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破烈のアルス  作者: ねこ太郎
序章   とある兄妹の内情
4/9

現状を打開しよう

 眼下には思った通り魔物が集まっており、その内のイノシシみたいな魔物が突進して玄関を突き破ろうとしていた。


発勁はっけい!!』


 絶妙なタイミングだった。ちょうど突進するイノシシもどきの真上が僕の落下地点だったので、イノシシの背の上に着地すると同時に足で発勁はっけいを叩き込んだ。

 発勁はっけい叩き込まれたイノシシはふらふらと足取りがおぼつかなくなると玄関に到達することなく倒れた。


 イノシシの魔物が戦闘不能になったのを確認すると僕はザッと周りを見てみた。ルクシャナさんの言うとおり、魔物は数は先程倒した一匹を除いてちょうど十、イノシシの他にクマらしき魔物もいる。

 対して僕は一人、しかもザックスさん達、守備隊相手の連戦とさっきの発勁はっけいで気も体力もほとんど残っていない、ハッキリ言って全滅は無理だ。

 しかし町の方へ守備隊を呼びに行っているらしいので時間を稼げば応援は来る、だが正直そこまで体力が持ちそうにない、ならば僕がするべきことは一匹でも多く魔物の数を減らすことだ。狙うは奥にいる他より一回り大きい二匹、おそらくあの二匹がそれぞれのリーダー格であろう。ボスクマとボスイノシシと名付けるとして、あの二匹を倒せば統率を失い逃げ出してくれるかもしれない。


 標的は決まった、後は叩くのみだ。僕は魔物の大群へ突っ込んで行った。真正面にいるクマの魔物が爪を振り下ろし迎え撃つが、僕はその攻撃ををかわした。

 突進や爪、どうやら魔物といってもその見た目通り、普通の動物と攻撃方法は変わらないようだ。それならば怖くない、お師匠様との山篭りで、クマやイノシシとは嫌と言うほど相手をしてる。僕は攻撃してきたクマを足場にして頭上まで登ると近くにいるクマの頭、イノシシの背中を足場にしてボスのいる手前まで移動した。密集しているところに敵は僕一人だったため、逆に同士討ちを恐れ責めあぐねる結果となってしまい、おかげで僕は無傷でここまで移動することができた。


 だがここで前方にいたボスイノシシが、僕の後ろに仲間がいるのにもかかわらず突進してきた。仲間などお構いなしということか。しかし距離があったため簡単に横へ避けれた、だが避けた目の前にはいつの間にボスクマが待ち構えていた。連携攻撃か!ケダモノのくせして頭を使う。後ろへ下がるべきか…否、前に出て仕留める。しかし貴重な発勁たまをここでは使いたくはない、ならば―――


獅子倒ししとう!』


 ボスクマは仰向けに倒れた。だが何が起こったか理解していないだろう、爪で攻撃しようとして振りかぶった瞬間、仰向けになってしまったのだから。これがお師匠様から教わった発勁はっけい以外の体術のひとつだ。振りかぶろうとした力点の対になる点に力を少し加える、いわば合気道の一種である。力を必要としない子供の体の僕にピッタリの技だ。

 しかし倒れただけでダメージはないだろう、トドメをささなければ。僕は倒れたクマに馬乗り、マウントを取ると心臓の上(動物と同じ臓器の配置をしている分からないが)に左手を置き、そこへ右の掌底を叩き込んだ。


絹鞘きぬさや!』 


 発勁はっけいと同じく体の内部にダメージを与える技だ。発勁はっけいと違い両手を使わなければならないが、『気』を使わずにすむ、いわば発勁はっけいの省エネバージョンである。

 ボスクマはビクンと大きく体を跳ね上げるとそのまま息絶えた。


 ボスクマは倒した、後は最低でもボスイノシシだ。僕はボスイノシシが突進した方へ向くと、ボスイノシシもちょうどこちらへ振り向いたところだった。ボスイノシシが通った跡には巻き添えを食らった魔物が二、三匹倒されている。

 あのイノシシの突進は怖くはないが、問題は耐久力だ。最初に倒したはずのイノシシが立てはしないものの体を起こしている、仕留め切れないてはいなかったのだ。ならばあれより一回り大きいボスでは普通に打ち込んだら、倒れないどころか下手をすれば反撃を喰らうだろう。完璧に仕留める為には背中ではなく腹に打ち込まなければいけないようだ。だがボスイノシシは先程のように突進しようとせずこちらの動きを警戒し、決して側面を取られないようにして手下の魔物が囲い込もうとしている。

 横がダメだというなら正面からだ。僕はボスイノシシの真正面から突っ込んでいった。ボスイノシシも突進してくる、しかも今度は残りのイノシシも横一列に走らせて避けられないようにだ。あんなに密着されては獅子倒ししとうも使えない、ならば―――


 僕はスライディングをしてボスイノシシの真下に潜り込んだ。子供の小さな体で、且つ一回り大きいボスイノシシだからこそできた戦法だ。そして潜り込んだ真上はちょうど腹部、これで決めてやる。


発勁はっけい!!』


 僕は残った気を全てボスイノシシの土手っ腹にブチ込んだ。直撃を受けたボスイノシシは見たことのない液体(おそらく魔物の血であろう)を吐き出すと、その巨体は崩れ落ちた。

 これでリーダー格らしき魔物は二匹とも倒した、これで引いてくれればいいのだが…


 だがそうはならなかった。気付けば僕は吹っ飛ばされていた。背中が熱い、クマの魔物に背後からやられてしまったようだ、読み違えてしまった。

 こうなれば後は援軍が来るまで一秒でも長く魔物を引き付けさせることなのだが、立ち上がることさえできない。


「ちくしょう…立てよ…立てよ立てよ立てよ立てよ立てよ…!!」


 普通の子供の体じゃあこれが限界なのか。いや、仮に地球にいた時の体でも大差ないだろう、今日ほど自分の無力さを呪ったことはない。


 ―――おぬしががあと二十年…いや、後十年若ければ―――


 あの時お師匠様がそう言った気持ちが今分かった。


 クマの魔物がトドメを刺しに近づくと、その爪を振り下ろした―――

 だがその爪は僕に届くことはなかった。その瞬間お師匠様が姿を現したのである、トドメを刺そうとしたクマはお師匠様の背後で時間を置いて上からズシンと落ちてきた。


「お…師匠…さま……?」


「カッカ、なっさけない姿じゃのう、もはや勝敗は決まったというのに一秒でも長く生きながらえようと惨めにもがきおって」


 グウの寝も出ない。しかし明らかに年下の少女に罵声を浴びせられる姿はかなり情けない絵面である。


「返す言葉もありませんよ…今回は不合格ですよね」


「いんや」


 お師匠様はニヤリと笑った。


「合格じゃ」


 そして僕が見た光景は魔物をまるでぬいぐるみを扱っているかのように重力、重量を無視してちぎっては投げちぎっては投げている幼女の姿であった。ハハッ、やっぱあの人はすごいや…これなら僕がいなくても大丈夫だな…そう安心すると緊張の糸が切れてしまったようで僕はそのまま意識を失った…




 次に意識を取り戻したのはベッドの上だった。首を横に向けるとキャスリンさんが涙を流していた、どうやらずっと僕の看病をしてくれていたらしい。しばらくすると他の家族の方も見舞いに来てくれた。皆いい年をした大人なのに、キャスリンさんと同じく泣いてくれている。気がつけば僕も泣いていた―――



 こうして僕とお師匠様はアルス・ドラグナー、アリス・ドラグナーとしてこの異世界で生きていくこととなった。



 翌日、屋敷から少し離れた平原で仁王立ちのお師匠様と土下座をしている僕が向かい合っていた。


「お師匠様。この異世界で最強となる為に、改めてご指導の方をお願いします!」


「うむ、では問おう。お主はなぜ最強を目指す?」


 地球にいたときはただ何となく、やることが他にないからと答えただろうが今は違う、僕は頭を上げ答えた。


「家族を護る為です!」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ムロンの町外れの森の中、人間はおろか動物さえいないはずの場所に、何者かの独り言が聞こえてきた。


「珍しい儀式が行われたみたいだったからちょっと魔物をけしかけてみたけど、中々おもしろい結果になったな。期待しているよ、また会える機会がやってくることを―――」

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