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4話 「お前は死ぬ」

年末年始中はイロイロと忙しくて更新が出来ませんでした。

まだまだ続く?と思うので今年もどうぞよろしくお願いします。

 さほど長くは感じない時間、進は夜の歩道を歩いている。しかし、強烈な吐き気と全身を貫かれたような痛みがある進にとっては生きた中で一番長い時間に感じているだろう。


 −−−くそ…。さっきの【狼】族のせいだな…。あちこち、っていうか全身痛ぇし気持ち悪いし…。


 彼は右足を引きずりながら自宅までの帰路を歩いていた。


 −−−体が更に動かしづらくなってる・・・。右足がまともに動かないな。


 だいぶ歩くと進の目の前には我が家が見えてきた。誰もいなく、友を斬った家が。ゆっくりと屋敷の門を体で開け中へ入っていく。


 −−−荷物用意する前に少し寝たいな…。


 そう思った進は玄関を開け自分の部屋へ向かった。しかし、一つ重要な点に気づいた。


 −−−そういえば、父上の部屋ってどうなってるんだ? 母上の部屋は見たことあるし、燕奈の部屋も一回だけ勉強教えに入ったし。けど父上の部屋はないな。


 進は探究心がわき父親、猛の部屋へ向かった。猛の部屋は家の一番奥にある。彼は壁伝いに部屋を目指した。


 ―――――――


「ここか? 父上の部屋…」


 今時分、ドアではなく引き戸の部屋というのも珍しいが進はこの家の子。まったく興味・関心もなく父の部屋の引き戸に手を当てる。


「な〜んか嫌な感覚だな…」


 軽く苦笑いをしながら引き戸の前に立つ進。その姿は『怪しい』の一言で説明できるだろう。

 すると、急に真剣な顔つきになり引き戸を開ける。


 部屋には誰もいなかった。当たり前のことだが進は信じられない、という顔で部屋の真ん中に目を向ける。


「久しいな…。神薙 進よ」


 低音の声が進の耳に届いた。進は顔を真剣な顔に戻し口を開く。


「なんであんたがここにいるんだ? ……【鬼】」


 【鬼】。その言葉に反応するかのように部屋にいる男は眉を動かす。そして、理由もわからない溜め息を吐き男は口を開いた。


「何故我が鬼だと思う? 神薙の生き残りよ…」

「その言い方は止めろ。お前が【鬼】という証拠は三つあるさ。まず一つ、俺の声が戻ったこと。俺の声は【鬼】を剥がす対価として渡したものだからな。これが戻るんなら【鬼】の力が濃い場所にいるか【鬼】を体に戻すしかないってこと。二つ、気配。お前からは気配がまったくしない。どんなに気配を消すのが上手かろうが目の前にいても気配が感じ取れないって事はないからな。そして三つ、これは感覚だな。俺は部屋に入る前…いや、帰り道からか。途中で意識がなくなった。それはあんたが出てきたからだろ? 意識が戻った後は急激な吐き気、これはあんたを呼び出した対価として俺が無意識にあげたんだ。違うか?」


 進はこれでもかというくらいの冷たい視線を男に送った。男はそれを聞いた後、数秒時間を置いて口を開いた。


「その推理は三分の二正解だな。最後の…感覚か? それは違う。我は貴様に力を貸した覚えはない」

「じゃあなんで俺は意識がなくなったんだよ?」

「ならば何故、我が出てきたと思った? 只の体調不良ということもあるだろう?」

「質問に質問で返すな」


 鬼は自分の矛盾に気づいていなかった。只の体調不良、と言ったがその前に『自分が出てきた』と言ったのだ。それに気づいた鬼は話しを中断させた。


「話は変わるが…」

「なんだよ…?」

「貴様は人を斬ったときどう感じた?」

「お前はどうなんだよ?」

「質問に質問で返すのは感心せんな。貴様の言葉だぞ?」


 その言葉に進は唇を噛み溜め息をついた。


「もう一度問おう。貴様は人を…同種を斬ったときどう感じたのだ?」

「…ゃだった」

「聞こえんな」

「嫌だったに決まってるだろ! なにが楽しくて人斬りなん―――――」

「本当にそう思うのか?」


 あきらかに殺意のこもった声、その声に進は軽く驚き息を呑んだ。


「聞こえなかったか? ならばもう一度言おう。本当にそう思うのか?」

「ぁ…当たり・・前…だろ」

「違うな」


 進の答は完全に否定された。『違う』、ただそれだけの言葉は進の心をひどく傷つけた。鬼は口を閉じることなく話しつづける。


「貴様は心の奥底でこう思っていたはずだ。『人を斬りたい。肉を裂き骨を砕き果ては脳漿すら破砕したい』…とな。違うか?」

「違う…俺はそんな事は―――――」

「そうか、ならば貴様は三種間の戦争において誰よりも早く死ぬと言うのだな?」

「なんだよ? 三種間の戦争って?」

「人間ごときに教えるものはない。話しを戻そう。ならば何故、貴様は戦う?」

「戦わないと殺され―――」

「違う」


 またしても完全な否定。まるで鬼は進の存在を否定しているようだ。鬼の話は続く。


「『戦わないと殺される』。これは建前、戦いに身をおくものは少なからず求めているものがある。それが何かわかるか?」

「……」

「【力】だ。戦いに必要なものは絶対的な力だ、故に戦い、力を求め、更に戦う。貴様の奥にある欲求は力だ」

「じゃあ、どうしろってんだ?」


 進が口を開く。その答はわかりきったものだと知っていても。


「我を受け入れろ」


 鬼は真剣な目つきで進を見た。一方、進はまだ何かを迷っているようだ。


「俺は…」


 何かを言おうとするが口には出さないでいる進。しかし、意を決して彼は口を開いた。


「俺は…誰も殺したくない。もう二度と…」

「ならば、我が殺す…」


 鬼は部屋に掛けてあった刀に手をかけ刀身を引き抜き進を斬りにいく。


「やめろ!! なんで…」

「戦う意思がないと言うなら我が殺しその肉体を頂く!!」


 鬼は刀を横に一閃する。進はそれを体を屈めて避け鬼の足を払い家の外に走った。


「逃がさん!!」


 鬼は鞘を捨て進を追いかけた。


 ――――


「何故力を求めぬ? 力こそが生きることになるのだ」

「違う!! 力は人間から恐怖と絶望しか生み出さない! ・……。」


 鬼は刀を巧みに操り進を斬りつける。しかし、進も反撃はしないもののその全てを避ける。すると、急に鬼は刀を止め、口を開いた。


「貴様、今何と言った?」

「……」

「答えよ!!」


 刀の先端を進に向かって振り上げながら鬼は問う。しかし、進は俯いたままで口を開こうとはしない。


「何故答えん!」


 文字通り鬼気迫る表情で鬼は進を睨みつける。それを感じ取ったのかようやく口を開く。


「鬼は死ぬのか?」

「鬼は肉体が滅びることがあっても魂は消えることはない。これは他の一族とは違う【鬼】族の特別な能力になる。故に我は鬼を継がせるものを自らが選ぶのだ」

「身体が死んでも魂は死なない。不老不死ってことか…」

「そういうことになるな」


 不老不死。その言葉に進は何を思ったのか、真剣な眼差しで鬼をにらみ口を開いた。


「なら…、俺は鬼を、いや【地獄】を受け入れる」


 進の言葉に鬼は眉を動かし口を開く。


「……何故だ?」

「なに?」

「何故急に我を受け入れるようになった? して、何故鬼ではなく地獄と言う?」

「俺は殺した人の分まで生き続ける。だけど、人間は生きてせいぜい100年…。なら、永遠に生き続けるほうがよっぽど罪滅ぼしになる。永遠に生きるってことは死ねないってこと。それはかなり退屈だろ? 死にたくても死ねない。それは本当の【生き地獄】だ」

「なるほど…。確かに我は六百年、この上なく退屈な時間だった。よかろう、今一度聞こう神薙 進。我を受け入れるか!」

「俺は…神薙家現頭首だ。鬼を…受け入れる」


 進の目には一片の迷いもなかった。それを見た鬼は笑った。


「はっはっはっは!! ならば、一つ教えよう。これを聞いた後に我を受け入れることをもう一度聞こう。我を受け入れる前にやることがある」

「なんだよ?」


 鬼は何かを嘲笑うかのように顔を歪ませ、進に近づき彼の心臓付近に拳を当てる。


「貴様の心の臓を頂く」

「な…に?」

「我を受け入れる前にお前は死ぬ」


 手に持っていた刀を地面に深く刺した鬼は少し間を置き口を開いた。


「さて、もう一度聞こう。死ぬとわかっていても尚我を受け入れるか? 神薙 進よ」

「……ここまで来たら引けないって。受け入れてやるよ!!」


 少し間はあったものの進は受け入れることを受諾した。


「ならば…死ね」


    ブシュッ……


 耳を塞ぎたくなるような音が辺りに鳴り響いた。その音の正体は鬼が進の心臓を抉った音だった。


「死んだ後は数日時間を置く必要がある。なに、腐る前に我が入ればいいだけだ」


 グチャ グチャ


 またしても耳を塞ぎたくなるような音が鳴る。鬼が進の心臓を喰っていた。


「もう一つ言うべきだったのだがな…、我を受け入れた後は三日三晩激痛に襲われるぞ。我が言うのも変だが…死ぬなよ」


 鬼は胸から赤い液体を流す進を見下ろしながら呟いた。










 俺は受け入れた すべての闇を


 俺は受け入れた 死ねない地獄を


 受け入れたくなかった だけど受け入れよう


 それが俺の 不器用な罪滅ぼしだから…












         第五章 完

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