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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十一章
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ドラゴニュートさんとミノタウロスさん

 

 ゾルデ姉ちゃんに連れられて第四階層へやってきた。


 相変わらず岩だらけ。ここに来るとキラービーちゃんとの死闘を思い出す。スザンナ姉ちゃんが雨を降らせてキラービーちゃんがふらふらになったところをアンリがガツンと倒した。


 そんな思い出の場所にドラゴニュートさん達は住んでいるみたい。なんでも森の妖精亭だと入口が小さいし壊しそうな気がするとか。それに普段から野宿っぽい感じなので狭いところだと逆に寝れないって言ってるとかなんとか。


 あまり良く見てないけど、ドラゴニュートさん達は確かに大きい。背丈で言えばアンリの二倍以上はありそうな感じだった。それに体つきも大きい。体重ならアンリの五倍はありそう。


 おじいちゃんの話だとドラゴニュートさんはかなり凶暴だって話だ。でも、魔族も凶暴って言ってた割には皆いい人だし、ドラゴニュートさんもいい人なんだと思う。


 だいたい、フェル姉ちゃんが連れてきた人達なんだから、悪い人の訳がない。模擬戦をしようって言えば快く引き受けてくれるかも。


 しばらく歩いたら、ゾルデ姉ちゃんが何かに気づいた。


「あ、あそこで何かしてるね! ……なにあれ? ミノタウロス?」


 ゾルデ姉ちゃんが見ているほうに顔を向けると、ミノタウロスさんとドラゴニュートさん達が戦っていた。よく見るとひとりだけ赤い感じのトサカが付いてる。その人がミノタウロスさんへ突撃したみたいだ。


「ウウゥゥゥモォォォォォ!」


 でも、ミノタウロスさんが吠えた。


 すごい、周囲の空気が震えているみたい。それに結構離れているのにここでもうるさいくらいだ。一番近くにいたドラゴニュートさんが両手に武器と盾をもったまま頭の横を押さえている。


「耳がー!」


「ムクイ、耐えろ! くそ! 聞こえてないか! ウィッシュ! ムクイを引き戻せ!」


「ああ、もう! 前に出過ぎなのよ、あのバカ!」


 ドラゴニュートさん達も大声を出している。ミノタウロスさんの雄たけびがうるさすぎて耳が変になってるのかな?


 そしてそれを見ていたスザンナ姉ちゃんがなにやら思案顔で腕を組んだ。


「ミノタウロスはああいう攻撃もできるんだね。バンシーちゃんのときみたく耳栓が必要かも」


「そっか、いつかはミノタウロスさんとも戦わないといけない。どこの階層守護者なのかは知らないけど、その対策も必要。うん、いい情報を得た」


「アンリちゃん達ってあのミノタウロスと戦うの? え? 無理じゃない? どう考えても普通のミノタウロスじゃないと思うんだけど?」


 普通のミノタウロスさんがどんな感じなのかは知らないけど、フェル姉ちゃんの従魔だから強くなったのかな? それとも魔界生まれだから元々強いのかも。


 でも、相手が強いからってあきらめる訳にはいかない。そもそもミノタウロスさんの何倍も強いはずのフェル姉ちゃんを倒すことがアンリの目標。ミノタウロスさんを倒せなくてフェル姉ちゃんを倒せるわけがない。


「女には負けられない戦いがある」


 アンリはいいこと言った。それにこれはフェル姉ちゃんも言ってる。だから間違いない。


「うん、まあ、そうかもしれないけど。でも、そっかー。それじゃスザンナちゃんも諦めたりはしないんだ?」


「諦める理由がない。今は勝てないかもしれないけど、将来も勝てないなんてことはないと思う」


 スザンナ姉ちゃんが真顔でそう言うと、ゾルデ姉ちゃんは「はー」と言ってから笑顔になった。


「いやー、そういう気持ちは大事だよね! うんうん、フェルちゃんは出かけちゃったから退屈しそうだったけど、これは村に残っても楽しめそうかなー」


 そんな話をしていたら、ミノタウロスさんの斧による叩きつけで地面がボコって沈んだ。


「おわぁ!」


「ムクイ! この程度の衝撃で体勢を崩すな! 次が来るぞ! 盾を構えて攻撃に備えろ!」


 体勢を崩したドラゴニュートさんが慌てて盾を構えたけど、ミノタウロスさんは両手で持った斧を横にフルスイングした。


 ブオンって音がして、ドラゴニュートさんの盾に当たる。踏ん張ることなく、ドーンって飛んでった。


「あー!」


 ドラゴニュートさんはあんなに重そうなのに、軽い感じで吹っ飛んでっちゃった。そして地面に落ちる。というか、勢いで地面を転がってるみたい。


 結構な距離を転がったけど、ドラゴニュートさんは何事もないように立ち上がった。怪我はないのかな?


「いてててて……いやいや、おかしいだろ! なんで俺をあんなに吹っ飛ばせるんだよ! フェルさんやゾルデさんじゃあるまいし!」


 そう言って、武器を構えるとミノタウロスさんに向かって走り出した。


「ムクイ、待て! 俺達の負けだ!」


「そうよね、本番だったらどう考えてもあの一撃でムクイは死んでるわ」


「ま、まじか……! いや、そうだとは思うけどよ……」


 突撃しようとしていたドラゴニュートさんは地面にうつぶせで倒れちゃった。こう見るとトカゲっぽいけど、ドラゴニュートさんは竜だから間違えないようにしないと。


「ミノタウロス殿、模擬戦、ありがとうございます。我々では貴方に勝てないのが分かっただけでも収穫です」


「私のほうも色々と収穫があった。また機会があればお互いに高め合おう。では、今日はこの辺で失礼する。開拓の仕事があるのでな」


 ミノタウロスさんはそう言って、こっちに歩いてきた。アンリ達に気づくと、頭を下げてくれる。


「アンリ様、スザンナ様、それにドワーフのゾルデ様ですね。こんにちは」


「こんにちは。さっきの戦いを見てた。ミノタウロスさんはすごく強い」


「これはお恥ずかしいところを。しかし、私などはこの村だと弱い方ですからな。もっともっと強くなりませんと」


「アンリももっともっと強くなるつもりだからよろしくね」


「ああ、そうでしたね。アンリ様達が私の守護する階層まで来るのを楽しみにしております」


「うん。あ、ごめんね、これからお仕事なんだよね?」


「はい、では失礼します」


 ミノタウロスさんはもう一度頭を下げてから上へ行く階段のほうへ歩いて行った。


 ミノタウロスさんの後ろ姿を見送ってドラゴニュートさんのほうへ行こうとしたら、ゾルデ姉ちゃんが不思議そうな顔をしてた。


「アンリちゃん、ミノタウロスの言葉が分かるの? 私には、モーモーとしか聞こえなかったけど。というか、なんでミノタウロスがアンリちゃんに頭をさげたの?」


「分かる。アンリは魔物言語のスキルを覚えたからお話できる。頭を下げてくれたのはアンリがボスだから」


「……アンリちゃん、色々すごいね。魔族とか獣人、それにドラゴニュートなら魔物と話が出来るのを知っているけど、人族では初めて見たよ。それにボスって。それはフェルちゃんじゃないんだ……?」


 たぶん、魔物さんと意思疎通したいと強く思えば覚えられるはず。まずは地面に文字を書いてもらえばいいと思う。


 ボスに関しては、ジョゼちゃんとの約束かな。アンリがボスになってフェル姉ちゃんに敬意を払ってもいいようにジョゼちゃんに命令するつもり。そのためにもフェル姉ちゃんをアンリの部下にしないと。


 そんなことを考えていたら、いつの間にかドラゴニュートさん達がこっちに来てた。


「ゾルデさん、今の見てたのかよ。なんだか恥ずかしいところを見られちまったぜ」


「いや、アンタは普段から恥ずかしいから大丈夫だよ」


「ひでぇな! それはそれとして、そっちの二人は誰だ? ……たぶんだけど、ゾルデさんみたいなドワーフじゃないよな? その、見た感じ筋力が足りねぇ」


 ここはちゃんと自己紹介しておこう。


「アンリはアンリ。人族で村長の孫。この村のナンバースリーと言っても過言じゃない」


 最近同じことばかり言ってるけど、アピールは大事。アンリにはまだ肩書がないから仕方ない。


「私はアンリのお姉ちゃんでスザンナ。ゾルデちゃんと同じアダマンタイトの冒険者」


「おお? 村長の孫ってことは結構偉い人の孫ってことだな? よし! 名前は神聖なものだけど、俺も名乗っておいてやるぜ。俺は次期族長のムクイだ! ドラゴニュートの村で言うならナンバーツー……いや、姉ちゃんがいるからナンバースリー……あれ? 今は戦士長の配下だから、もっと下か……?」


 トサカを付けたドラゴニュートさんはムクイって名前みたい。でも、さっきから結構指を折って数えている。結局ナンバーいくつなんだろう?


「……えっと、よく分かんねぇや。十年くらいたてば族長になるからナンバーワンなのは間違いないんだけどな!」


 うん、やっぱり悪い人や凶暴な人には見えない。でも、強そうだから模擬戦をお願いしよう。


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