第2章 1話 変化
「行ってきます……」
進は昨日の話の後、一睡もしていなかった。鬼とは何なのか?そして、【それ】を継いでいなければ……。
「進……」
「!!!」
進は母の声に驚き、後ろを振り向く。
「何ですか?」
「昨日の話は聞いていましたか……?」
彼の体が硬直した。いつも優しい母から殺気が放たれたのは生まれて初めてだった。
「何の事でしょうか?私は昨日、動ける状態ではないのは知っているでしょう?」
「そうでしたね。 ではお行きなさい。 燕奈は行ってしまいましたよ?」
「……行ってきます」
なんとか誤魔化し進は燕奈を追う。
「おはよう♪お兄ちゃん」
「おはよう。燕奈…」
妹、燕奈はいつもと変わらず元気だった。
ーーー燕奈になら話してもいいんじゃないか?いや、もし二人の内どちらかに聞かれたら……。
いろんな思考が彼の頭を駆け巡る。しかし、その考えは燕奈の声でかき消される。
「お兄ちゃん……。今日は元気ないね?何かあったの?」
「なんでもないけど?」
無理に元気を装う進。だが、心内は不安でいっぱいだった。
ーーーいや、燕奈に話したらいくら子を作れるからと言っても、父上なら殺しかね ない。
そんなことを考えながら歩き、二人は学校へ着いた。
「おはよーっ♪えんなちゃん」
「花ちゃん♪」
教室に入るなり燕奈は友達の花に抱きつく。そして、進は無言のまま席についた。
「どうしたんだ?悩みごとか?」
話しかけてきたのは進のよき理解者でもあり、無二の親友。神楽 周だ。
「別に…」
「言うと思った。 ま、無理に聞こうとは思ってねぇしな」
「なら聞くなよ。 そういや、楓はどうした?」
教室内を進は見渡すが楓の姿はなかった。彼女は毎年、皆勤賞を狙って学校へ来ている。しかし、いつも早く来ているはずの彼女がいないと違和感がある。そんな中、周が口を開く。
「さぁ? 俺あいつのことなんか興味ねぇし?【進と違って】」
「誰が誰に興味あるって? もう一回言ってみな……」
「だから、進と違って俺は宮崎なんか興味ねぇの」
「へぇ、あんたはそういうことを人前で話すのね…」
後ろに何かとてつもない物がいる。そして、周は何事もなかったかのように立ち去ろうとする。
「あ〜〜……、俺トイレ…」
楓はにこやかな笑顔で周の首を掴み教室を後にした。余談ではあるが、その後帰ってきた周の頬には大粒の滴が流れていた。
「なぁ、進?」
「なんだ?」
ぶっきらぼうに返事を返す進。
「おまえ、【鬼】って信じるか?」
「鬼? 鬼って人を喰う鬼か? それとも地獄の鬼か?」
鬼という単語を聞くと、猛の言葉が戻ってくる。【殺す】という言葉が。
「いや、種類関係なく」
「信じないこともない…… !!!」
突然、進の頭が仰け反る。何かと思ったら先生が投げたチョークが見事に彼の額に直撃したのだ。
「痛ってぇ!!」
「進君。次にうるさくしたら目に当てるよ」
ーーー体罰じゃねぇのか?教員免許剥奪されるぞ?
額をさすりながら、落ちたチョークを拾い先生に返す。
ガタンッ!!!
楓が急に立ち上がった。教室にいた全員は彼女を見ている。そして、彼女はこう言った。
「モウマケルワケニハイカナイ」
「楓さん? どうかしたんですか?」
彼女に近づいた先生は気づいていなかった。楓はもう、【戻れない】ことに。次の瞬間に見た色は………赤だった。