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OVER_THE_HORIZON  作者: 首藤環
一部 第一章いざ、倒れ逝くその時まで
6/20

6 救世主の足跡

 プレイヤーが『traveler』で生活を強いられることおよそ三ヶ月半。

 モンスターの強さやダンジョンの難易度が凶悪でなかったこともあり、安心したプレイヤーによって検証され、子細な情報が少しずつ広まっていた。

 攻略に関連する中で主なのは装備作成や戦闘スキルの存在だ。

 現状、武器は近接武器しか発見されておらず、大別して二種類ある。

 槌などの鈍器と片手剣などの刀剣だ。

 刀剣をさらに細かく分類すると、分厚く幅広な、身の丈と並ぶような大剣、リーチと速度のバランスに優れる長剣、コンパクトで取り回しの容易な片手剣、軽量で投擲に向いたナイフ、針という変わり種まである。 そしてそれぞれのジャンルに即するスキルがあるのだ。


 スキルとは必要ステータスを満たし、特定の行動を何度もこなすと習得すると、どんなゲームにも必ずといっていいほどいる検証マニアが調べた。

 たとえば、全刀剣武器で使えることでメジャーなソードスキル《スラッシュ》は水平方向に五十回斬撃をすると習得する、などだ。

 スタミナを消費して発動する《スラッシュ》は威力の強化された切り払う動きを意識しなくても行えるようになる。

 装備作成は少々特殊で、低ランクの装備を失敗して消失させて涙を飲みながら《鍛冶》スキルを上げる。

 こちらは経験値を貯めるような感覚でレベル上げに近い。


 また、個人で戦闘スキルを編み出すことも可能だった。

 使用プレイヤーのステータスの許す中で、という限定的な条件があるが、0.5秒以下の速度で連続した攻撃アクションを一つのスキルとシステムが認めれば、それを自分のスキルとして所持できる。

 スキル中は攻撃力が底上げされるため、攻略組のプレイヤー達はこぞってスキル開発に躍起になった。

 閉じ込められてから一ヶ月かそこらで発見された第二の町は、未来への希望の活気が溢れていた。

 町の名はリーカー。

 ある日突如としてリフテルの広場の片隅に現れた、水溜まりのようにたゆたう物質に満ちた石造りの亀甲型の装置。勇気あるプレイヤーがその未知の装置に足を踏み入れた瞬間、風景が変わり違う町に転送された。

 町には店も宿もあり、人気があった。

 だが同時にプレイヤーのいない無人の町だった。


 驚き勇んでリフテルに帰還したそのプレイヤーは、仲間にそのことを教え、大勢で人跡未到の町を探索した。

 町は大方探し尽くし、取り囲む石壁を調査し始めた時に、一人のプレイヤーが正門の脇に定礎のようなプレートを発見した。

「ん? なんだこりゃ」

 正門を調べていた、スピードを重視した軽装の男性がプレートに手を触れる。

「どうした、何かいたか?」

 町の回りのモンスターの強さを見に行っていた革の鎧を着た仲間が戻ってくる。

「いや、妙なプレートがあった」

 脇に避けて仲間にそれを見せる。

「ん〜何々……リーカーへの記念すべき……第一到達者カルマを讃えるぅ!?」

 革鎧の男性はあり得ないものを見るように驚く。

「すると…そのカルマって奴がこの町に着たからワープゲートが開いたってわけか…」

「そんなバカな……」

「そんなに驚くことか? 聞かない名前だけど攻略組の誰かだろ。外のモンスターはどうだった?」

「俺は曲がりなりにも攻略組の一人だよな…」

「ああ、それがどうした」

「信じられるか…モンスターに投げた槍が刺さらなかった」

 深い森から溢れるように出てきた中で、最も頭上に表示されたHPの数値の少ないモンスターに、投擲スキルを駆使して遠くから投げ槍を放った。

 結果は槍が弾かれ、ダメージは無し。

 理由は単純に防御力を攻撃力が上回れなかったからだ。

「マジかよ…」

 この二人のレベルはともに15。全体を見回しても極めて少数の域だ。

 その攻撃でHPを一ドットも減らせないとなると。

「カルマってのは一体何レベルなんだよ…」

「しかも見ろ、プレートには余白がある」

 不自然に空いた余白を指す。

 つまり、他の名前が入る可能性もあった。


「これは……ソロだったってことなのか? なんだそりゃ…」 呆れる軽装の男の肩を鎧の男が強く抱く。

「これは、吉報だぞ」

「確かに……こんな化け物がいるならクリアも夢じゃない…!」

「皆にこれを知らせに行くぞ!!」

「だな!!」

 リフテルに戻るためにゲートへ二人は走る。

 リフテルはリーカーよりもたらされた福音に呑めや歌えやのお祭り騒ぎなった。


 この時、誰もがカルマこそこのゲームから救ってくれるかもしれないと、信じて止まず、カルマが『traveler』最恐のプレイヤーの一人になるとは予想だにしていなかった。







 そして四ヶ月目には第四の町の解放までされていた。


「ふう…」 湖のほとりにある第四の町チェリオを解放するに当たって、カルマは至近の森林ダンジョンのボス、ワイルドウルフとその取り巻きの群れを単騎で撃破していた。

 手下をことごとく殺され、孤立したワイルドウルフのうなじへ、止めに放った単発のソードスキル《断頭》で首と胴は離ればなれになり、ポリゴンとなって消えた。

 攻撃力に特化した大剣に分類される両手持ちの重厚なグレートソードを背のベルトに留め、森を出る。


 後はイベントも無く、無人の町に入れば全体のプレイヤーは新たな拠点の恩恵を得る。

 町を解放するのはこれで二度目になる。

 三つ目の町を解放したのは天城だったそうだ。

 メールのやり取りでそう聞いた。 攻略ペースは上がっている。

 それもこれも、無茶を通り越して乱暴な勢いで突き進むカルマと天城の有ってこそだ。


 攻略組と呼称されるトップレベルプレイヤーですら瞬殺されるエリアに、vitの低さゆえに高が知れている防御力に見切りをつけ、速度を生かす一撃離脱のスタイルで挑む。

 攻撃を食らう前にモンスターに剣を叩きつけて生き残る。

 カルマの攻略は危ういながらもなんとか成り立っている。


 だが、第四の町まで解放した今、不安要素が二つ。


 確実にレベルアップが遅くなっている事。

 そして何より不気味なのが、いまだにこのふざけたデスゲームを始めたあの男から音沙汰が無い事だ。

 現段階でクリアの詳細に条件は不明。

 カルマはがむしゃらにレベルを上げていたのだが、レベルが30を超え、取得経験値と必要経験値とのバランスまでもが崩壊しつつある。


 agiとstrが突出したカルマはソロでも戦えているが、他のプレイヤーではどう転ぶかわからない。

 助けになりそうな鍛冶スキルもまだ実用的ではない。


 しかし、情報不足でもフィールドを愚直に進む以外の道は無い。

 カルマの開拓の日々は続いた。


イメージとしては、カルマの耐久力は残機2のスペランカー程度のペラペラ装甲です


小技でも二、三発食らえばまず間違いなく死にますね

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