10 願望
散りゆくブラッドドラゴンを興味を失った目で見送った天城がリボルバーを消して白髪頭を掻く。
「…パーティーを組んだ理由は分かったな?」
「っ……!」
ナチュラルボスをパーティーメンバーである天城が倒した恩恵である経験値を得た。
カルマはまだ見ていないが、モブモンスター数百体に相当する経験値が入っている。
天城の不可解に高いレベルに対する謎も氷解していく。
「……」
天城が使ったスキルは多数との戦闘に不向き。
恐らく、ボスなどの強力なモンスターだけを集中して倒す方法で効率的なレベル上げをしてきたのだろう。
群れるモブモンスターだけを狙って殲滅するカルマとは真逆のやり方だった。
しかし、一撃でナチュラルボスを屠り、大量の経験値を得られる程に強烈なスキルとなれば、相応の代償があるのは必定。
「相手に触らなきゃ使えないってのは、面倒な話だ」
愚痴をこぼすようでいて、不機嫌ではない様子の天城はブラッドドラゴンがドロップしたアイテムを調べる。
天城の一挙手一投足を見ていたカルマは、そのリスクをスキルの動作から予測出来てしまった。
だがそれでも、聞かずにはいられない。
「今のは…どんなスキルだったんですか…?」
想像した内容に固唾を飲むカルマを見た天城が、意外そうにして、ウィンドウを操作している手を止める。
「効果も何も見たままのロシアンルーレットだ。説明いわく、自分に撃つ回数が多いほど威力が上がるらしい」
一度アイテム欄を閉じてスキル欄に切り替えたウィンドウを、カルマにも見える位置に動かす。
その内容にブラッドドラゴンの恐怖を忘れるほどの戦慄をカルマは覚える
「こんな…ふざけたスキルが……」
天城が使用したスキル《アローン・リーパー》の説明が表示される場所には、こう書かれていた。
スペシャルスキル《アローン・リーパー》
どちらかの手で触れた対象一体に発動可能。
スキル終了まで、使用者と受けた対象、両者離れられなくなり、内外問わずいかなる干渉も不可能となる。
効果:銃弾を一発込めたシリンダーを回し、自分の頭に向けて最大五回の内で任意の回数撃つ。
その後、対象に必中の攻撃として一度だけ撃てる。
自分を撃つ回数による攻撃の変化。
零発:攻撃失敗。
一発:防御力50パーセント無視の攻撃。
二発:防御力完全無視のクリティカルダメージ。
三発:二発の効果プラス出血(大)や永続盲目、致死毒や麻痺などの状態異常を対象に付与。
四発:対象の残りHPや防御力に関わらず、最大HPの九割のダメージ。
五発:耐性無視の即死。
自分に撃った時に弾が出た場合、何発目でも一律即死。
また、発動から完遂まで三分以内に終わらなければ銃は暴発し、使用者はHPを全損する。
「ピーキー過ぎる……」
天秤に掛けるのも馬鹿馬鹿しい、ハイリスク極まる狂った性能。
製作者は何を考えているのか。
「天城さんはこんなスキルで…?」
一撃のダメージとしては比類なき最強の攻撃スキルだとも思える。
しかし、なぜ長期的には安定性の欠片もない、自殺的なスキルを使って生き残っているのか。
確率論でいけば、何度か使用して生き残る可能性は限りなく低い。
だからこそ、逆に。
生き残っているだけの理由が天城さんにはあるのだろう。
システムに付け入る隙が。
「弾が出る時が分かるんですか…?」
もしそうなら、恐れないのも頷ける。
「そうだな…そんな所だ」
天城がウィンドウを再度弄るとカルマに何かが送られてきた。
「……?」
「今のモンスターが落とした武器だ。お前にやる」
プレゼントボックスを開けた中は両手剣だった。
その名も【スレイヤー】。
平均的に攻撃力で大剣に劣る両手剣でありながら、表示された攻撃力はカルマが装備する店売りの大剣の倍近い。
代わりに、要求する筋力も半端ではなく、全プレイヤーの先を行くカルマのstrですら装備するのはギリギリのラインだった。
いかにブラッドドラゴンを倒すプレイヤーのレベルの想定が高かったかが窺える。
「これを…俺に…?」
「オレは筋力は上げてない。軽い物しか使えないから持つ意味が無い」
アイテムボックスから出して装備した片刃のサバイバルナイフをぶらつかせる。
「相応しくないって事だ。オレはこいつで十分」
「でもこんな高価そうな―――」
使えないとしても、売るなり置いておくなりするべきで、貰えないと言いかけて思いとどまる。
天城は金や自己顕示欲に執着する人間ではない。
金を腐るほど持ちながら、煌めくような身なりをしていないのだから。
「いえ……頂きます」
常人なら天城からのこの贈り物を、飼い慣らす為の飴だと思う所だ。
だがそれらの者とは人種が違うとカルマは感じていた。
天城が聖人じみた善人というのではなく、そういった仕込みや謀略を全てを下策だと断じられる、次元の違う強さを持っている。
だからカルマは素直に受け取った。
「よし、行くか」
満足気に天城が微笑んでブラッドドラゴンの飛来した方へ歩を進め、カルマもその横に並ぶ。
「み〜ちゃったぁ」
そのはるか後方数百メートル、カルマの《索敵》範囲外に位置する小高い枯れ木の林。
死んだ木の影に潜んでいた黒のロングコートのフードを被った女がズルリと座り込む。
「あれが最強って言われてるカルマと天城かぁ……イカしてるじゃん! メチャクールじゃん!? 最ッ高じゃん!?!?」
肩を歓喜に震わして喜びを露にする。
抑えきれない高まりを枯葉に横たわる倒木を殴りつけてはひきつった笑い声を上げて発散する。
涎で覆面代わりの口布までべとべとに濡らしている始末だった。
「ハアハア……」
「司令官なんだから落ち着きましょうよ…」
「アヘッ?! そ、そうだね!?」
宥める声に奇声を返すも正気に戻った女は枯葉を払って後方に声を飛ばす。
「それじゃあみんな、もうちょっと追いかけるけど準備は良いかぁい!?」
その声に反応して、木陰からぞろぞろと出るわ出るわ完全武装が二十人以上。
その全員が漏れなく妖しい光に目を爛々と輝かしている。
「皆殺し! 皆殺し!」
「ゲヒャヒャヒャ!」
「うんうん、殺る気が有ってよろしい!」
どう見ても危険な集団に満面の笑みのサムズアップで応える女。
「£※m◆¶n‡Ξд!?」
「相変わらずリンド君は何言ってるのか分からないねぇ」
両刃斧を担いだ大柄な男が女に迫る。
「あいつらを早く殺らせろよ団長っ!!」
「ぼん君は殺る気が有るのは良いけど、少しは我慢を覚えた方が良いねぇ」
フルフェイスの兜面を押し退けて豆粒大になったカルマと天城を遠望する。
「じゃ、何処までお出かけするかは知らないけど……そろそろ着けよっか」
天城のチートスキルですが筆者は絶対に使いたく無いです。
作中一ラリってるキャラの顔出し。
まだ出番は先ですけどね。
ご意見ご感想ほちぃです。




