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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十章
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帰還と高級食材

 

「アンリ、集中しなさい。今日はいつにも増して集中力がないじゃないか」


 家の大部屋で勉強中におじいちゃんがそんなことを言い出した。でも、待って欲しい。アンリにも言い分はある。


「今日はフェル姉ちゃんが帰ってくるかもしれない。勉強なんかしてる場合じゃない」


 アンリの言葉にスザンナ姉ちゃんも頷く。これで二対一。多数決の原理でもう勉強は終わりでいいと思う。


「今日、フェルさんが帰ってくるとしても午後になるだろうから午前中はちゃんと勉強をするよ。午後は遊んでもらってもいいから、それまではしっかりやらないとね」


「わかった。もっとはっきり言うと、アンリは勉強したくない。しかも二日続けて算術とかあり得ない。魔法の術式よりも難解」


「最近は魔法の訓練ばかりしていたから、その遅れを取り戻すためだよ。ほら、しっかり解きなさい。冒険者だって計算できないと買い物でぼったくられたり、お釣りをごまかされたりするんだから、算術は大事だよ」


 念のため、スザンナ姉ちゃんのほうを見た。


 葛藤している気がするけど、ギギギって音が鳴りそうな感じにスザンナ姉ちゃんは頷いた。


「ギルドカードで決済できるところは大きな町とかだけ。大半の場所ではギルドカードでの決算ができないから自分で計算できるのは大体必須。冒険者ギルドで講習会とかやってるところもあるよ」


 おじいちゃんが得意そうな顔をしている。ダメだ。逃げられない。


「スザンナ姉ちゃんの言うことだし、仕方ないから勉強する。でも、フェル姉ちゃんが帰ってきたら今日はお泊りする。これは譲れない」


「フェルさんの許可が出たなら構わないよ。でも、フェルさんも疲れているだろうからあまり無理させてはいけないよ?」


「分かった。フェル姉ちゃんに絶対いいって言わせる」


「分かってないよ。許可のほうじゃなくて、無理させてはいけないってほうに分かったと言いなさい」


 おじいちゃんは横暴。でも、おじいちゃんの許可は出たから今日はフェル姉ちゃんの部屋にお泊りだ。フェル姉ちゃんが嫌って言っても絶対にいいって言わせる。スザンナ姉ちゃんと三人なら絶対に楽しいはず。どんな手を使ってもいいって言わせるぞ。




 勉強が終わった午後、広場でスザンナ姉ちゃんと冒険者ごっこをして遊んでいたら、東の空にカブトムシさんを発見した。


 ゴンドラにはたくさんの人が乗ってる。燃えるような赤い髪のフェル姉ちゃんも見える。やっぱりアンリの勘は鋭い。今日帰ってくるって思ってた。


 おじいちゃんや村のみんなにそれを伝えると、みんなも広場にやって来て、フェル姉ちゃん達に手を振り始めた。


 カブトムシさんが掴んでいるゴンドラがゆっくりと広場に降りる。そしてゴンドラからフェル姉ちゃん達が降りてくると、みんなから歓声があがった。


 そこにおじいちゃんが近づく。


「フェルさん、おかえりなさい。王都はどうでしたかな?」


「ただいま。結構寒かった。でも、王都と言われるだけあって栄えていた感じだ。結構面白かったぞ」


「そうでしたか。お疲れだとは思いますが、少し休まれたら家に来てもらえますか? その、そちらの方達を紹介してもらいたいのですが」


 おじいちゃんがそう言って、初めて見る四人のほうへ顔を向けた。


 小さい女性の人はドワーフさんかな? すごく大きな斧を背負ってる感じでなんとなく強そう。


 あと、二足歩行のトカゲ――もしかしてドラゴニュートさんかな? その人たちが三人もいる。


「分かった。一時間後くらいに家に連れて行く。そこで紹介するから」


「はい、お願いします」


 おじいちゃんとの話が終わったみたい。なら今度はアンリ達のお話を聞いてもらわないと。スザンナ姉ちゃんにアイコンタクトを送ると、スザンナ姉ちゃんは力強く頷いた。


 フェル姉ちゃんに突撃して右足にしがみついた。スザンナ姉ちゃんは胴体にしがみつく。


「おかえりなさい、フェル姉ちゃん」


「おかえり、フェルちゃん」


「……ああ、ただいま。言っておくが脅しには屈しないぞ?」


 フェル姉ちゃんは何を言ってるんだろう? 脅してなんかいない。


「脅しってなに? そんなことはしない」


「うん、アンリの言う通り。いきなり何を言ってるか分からない」


「それならいいんだ。さあ、離れてくれ。宿へ行って少し休む」


 いけない。まだ交渉が終わってない。ここはネゴシエーターアンリの交渉術を見せるとき。


「今日はフェル姉ちゃんの部屋にお泊りするから」


「そう、旅の話を聞かせて」


 フェル姉ちゃんがちょっとだけ眉を寄せている。何かを考えているのかな?


「お疲れだとは思いますが、よかったら話を聞かせてやってくれませんか? ヴァイア君から色々と連絡や映像が送られてきたのですが、フェルさんとは話ができなかったから寂しかったようでして」


 おじいちゃんからもフェル姉ちゃんにお願いしてくれた。これはいい援護。


「分かった。なら話をしてやるから今日は私の部屋に泊るといい」


「良かった。断ったらフェル姉ちゃんの足が大変な事になってた」


「うん。背骨も」


「覚えておけ、それが脅しと言うんだ」


 脅しじゃなくて交渉なんだけど、言質を取ったから何の問題もなし。今日はフェル姉ちゃんから色々な話を聞こう。


 その後、フェル姉ちゃんはお土産としてたくさんの食材を持ってきたから村のみんなで食べようって提案をしてくれた。以前アンリが言った「みんなで食べたほうが美味しい」って言葉を覚えていてくれて、その言葉通りにしてくれるみたい。


 ちょっとだけ照れる。でも、アンリの言葉を覚えておいてくれてすごくうれしい。


 皆でお土産を食べる事にはなったけど、森の妖精亭に村の皆全員は入れないから広場で宴をすることになった。これから皆で準備を始めるみたいだ。


 アンリは何の役にも立てないので、フェル姉ちゃんと一緒に行動しよう。


 よし、久しぶりにおんぶしてもらおう。一瞬でフェル姉ちゃんの背後を取って、背中をよじ登る。


「アンリずるい。私もフェルちゃんにおんぶされたい」


「スザンナ姉ちゃんでもこの場所は譲れない。諦めて」


 たとえアンリのお姉ちゃんでも譲れないものがある。それがフェル姉ちゃんの背中。ここはアンリの指定席。


「まず私の許可を取れ。というか疲れてるから後にしてくれないか? ……そうか、ダメか」


 アンリの確固たる意志にフェル姉ちゃんは気づいてくれたみたい。フェル姉ちゃんは周囲をキョロキョロと見渡しているけど、何をしているのかな?


「フェル姉ちゃん、どうしたの? 早く宿に行こう?」


「分かった。落ちるなよ……アンリ、少し重くなったか?」


「それはセクハラ?」


「そっちからおんぶしてきてセクハラもなにもあるか。大きくなったな、という意味だ。アンリの年頃なら数日会わないでもすぐに大きくなるからな」


 もしかすると、ダンジョン攻略でアンリはパワーアップしたのかも。それが体重に影響したのかもしれない。でも、普通に成長したのかな?


 そんな話をしながら、フェル姉ちゃんとスザンナ姉ちゃんの三人で森の妖精亭へ移動した。


 メノウ姉ちゃんが出迎えてくれて、そのあとにニア姉ちゃんとヤト姉ちゃんが厨房から来た。皆、笑顔でフェル姉ちゃんを迎えて「おかえり」って言ってる。


 フェル姉ちゃんは「ただいま」と言いながら、何もない空間からいきなり何かのお肉を取り出してニア姉ちゃんに渡した。


 フェル姉ちゃんの説明によると、ドラゴンのお肉みたい。アンリは初めて見たけど、ニア姉ちゃんも初めて見たのかすごく驚いている。


 他にもサンダーバードのお肉とかバジリスクやワイバーンのお肉もある。肉だけって言うのはどうかと思うけど、お土産だからいいのかな。


 ニア姉ちゃんが扱ったことがないくらいの高級食材……これはすごく期待できる。


「メノウ、決着をつける時が来たニャ」


「いいでしょう。受けて立ちます」


 そしてなぜかヤト姉ちゃんとメノウ姉ちゃんが料理対決をするっぽくなった。


 ニア姉ちゃんがドラゴンのお肉と、サンダーバードのお肉の料理でかかりきりになるから、二人にはバジリスクとワイバーンのお肉を任せるってことになったのが発端だと思う。


 なんだか今日は今まで以上に楽しい宴会になりそう。全力で楽しもうっと。


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