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破烈のアルス  作者: ねこ太郎
一章 鍛えた兄妹の学園入学
7/9

海賊にヤキいれる

「一応確認しますが。あなたたちは海賊ですよね?」


 僕は念の為、海賊らしき人たちに確認を取ってみた。これがただの海賊ごっこをしているだけならえらいこっちゃ。それに見渡した限り、大人が一人もいないのが気になる、おそらく僕と同世代、二十歳以上の人間はいないだろう。


「見て分からねーのか?それともお前は俺達が牧師のように見えるというのか?」


 見えません。どうやら見た目通りの海賊のだったようだ。もうすでに船に穴を開けちゃっていたから安心した。これで遠慮なく潰せる。


「やはり海賊ですか、僕はこの町の領主の息子でアルスと言います。もしこの町で略奪行為をするというのなら、諦めていただいて大人しく帰ってもらうか投降してください」


 そう言うと海賊達はドッと笑った。まあこれでやめてくれるのなら海賊なんかせず、もっと真っ当な仕事をやっているよな。


「ハハハッ、馬鹿かこいつ?まあ投降はしないが略奪はやめてもいいぜ、本当にお前が領主の息子だというなら、人質にして身代金を取ればいいからな」


 そうして海賊の手下達がこちらへにじり寄ってきた、ある意味期待通りだ。だが近づいてくる海賊たちに僕は手を上げて待ったを掛けた。


「ちょっとまったぁ!」


「何だぁ?大人しく捕まるつもりならこっちも乱暴な真似はしねぇぞ。まあ抵抗してくれたほうがこっちはおもしれぇがな」


 海賊達が下卑た笑い声を上げる。


「いえ、抵抗はさせてもらいますよ。ただ服を着させて下さい。あなた達も下着一丁の男にやられたくはないでしょう」


「てめぇ、ふざけんなあっ!おめぇら、やっちまえっ!!」」


 どうやら雑魚扱いされたことがかんに障ったらしく、海賊達はサーベルを振り上げこちらに向かってきた。

 仕方ないので着替えながら戦うとしよう。まずはズボンだ、僕はほっかむりから取り出したズボンを履く為に足を上げ、同時に射程距離に入った海賊二人の顔面に蹴りを入れた。蹴りを入れた足をそのままズボンの裾に通すと同時に前方の海賊はそのまま崩れ落ち、後ろにいる海賊達は倒れた海賊に躓き、押し合い状態になっている。僕はその間にもう片方の足をズボンに通した。

 さてと次は上着だ、上着といってもシャツではなく着流しなのだが、ただの着流しではない、一方で倒れた仲間を踏み越えた海賊が左右から襲い掛かってきた。そこで僕は体を覆いかぶせるように着流しを広げたが、海賊達は着流しごと切り刻もうとサーベルを振り下ろした。

 だが海賊達の思惑は外れ、着流しはサーベルの刃を防いでいた。当然だ、この付近ではトップクラスの強靭を誇るキングスパイダーの糸とダイヤモスの繭で織られた特注品である、ちゃちな剣で切れるような造りはしていない。広げた着流しに袖を通すのと同時に、サーベルを受け止められ驚愕の表情をしている海賊のつらに拳を叩きつけた。


 五年前とは違い、子供の体だった僕は、現在182センチまで身長が伸び、いまだ成長中である。その為、昔は発勁はっけい頼りだった戦法も、今は体術のみで海賊達を圧倒できた。

 ここで海賊達は僕の実力に気付くと距離を置き慎重な構えとなった。おそらく増援を待ち、数で圧倒するつもりだろうがそうは問屋が卸さない。僕は浮き輪代わりの丸太を待ち上げ振り回した。まさか100キロ近くはあろう丸太を武器に使うとは思ってもいなかったのだろう、安全地帯まで離れたはずの海賊達はどんどん丸太の餌食となっていく。ある者は吹き飛ばされ海に落ち、ある者は恐怖に耐え切れず逃げ出した。

 逃げた海賊は船室ではなく階段のほうへと逃げていく、これを待っていた。鍵がかかるはずの船室ではなく、船底へと続く階段に逃げるということは、心理的に仲間がいる方へと向かったのだろう、ならば増援は階段からやってくるということだ。

 僕は逃げる海賊をターゲットにし、海賊達を蹴散らしながら階段へ向かうと、丸太で木製の階段を突き刺して登って来れないようにした。

 さてこれで後は甲板にいる敵だけだな、しかも気付けば残った海賊は三角帽をかぶった親分らしき人物だけだ、とりあえず降参してもらい船底に残っているであろう手下共にも降伏させようと拳を鳴らしながら近づいていくと、船室の方から大声が響いてきた。


「ちょっとまちなっ!!」


 誰だ?僕と同じことを言う奴は。


「お…おやぶぅぅぅんっ!」


 恐怖にゆがんでいたはずの親分だと思っていた海賊は、救いの手が差し伸べられたかのような顔になった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「海賊だと?」


 所変わってドラグナー家ではアルフレッドの報告にモーリスは怪訝な表情を見せていた。


「兄上殿よ、そんなのしょっちゅう現れては毎回アルスによって退治されるではないか」


 アリスも祖父と同様に訝しんだ。そうムロンの町は西側では珍しく栄えている港町の為、頻繁に海賊が襲ってくるが、その対処は守備隊ではなく、アルスが単身で乗り込み壊滅させており、もはや夕食時にそういえばこんなことがあったよと事後報告で済ます事柄となっており、わざわざ仕事を中断してまで報告するほどのことではなくなっていたのである。


「わざわざ報告に来たということはアルスでも対処できない大物が来たということか?そうなると思い当たるのは黒鯨こくげい海賊団だが。ホームは東側のはずだぞ」


 黒鯨こくげい海賊団―――それは大陸で最も悪名高い海賊団である。団員は十数名で少数精鋭による電撃作戦でその名を轟かせていた。


「いいえ黒鯨こくげい海賊団ではありません。むしろそれよりもタチの悪い相手です」


 アルフレッドは首を横に振ると説明を始めた。

 現在町の方に王都から海軍が来ており、その任務は黒鯨こくげい海賊団を壊滅させた者達の捕獲である。

 海軍少佐、ボン・ヴォヤジュは黒鯨こくげい海賊団を追っていた。そしてつい先日、海賊の本拠地が分かり、すぐさま隊を編成、突入したら、船長を始め団員全員が殺されていた。どうやら若い団員による反乱があったらしい。反乱を起こした若い団員は新たに赤鯨せきげい海賊団と名乗り、黒鯨こくげい海賊団が貯めていた財宝を奪うと、軍の追っ手を振り切ってここいら付近に逃げてきたとのことだった。


「ふうむ、あの黒鯨こくげい海賊団を壊滅させた集団か。たしかにちと厄介やもしれんのう…」


「いいや、集団じゃないんだよ」


 アリスのつぶやきにアルフレッドは否定をした。


「どういうことじゃ、兄上殿?」


「軍が黒鯨こくげい海賊団の死体を調べたら、皆、ボロ布を手で裂くかのようにが引き裂かれていたらしい。その結果、十数人いた海賊達はたった一人の手によって惨殺されたと結論づいた。そいつは船長の息子でこの反乱の首謀者、『巨人』ベガス」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ほわー、でっけー。


 僕は船室から出てきた2mを優に越す大男を、思わず口を開けて見上げてしまった。馬場よりも高いんじゃなかろうか?


「ハッハァッ!親分が出てきた以上これでお前も終わりだ!体をバラバラにされたくなけりゃ大人しくブベェッ?!」


 とりあえず後ろがうるさかったので裏拳で黙らせた。確かに高さだけではなく、体重も僕の倍はあるであろう体格はその気になれば素手で人体をバラバラにすることができると思う。しかも裏拳を喰らって鼻を押さえている船長だと思った海賊、副船長と仮名するとしてその副船長の口ぶりから本当にバラバラにさせたことがあるのだろう。

 親分と呼ばれた男は倒された部下を見回すと口を開いた。


「確かアルスと言ったか?よくもまあたった一人でここまで暴れられるもんだ。こちらも名乗らせてもらおう、赤鯨せきげい海賊団船長のベガスだ」


 ほう、確かにほかの海賊と違って器が違いそうだ。


「一応聞いときますが、投降する気は――」


「ないな。こっちはどうしても捕まるわけには行かない、だからといって一旦引いて他の港を襲う余力ももうない」


 どうやら引けない理由があるようだな。だがこちらもならどうぞと町を襲わせるわけにも行かない。


「何やら訳ありな様ですが、こちらも領主の息子としてこの町を守る義務があります」


「ハッ!領主の息子としてか…様は父親の為か」


「変な所に食いつきますね、父親と何かあったんですか?」


 どうやら禁句だったようでそう言った途端にベガスから怒気が溢れ出てきた。


「お前には関係ない話だろう」


「そうですね。僕には関係のない話です」


 これでもう話すことなどない。僕たちはお互い構えを取った。


「「じゃあ黙って倒されろや」」


 台詞も飛び出すタイミングもまったく一緒だった。

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