この間の続き。あの時はほとんどアンリ達の負けだったけど、今度は負けない」


「分かったクモ。なら勝負クモ」


「おい、止めろ」


 これから勝負だって言うのにフェル姉ちゃんがアンリ達の戦いを止めた。ここからがいいところなのに。でも、なんで止めたんだろう?


「アラクネ――じゃなくてルノス。進化したばかりで自分の強さを分かってないだろう? 進化した魔物は相当強くなる。いつも通りの力加減で戦ったら大変なことになるぞ。だいたい、足が全然違うだろうが、ちゃんと歩けるか?」


「足クモ……? 人族の足クモ!」


 ルノス姉ちゃんは今気づいたんだ?


「しかもやせたクモ!」


 ルノス姉ちゃんは嬉しそうに色々なポーズをとってる。これはあれ。セクシー。アンリにはまだ早いお色気だ。それはともかく、やっぱり体型を気にしてたんだ。


「しばらくはゆっくり体を動かせ。今まで通りに動かすと大変なことになるぞ」


「そうなのクモ? じゃあ、ちょっとだけやってみるクモ」


 ルノス姉ちゃんはそう言って、膝を曲げた。そして上にジャンプする……どれくらい高くまで飛び上がったんだろう? 首が痛くなるほど上を見ちゃった。それに「クモー!」って自分で驚いてる。


 そして数秒経ったら、ものすごい勢いで落ちてきた。地面がへこむほどの衝撃だ。体は人族と同じなのに、ルノスちゃんの下半身がクモだったころと同じくらいの重さなのかも。


「び、びっくりしたクモ……」


「急激な変化に感覚が付いていかないはずだ。しばらくはその感覚になれるように少しずつ調整したほうがいい。私も魔王になった時似たような感覚だったから分かる」


 フェル姉ちゃんは大怪我して目が覚めたら魔王だったんだっけ? いきなり強くなっちゃって大変だったって聞いたことがある。アンリもそれくらい覚醒してほしい。


「分かったクモ。しばらくは自分がどれくらいになったか確認するクモ。アンリ達には悪いけど、勝負はまた後日クモ」


「うん。それじゃ、また後で。代わりにフェル姉ちゃんが戦って」


「なんでだ」


「ノリと勢い。みんな、突撃!」


「帰ってきたばかりなんだけどな……」


 そう言いながらもアンリ達に付き合ってくれるフェル姉ちゃんもノリはいいと思う。でも、もうちょっと手加減してほしい。数秒でボロボロに負けちゃった。フェル姉ちゃんに勝つのはまだまだ先みたいだ。


「お前達もなかなか強くなったな」


「フェル姉ちゃんに一撃も与えられていないのにそんな風に言われても」


「いや、結構危なかったぞ? もうちょっとで一撃食らいそうだった。それに全員の連携がいい。あと数年もすれば、私と戦える」


 つまり今は戦えるレベルじゃないってこと。はるか高みから上目線で言われた。実際上だからいいんだけど、アンリ達は本当に数年でそこまで行けるのかな? 皆もぜいぜい言いながらフェル姉ちゃんを見てるけど、なんとなく無理っぽい気がしないでもない。


 フェル姉ちゃんがアンリ達を見渡してから少しだけ笑った。ニヤリって感じ。


「私はまだまだ強くなるつもりだ。お前たちはゆっくり強くなってもいいが、私はどんどん先にいくからな?」


 不思議。普通、そんなことを言われたらがっくりくるけど、フェル姉ちゃんから言われてもそんなふうにはならない。絶対に追いつきたいって気持ちだけだ。


「今はフェル姉ちゃんの背中を追いかけてるけど、そのうちアンリの背中を追いかけさせる」


 フェル姉ちゃんが笑顔になった。


「ああ、その意気だ。さて、今日はこの辺で終わりだろう? 行ってきた遺跡の話をしてやるから妖精王国で食事をしよう。村長に許可を貰ってこい」


 それは楽しみ。早速おじいちゃんの許可を貰ってこよう。フェル姉ちゃんが帰ってきたときは夜更かし決定。しっかりお話を聞かせてもらおう。


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