現代の都会の片隅-1
「ねぇハヤト?あたしハヤトみたいな頼れる優しい男の人ホント好きなの…あたしたち相性もすごいイイみたいだし、あたしハヤトの色んなこともっと知りたいの…。」
とある歓楽街のマンションの一室
ベッドに生まれたままの姿で、じんわりと汗ばんで横になっている女が少しかすれた囁く。
「あ〜…そうだな…。」
面倒な女を掴んじまったな。
ハヤトと呼ばれた男はその感情を隠そうともせずに気だるげな返事を返す。
午前4時を回った頃だろうか。窓の外が薄ぼんやりと明るくなってきた。
男はだいぶ短くなってしまったタバコを灰皿に押し付け腰掛けていたベッドから立ち上がる。
「ハヤト?どしたの?トイレ?あんなに出したのにまだスッキリしてないの?…もっかいする?」
少し困ったような、けれど笑顔で女は尋ねる。
「もっかいって言っても、もうオメー動けねぇじゃんよ。」
「うん〜。へへへ、さすがにもう無理かな〜。ぜんっぜん力入んないもん。あ!じゃあ飲み物持ってきてくれるの?優しぃ〜!」
完全にペースを握られてしまっている男は、軽くため息をつき
「飲み物か…水か酒しかないからとりあえず水で我慢しといてくれ。」
そう言うと無造作に脱ぎ捨てていた下着を拾い、部屋を出てキッチンに向かう。
五分ほど過ぎた頃に男が戻ってくる。
「ほら、水持ってきたけど…起きてっか?」
水の入ったペットボトルをベッドの枕元に置きつつ男は囁く。
「ありがと〜…って何処か行っちゃうの?」
女が尋ねるのも無理はない。
先ほどの格好とは打って変わり、男はフード付きのパーカーを羽織りジャージ生地のハーフパンツを履いて外出する装いだったからだ。
「あぁ…寝るなら寝てていいし、もうちょっとしたら電車も動くだろうから、帰りたきゃ帰んな。」
「やだ。あたしハヤトの腕枕で寝たい!…ってかこの時間に何処行くのよ?他の女のトコでも行くの?…あたし寂しい…。」
女が男のハーフパンツの裾を軽く掴み、上目遣いで引き止める。
「…ロードワークだよ。いつもよりちょっと早いけど、日が昇って暑くなる前にやっときたいしな。」
「ウソだよ…やだ…他の女のトコなんて行かせないもん…。」
本当に面倒な女を掴んだ。
男はそんな後悔を出来る限り表に出さないよう話を続ける。
「こんな時間から他の女のトコ行って何すんだよ。そもそもそんな女いねぇし、いたとしても寝てるわ。とりあえず、お前以外に連絡取れないように携帯は置いてく。1時間ちょいで戻るから、お前は寝とけ。」
「…わかった…。」
「どうせ今日帰る気ねぇんだろ?店もウチからの方が近いんだし、起きたらメシ作ってやっから。」
「…うん…。」
どうやら、納得はしていないようだがふてくされつつも説得は成功したらしく、女はハーフパンツの裾を離し、男に背を向けるようにして布団にくるまった。
そして男は灰皿の近くに置いてあるスポーツタイプの腕時計をつけながら部屋を後にした。