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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第九章
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ぼったくり

 

 清々しい朝がやってきた。


 昨日までと違って今日はお天気。はっきり言って勉強なんかしてる場合じゃない。外へ出て遊ばないと。


「アンリ、そろそろ現実逃避はやめよう。窓の外を見ていても出れないし、すぐに勉強が始まると思うよ」


「スザンナ姉ちゃんは夢がない。もしかしたら何かのトラブルが発生して勉強どころじゃなくなるかも。アンリはいつだってそれを期待してる」


 フェル姉ちゃんが村に来てからはその確率は上がったと思う。今日もフェル姉ちゃんの力で何とかしてほしい。


「さあ、二人とも、そろそろ勉強を始めるよ」


 ダメだった。


「それじゃ今日は算数の勉強を――おや? 誰か来たのかな?」


 家の扉をノックする音が聞こえる。誰だろう? もしかしてフェル姉ちゃん? アンリの祈りが通じた?


「どちらさま――おや、貴方でしたか……」


「いやいや、そんなに嫌な顔をされないでくだされ。今日はいいお話を持ってきたつもりですぞ?」


 あの人はヴィロー商会のラスナって人だ。となりの女性はローシャって人だったかな?


「間に合ってるのでお引き取りください」


「村長殿。確かに昨日の態度は申し訳なかった。商会のためにとはいえ、あのような態度はよろしくなかったですな。その謝罪も含めてこちらにまいったのですよ。立ち話も何ですし、お邪魔してもよろしいでしょうか?」


 それってこっちが言うセリフだと思うけど、どうなんだろう? でも、これはチャンス? 勉強がうやむやになりそうな予感。


「おじいちゃん、お話くらい聞いてあげたらどうかな? アンリは気にしないから」


 アンリがそう言うと、皆がアンリを見つめた。


「村長殿のお孫さん達ですかな? 初めまして、ヴィロー商会のラスナと申します。こちらはヴィロー商会会長のローシャ様ですな」


 スザンナ姉ちゃんもおじいちゃんの孫扱いされている。うん、間違ってない。スザンナ姉ちゃんはアンリ公認のお姉ちゃんだから、おじいちゃんの孫枠。


「私の名はアンリ。こっちはスザンナ姉ちゃん。ちなみにアンリはこの村のナンバースリーと言っても過言じゃない」


「はっはっは、なかなか利発そうなお嬢さんですな……おや? アンリ? その名前はどこかで……?」


「ラスナさん、それにローシャさん。お話とやらを伺いましょう。どうぞお入りください」


 おじいちゃんが慌てた様子で二人を招き入れた。いきなりどうしたんだろう?


「スザンナ君達は部屋に戻っていなさい。勉強は後でいいからね」


 おじいちゃんにそう言われて部屋を追い出された。


「村長さんはどうしたんだろうね? 急に二人を家にいれるし、私たちを部屋から追い出すし」


「うん、アンリもそう思った。それはともかく、ラスナって人達の話を聞いてみたい。スザンナ姉ちゃんが昨日やった水で部屋のお話を聞くことって出来る?」


「うん、任せて。でも、ここだとアーシャさん達にばれちゃうから、アンリの部屋まで水が来るようにしよう」


 なんて頼もしいお姉ちゃんだ。


 二人で部屋に戻ってスザンナ姉ちゃんの水を使うと、大部屋での会話が聞こえてきた。スザンナ姉ちゃんの水がアンリの部屋と大部屋をつないでいるんだと思う。


『――という訳でして、お詫びも兼ねてこの村にヴィロー商会の支店を出そうと考えているのです。いかがでしょう? この村での生活に大きな潤いを与えることができると自負しておりますぞ?』


『いえ、間に合っております』


 ほとんど瞬間的におじいちゃんが断った。


 ヴィロー商会の支店が出来るってことは色々な商品が村に入ってくるってことかな? となるとヴァイア姉ちゃんの雑貨屋さんがピンチ? ライバルのお店ができるってことだから、売り上げが減っちゃうかも。


『この村にある雑貨屋の心配をされているのですかな? ご安心くだされ、商品が被らないようにしますので、客を取るような真似は致しませんぞ?』


『いえ、そういう理由ではありません。そもそも昨日、貴方達がやったことを思い出してください。フェルさんが貴方達にいい感情を持っていないのは明白です。フェルさんを不快にさせるような真似をするつもりはありません』


 昨日言ってたことだ。ヴィロー商会が村に支店を出したら、フェル姉ちゃんが嫌がってどこかに行っちゃうかも。それを考えたら、ヴィロー商会が村に支店を出すのは無理だと思う。村のみんなが認めないし、そもそもアンリが認めない。断固阻止だ。


『確かにフェルさんと私たちの関係は良くありません。だからこそ、なのです。これから汚名返上のチャンスを頂きたい。フェルさんにも村の皆さんにも認められるような関係になりたいのですよ』


『そうは言いましても――』


『もちろん、支店を出すなら土地代を支払いますぞ。そして建物を作るのは村の方に仕事として依頼します。そうそう、税金として毎月売り上げの一割を納めましょう。どうですかな?』


『ううむ……』


 ラスナって人がおじいちゃんに食い下がっている。どれくらいのお金になるのかは知らないけど、お金なんかよりもフェル姉ちゃんのほうが大事なんだから、さくっと断って欲しい。


 それともお金が必要なのかな? この村で使えるのは雑貨屋さんか森の妖精亭だけなんだけど。


『ラスナ殿、ローシャ殿。少しお待ちいただけますか? 直接フェルさんに聞いてきましょう。フェルさんの許可がなければ、どんなにお金を積まれても首を縦に振ることはありません』


『おお、もちろんです。ぜひともご確認くだされ』


 扉を開ける音が聞こえた。おじいちゃんが家を出てフェル姉ちゃんに聞きに行ったんだと思う。


 フェル姉ちゃんなら何て答えるかな? フェル姉ちゃんのことだからたぶん気にしないような気がするけど。


『ちょっと、ラスナ。本当にこの村に店を出すの? 利益なんてほとんど出ないと思うわよ? というか、ずっと赤字じゃないの?』


 おじいちゃんがいなくなったら、ローシャって人の声が聞こえた。


 ピコンときた。これはスパイをするしかない。村やフェル姉ちゃんのためにならないことをするつもりなら、おじいちゃんに言わないと。


『そうでしょうか? ここにはアビスと言うダンジョンがあるのですぞ? 今は冒険者がいないようですが、これから増えるでしょうな。それにこの村にはエルフたちも来る。先行投資をする価値は十分にあると思いますが? それに、フェルさんとアビスさん。はっきり言ってお金に換算できないくらいの価値があると思いますぞ?』


『ダンジョンで自由自在に魔物暴走を操れるって意味ではアビスに価値はあると思うけど、フェルって魔族にそんなに価値があるの?』


『いやいや、どう考えてもフェルさんのほうが価値は高いでしょう……いえ、価値があるかどうかなどは関係ありませんな。個人的に友好な関係になりたいものです。あの方は大変面白い。このラスナ、フェルさんのためなら損をしてでもいいと思っておりますぞ』


『嘘でしょ……? たしか、ラスナはおじいさまとお父様にも同じ感想を持っていたのよね? つまり、それくらい人として魅力があるってこと?』


『フェルさんと話をしたのは三時間程度でしょう。ですが、その程度でも先々代や先代に似たようなものは感じましたね。あの人には人を惹きつける何かがある、そんなふうに思いましたぞ』


 ちょっとだけラスナって人がいい人に思えてきた。アンリもそんな感じ。フェル姉ちゃんは人を惹きつける何かがある。いわゆるフェルモン……あれ? フェロモンだっけ?


 しばらくすると、おじいちゃんが戻ってきた。フェル姉ちゃんはなんて言ったのかな?


『お待たせしましたな。フェルさんに確認してきました』


『それでなんと?』


『ええ、許可を頂きました。村のためになることをしてくれ、と』


『おお! さすがはフェルさんですな! ではさっそく――』


『土地代は二十メートル四方で大金貨一万枚です。空いている場所ならどこでもかまいませんよ』


 おじいちゃんの口からすごい値段が飛び出した。相場は知らないけど、それってぼったくりじゃないのかな?


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