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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十二章
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師匠さん

 

 勇者がオリスア姉ちゃんに倒されて、女神教の人達は言葉も出ないくらいに驚いてる。


 正直、アンリもびっくりした。


 オリスア姉ちゃんの腹部が貫かれたと思ったけど、よく見ると脇腹を斬られた感じなのかな? それだって痛いはずなのに、それをものともせずに勇者を文字通り叩きのめした。


 アンリは目からうろこ。あれこそがアンリの目指す戦い方。いわゆる一撃必殺。もちろんその状況に持っていくための技量は必要だけど、力でねじ伏せる戦いというのは憧れる。


 リエル姉ちゃんを助け出したら、オリスア姉ちゃんに色々教わろう。


 そんな予定のオリスア姉ちゃんはクレーターの中心でうつ伏せに倒れている勇者を見た。


「命に別状はないだろうが、しばらくは立ち上がれないはずだ。そのまま寝ているがいい」


「儂に情けをかけるという事か?」


「情け? 違う。フェル様の命令だ。お前達、人族を殺さないように言われている。私が殺すことはないが、勝手に自害するなら構わんぞ」


 オリスア姉ちゃんは勇者相手に手加減してたんだ。たぶん、やろうと思えばやれた。でも、あそこまでやったら普通死んじゃうと思うんだけど。


「オリスア、避けろ!」


 ドレアおじさんの声が聞こえたと同時に、オリスア姉ちゃんの周囲で爆発が起きた。


 オリスア姉ちゃんは後ろへ飛びのくように躱したみたいだ。でも、あの爆発、勇者を巻き込んだんじゃないかな? 誰がやったんだろう?


 爆風が収まるとそこには賢者がいた。もしかしてさっきの爆発は賢者がやった? まさかこれを機に勇者を殺そうとするドロドロの愛憎劇があったとか……?


「儂ごと殺す気か!」


「仕方ないじゃろう、ああでもしないと、お主に近づけん。それにほれ、これを飲めば何も変わらん」


 そんなことはなかった。単純に勇者に近づくために爆発をさせたみたいだ。それはそれとしてあれは何を飲ませているのかな?


 賢者は勇者のヘルメットの口部分を開けて、口元にガラスの瓶みたいなものを近づけてる。飲んでるみたいだけど、あれはポーションかな?


「ふう、やれやれ。死ぬかと思ったぞ」


 それを飲み終えると勇者は普通に立ち上がった。そして地面の置かれている聖剣を手に持つと、オリスア姉ちゃんのほうへ向けた。


「さあ、儂はまだ動ける。続けようか?」


 おかしい。さっきまで動けそうになかったのにあんなに回復するポーションなんてあるのかな?


 オリスア姉ちゃんも目を細めて見極めようとしているみたい。


「しばらくは動けないほどのダメージを与えたはずだが?」


「なに、女神の涙という回復薬を使っただけだ。まさか、使ってはいけないという話ではないだろう? 儂ら人族は魔族に比べて脆弱だ。あらゆる手を使わなければ、魔族には勝てんからな」


 かなりの重傷だったはずなのに、その女神の涙というお薬であそこまで回復するんだ? 確かに種族的なハンデがあるから使っちゃいけないってわけじゃないと思うけど……なんとなくずるい気がする。


「続けてもいいが、私に勝てる要素はないぞ? 同じことの繰り返しになるだけだ」


「かもしれん。だが、儂の剣がわき腹を少し貫いただろう? 血が止まっておらんようだぞ? 同じことを繰り返したらどうなるか子供でも分かる。それに貴様は儂らを殺せんのだろう? 続けない理由はないということだ」


 そうだった。勇者の持っている剣は聖剣で傷の治りを遅くするんだった。


 オリスア姉ちゃんは最初から顔色一つ変えていないけど、わき腹からは血が流れているし、絶対に痛いはず。こんな状態で続けられるわけがない。


 でも、オリスア姉ちゃんは笑い出した。


「いいだろう。私が死ぬか、お前達の薬が無くなるか、どちらが早いかの勝負だ。ドレア、手伝え!」


「命令するなと言いたいところだが、まあ、よかろう。儂の拘束から逃げ出せる面白い人族もいるようだからな。実験してやろう」


 オリスア姉ちゃんはまだ勇者と戦うつもりだ。ドレアおじさんと共闘みたいな感じだけど、大丈夫かな? 


 あ、フェル姉ちゃんが動いた。


「待て。ここは私が――」


「僕がやろう」


「あ、あの、まお――師匠?」


「彼らは半分くらい人族をやめているようだからね。それなら僕の出番だ」


 フェル姉ちゃんの師匠って人がフェル姉ちゃんを押しのけて前に出た。師匠って人は操られているリエル姉ちゃんを治せるってことで来てくれたと思うんだけど、戦うこともできるんだ?


 それはそれとして、半分くらい人族をやめてるってどういうことかな? 勇者と賢者は半分人族じゃないってこと?


 師匠さんは普通に歩いて、オリスア姉ちゃん達と勇者たちの間に移動した。


「何者だ? 次の相手は貴様か?」


「師匠殿。これは我々の戦い。いくらフェル様の師匠といえども、横入りは許されません」


「まあまあ、ここは僕がやるよ。任せてくれるよね?」


「師匠殿にそう言われては、しかたありません。お任せします」


 うん、ここは師匠さんに任せた方がいい気がする……でも、何となく変な流れのような……? オリスア姉ちゃんも普通に譲ったし、気のせいかな?


 オリスア姉ちゃん達は戦いの場から離れた。


 そしてオリスア姉ちゃんはポーションを飲む。ヴィロー商会から配られたかなり高価なポーションだ。脇腹に効くといいんだけど。


 師匠さんは勇者と賢者のほうを見た。


「さて、待たせたね。君達は女神の加護を受けたと言っていた。それはどうやら――」


「貴様、なぜそれを知っている?」


 あれ? 師匠さんの言葉がよく聞き取れなかった。勇者がすごく慌てているみたいだけど、何を言ったんだろう?


「スザンナ姉ちゃん、師匠さんはなんて言ったの?」


「アンリも聞こえなかった? 実は私も聞こえなかったんだよね。というか、聞こえたけどすぐに忘れちゃったような……すごく不思議な感じ」


 スザンナ姉ちゃんも分からなかったんだ? でも、すぐに忘れたっていうのは確かにそんな感じだった。聞こえたことは聞こえたと思うんだけど。


「――騙されたようだね。過去の記憶、家族、友人や恋人などの記憶がないだろう? ――欲しかっただけだよ」


 あれ? まただ、師匠さんが言った言葉がよく分からない。記憶できずに右から左に出て行っちゃう感じだ。


「騙された? 違う。儂らは志願した。なにを代償としても魔族を倒せる力が欲しいとな。我々人族はずっと理不尽な力を持つ魔族に怯えていた。家族を殺されたことがあるか? 友人を殺されたことが? 将来を誓い合った恋人が目の前で死んでいくことが、どれだけ辛いと思っている! 魔族を根絶やしにできるならどんな代償でも些細な事だ!」


「そうだね。辛さは分かるよ。でも、それは魔族も一緒だ。勇者という理不尽な力の前に多くの仲間を失っていたからね」


「儂ではない、本物の勇者のことか。くだらん。同じだから許せと? それに魔族を全滅させられない奴など、勇者であるものか。儂が真の勇者になり、魔族を根絶やしにしてくれる! お前達が許されるのはその時だけだ!」


「どうやら、魔族への憎しみを――元に戻してあげよう。隣の君もね。ちょっと痛いけど、我慢してくれ」


 ところどころ師匠さんの言葉が分からない。でも、それはいいとして勇者の言い分はどうなんだろう?


 アンリも同じ境遇だったら同じことをするかもしれない。憎い人を倒すために何かを代償にして力を得る。それは悪いことのようには思えないんだけど……今は立場が違うからそんなことされたら困るけど、勇者には勇者の事情があるのかな。


 師匠さんと勇者がお互いに構えた。師匠さんは武器を持っていないから、フェル姉ちゃんみたいに格闘技で戦うのかも。


 オリスア姉ちゃんが戦った時みたいなことになるのかな? フェル姉ちゃんの師匠なんだし、すごいことになるかもしれない。


 よし、この戦いも目に焼き付けておこう。


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