中学生のころの二人
「母さん。母さんはあの人との思い出になにかある?」
「そうね、じゃあ昔話をしましょうか。」
「孔明君!」
月英が、縁側でのんびりとしていたボクの所に走ってきた。両手に何かを大切そうに入れている。
礼儀正しい月英がチャイムを鳴らさずに庭に来るなんて不思議だ。
目には涙が溜まっている。
「どうしたんですか!?」
ボクは裸足のまま庭に飛び出す。月英はゆっくりと彼女の小さな手を開いた。
そこには、さらに小さな小鳥がいた。本当は純白だっただろう美しい羽毛は紅に染まっており、もうピクリとも動かない。
その小鳥は、月英がつい最近拾ってきたメスの小鳥だった。
「猫に噛まれて死んじゃった…」
その言葉がきっかけとなり、月英の目から次々に涙があふれ出てきた。
「そう、ですか…月英。お墓を作ってあげましょう。彼女のために。」
ボクは泣きじゃくる月英の背中をゆっくりとなでながら言い聞かせるように言った。
「おは…か?」
ボクを見上げて言う。
「そうです。さあ、いきましょう。」
ボクはゆっくりと月英を立ち上がらせ、庭の片隅へと小鳥の亡骸を運んでいった。
月英はなきながら土を掘った。爪に土が入り込むこともいとわずに。
僕も無言で掘った。月英の泣く声だけが、響いていた。
「天国でも、元気でいてね。」
作り終わったお墓に二人で手を合わせる。
小鳥のお墓を作り終わって、心の整理がついたのか月英は泣くのをやめた。そして、ボクのほうを振り返った。
「孔明君。ありがとう。それじゃあ私帰るね。」
「どういたしまして。さようなら」
ゆっくりと手を振って見送る。
月英は笑顔で帰っていった。
ボクにはたった数日しか一緒にいなかった小鳥が死んだだけでは涙は一粒の流れないだろう。
あまり、物にも、人にも執着はないと自分でもわかっている。なのになぜだろう
月英が泣いているのが、自分のことのように悲しかった。
なんとなく、彼女が空っぽの自分に感情を与えてくれるのではないか、そう思った。
「へぇ。そんなことがあったんだ。庭の端っこにあるのってそのお墓なの?」
「そうよ。あの人は帰ってきたら必ずお花を添えてくれるの。優しいでしょう?」
「あの人が、そんなことする人だとは思ってなかったよ。」
今ではまったく想像のつかない父さんが見られました。