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OVER_THE_HORIZON  作者: 首藤環
一部 第一章いざ、倒れ逝くその時まで
5/20

5 静かなる焔

 始まりの町、正式名称リフテルの空は鬱屈としたプレイヤーの心とは裏腹に晴れ渡っている。

 夜が明け、一晩の猶予を己に与えたプレイヤーの行動は様々だった。

 だが、勇気をもって奮い立ち、町の外へ出る者は二割に満たない少数派である。

 大多数が誰かのクリア頼みで現状維持を願って宿に籠り、少ない手持ちの所持金を減らしていた。


 他のプレイヤーが様々な思惑に走る中、カルマは草原を抜けた向こうの岩の転がる荒野を訪れ、モンスターを両刃の片手剣で両断していた。

 確認したステータスに表示された新たなる称号に突き動かされるように。


 《復讐者》

 フレンドとパーティーメンバーの全員がゲームオーバーになった者にこの称号を与える。

 復讐に焦がれる者は己の身すら省みない。

 vitを全て切り捨て、agiとstrを倍化する。


 カルマが人と変わらない大きさのゴブリンに叩きつけるのは、NPCの商店で売っていた武器で売っていた最高額の片手剣、スティールソードだった。

 爆発的に増加した筋力と俊敏性は、カルマに明らかな強化をもたらした。

 昨日、ライカと共同で持ち上げた石と同じか、それ以上の重さがある鋼鉄の剣を易々とナイフのように扱う。

 そして俊敏性とそれに底上げされたスタミナでモンスターの群れをすり抜けて斬り抜ける。

 推奨レベルを優に上回る斬撃を食らったモンスターは血飛沫をあげてバタバタと倒れる。


 それでいて身体能力の上限はまだ上だ。


「まだ、もっと早く…もっと強くなる…」

 無我夢中で敵を倒すカルマは、空が白み始めた頃に交わした天城との会話を反芻する。





「――――天城さん。……やっぱり…俺は一人で行きます」


 人気の無い町の門で二人は相対する。

 一人は凍て付くほどに無表情。

「腹は据わったのか」

 もう一人は偽りの空と朝日を眺め、これっぽっちも相手に関心が無いようでいる。

「はい。…俺はどんな手を使ってでも、誰よりも先にクリアします」

 それは危険を伴う旅路になる。

 十分な安全マージンをとらずに先へ先へと走る俺の連れは、その戦いに適応出来ないだろう。

 数の限られたプレイヤーを犬死にさせる気は無い。

 だから今は仲間は必要ない。

「正しいかは分かりません。でも俺は秤に掛けてだした答えです」

 感情を押し殺すように言葉を吐き出した。

「なぁ兄ちゃんよ」

 天城は薄く笑う。


「大分苦しんでるようだが、お前の考える正しさとはなんだ?」

「それは……」

 カルマは言い淀む。

 他人の命をチップにして勝手にルーレットに載せるようなことはしたくない。

 だが手段の一つとして頭の隅には置いていた。

「正しさってのはな――」

 天城の視線にカルマは貫かれる。

「正しさってのは言葉は違えど、詰まるところそいつの“都合”だ。置かれた状況次第でいくらでも変わる」


「……」


―――この人はどんな人生を送ったのだろうか。

 どうしてこれほどまでに、ある種の完成を見た観念を持てるのか。


「お前に、なりふり構っている余裕は無いんだろう? なら手段を選ぶな。如何なる道でも、それはお前にとっては王道だ」

「……ありがとうございました…」

 これから何ヵ月もの間、進むのは茨の道になるだろう。

 覚悟を決めた背中を天城に押してもらうことは、心の大きな助けになった。

 謗りも痛みも怖くない。

「オレは町の反対でレベルを上げる。モンスターの取り合いになっちまうからな」

「はい」

「いい顔だ。何か困ったらメールをよこせ」

 最後にそう言い捨て、白髪の男は町中に消えていった。






「ぐッ!」

 右足に走る鋭い激痛が想起を中断する。

「クソッ………」

 短い矢が貫通している。

 身体中の力が痛みに吸いとられように抜けていくのをこらえ、首を巡らして敵を探す。


―――居た。

 ゴブリンがクロスボウを持ったゴブリンアーチャーがすぐそばの岩影に潜んでいた。


「死ねッ………」

 ゴブリンアーチャーに駆け寄り一刀の下に斬り捨てる。


 復讐者の称号はカルマ速さと力を与えた。だがその代償に強靱さを奪う諸刃の剣でもあった。


「つッッッ……」

 たったの一撃でHPは半分弱も削れている。

 痛い。痛みで膝が笑っている。

 だがライカの受けた毒はもっと辛かったはずだ。理不尽への怒りが何度でもカルマを蘇らせる。

 ふくらはぎから飛び出した矢じりを握り、引く。

「うお゛お゛お゛お゛ッッ!!」

 強化を受けたstrに任せて強引に引き抜いた。

 矢を投げ捨てると徐々に痛みが減るのがわかる。

 アイテムショップで買った最下級ポーションを飲み下して立ち上がる。HPは時間をかけて回復していく。

「次の敵はどこだ…」

 しかしカルマはHPが完全に回復するのを待たずして、新たな雑魚モンスターを探しに走り出す。

 疾うに二桁に達したレベルのステータスで、朝から深夜まで戦い抜く体力を得ていた。


 カルマは月明かりが傾くまで戦い、走ってリフテルへ戻り数時間だけ眠り、日の出より先に狩り場に戻る生活を何日も何日も繰り返す。


 気がつけば命知らずのレベル上げに明け暮れる日々を数ヶ月過ごしていた。


短くてすいません

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