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2話 重なる声

「ふぁぁ〜……。よく寝た…って燕奈?」


 熟睡から醒めた進は辺りを見るが教室には誰もいなかった。それならまだいいが、外を見ると綺麗なオレンジ色に染まっていた。どうやら彼は小一時間寝ていたことになる。


「なんで起こしてくれないんだよ!て言うか燕奈はどこだ!?」


 進は胸ポケットから携帯電話を取り出し燕奈に電話をかけた。


(……はい。 あ、お兄ちゃん?)

「『お兄ちゃん?』じゃなくて今何処にいるんだ?」


 進は怒る様子もなく燕奈に問いかける。そして、返ってきた言葉は。


(今?今は花ちゃんと学校探検だよ。【開かずの間】に入ろうと思うの)

「開かずの間?そこは単にドアが変形して開かない扉だろ?じゃあ、探検してな。俺も行くから」

(わかった。バイバーイ♪)


     プツン……  ツー ツー ツー


 電話をきり進は開かずの間を目指す。開かずの間とは一階の北端にある部屋で扉が何かの事故で変形し、開かなくなった部屋のこと。なぜか扉には除霊の札が貼られている。多分、そうしていれば誰も入らないという先生達の魂胆だろう。




 一階の北端に歩き続ける進。しかし、階段と廊下の曲がり角で妹の友達、山村やまむら はなとぶつかった。彼女は息を荒げ、顔には大粒の涙が溢れていた。進は明らかに違和感を感じ彼女と目線を合わせ質問する。


「どうしたんだ?」

「わからないの……。えんなちゃんが開かずの間に入ったら…急に怖くなったの。だから進さんを呼びに来たの……。ヒグッ……」


 泣いている花の頭を軽く撫で、進は早く帰るように言った。彼女が下駄箱に向かうのを見送った後に、彼は己のもつ最速の速さで廊下を駆け開かずの間へ向かう。




 扉の前まで来た進は息をととのえ扉に手をかける。だが、歌が聞こえ扉を開ける手を止めた。


『月の光は鬼をよび 暗き闇へと連れていく 暗き心は命を枯らし 心は闇へ墜ちていく』


 歌を歌っている声には聞き覚えがあった。もちろん燕奈である。しかし、彼女の声とは別に他の人間の声が聞こえた。


「くそ…! 開かねぇ」


 自分の精一杯の力を出しても扉はびくともしない。が次の瞬間、開かない扉が外れた。正確には吹き飛んだのだ。進は反対側の扉の前にいたが危険を感知し吹き飛ばされた扉側に跳んだ。そして前を見た彼の目には信じ難い光景が入ってきた。


『アラ? アナタハダレ?』

「燕……奈?」


 外見こそ燕奈だったが唯一違う部分があった。それは……瞳。


 いつものあどけない黒の瞳ではなく右目は青、そして左は銀色だった。なにより彼の妹ではないとわかるのがやはり瞳だ。いつも無邪気に見つめてくる瞳はそこには無く、妖艶な瞳があった。


『エンナ。 コノオンナハエンナトイウノカ。 キニイッタ』


 ーーー【あれ】、創れるか?父上は創れると言ったが……。 考えてる場合じゃない!燕奈を助けることが先決だ!


 瞬時に悟った進は右手の人差し指と中指を立て他の指を握り、自分の胸の前にだした。それはまるで【忍】が印を組むようだった。


(構築式形成… 圧縮… 空間符作成… 構築式注入…)


 進は頭の中でプロセスを組み、目を瞑り呟きながら動作をおこなっている。彼の周りは歪み、もはやそこには時間という概念すら感じさせない。


「完成…。 【鬼符・縛】(おにふ・しばり)」


 いつの間にか彼の立てた指には札が挟まっていた。そして、挟まれたそれは燕奈をめがけて一直線に飛んでいく。


『コンナモノ。 ヨケルヒツヨウモナイ』


 完全に余裕の彼女は腕で札を払う。が、払われたそれは彼女の腕に張り付いた。


『ナンダ? コレハ?』

「言っただろ? 【鬼符・縛】だって。それを貼られたやつは自分の意識に関係なく体が動かなくなる」

『コシャクナ…』


 彼女の動きは完全に止まり進は安全を確認し近づく。そして燕奈に触ろうとした刹那。彼女が口を開いた。


『オマエ、【鬼】カ? ……イヤ、【不現者】カ』

「鬼?不現者?何のことだ……」


 不思議な言葉を残して彼女の意識は消えた。しかし、進に安堵の気持ちは無かった。


「あれ、お兄ちゃん?どうしたの?」

「なんでもないよ。燕奈は寝てたんだ。花ちゃんは先に帰らせたからな」


 彼は苦し紛れの嘘をつきなんとかこの場をごまかした。そして、妹に貼り付いている札を、印を組み消した。


「お兄ちゃん!! 鼻血出てるよ!?」


 急に燕奈が叫び、進は拳で鼻を擦る。すると彼の手の甲には鼻血がついていた。そして、その量はすさまじいものだった。いや、量はさほど出てはいなかった。が、血糊が出ていた。


「くそ……。まだ早かったな」


 鼻を押さえ、血を止めながら進は軽く嘆いている。無理に符を創れば本来は死に至るのだ。それが、鼻血だけですんだのだからまだ良い方だろう。


「大丈夫?痛くない?」

「あぁ。もう大丈夫。ありがとう燕奈」


 頭を撫で進は燕奈の手を握り二人で帰った。だが、進はあの言葉が頭の中に残っていた。


『オマエ、【鬼】カ? ……イヤ、【不現者】カ』


 その言葉を頭の片隅に記憶し、進は家に帰る。隣には満面の笑みで話してくる妹を連れて。

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