3話 進の決意
どうか泣かないで あなたが悪いわけではないのです
どうか泣かないで あなたが泣けるわけがないのです
だって あなたは既に 死んでいるのだから
だって あなたは俺が 殺したのだから…
「ノロワレシコ? ワタシガ?」
突き出していた両手を下ろし燕奈は問い掛けた。
「ああ、そうだ。お前は二種族の血が混ざっている【混血の子】なのだ」
進の体を支配している鬼は冷静な声で言った。
「ソウ…。デモカンケイナイ!!! ワタシハ、オマエヲコロス!!!!」
彼女は右手を上へかざし空中から刀を出現させる。
「【斬】を応用した…いや形に留めた刀か。殺傷力はありそうだ」
鬼は燕奈が出現させた刀を見て冷静に分析している。
「クラエ!! 【斬空閃】!!!」
燕奈は刀を横に薙いだ。当たるはずもない斬撃は空気を切り、一種の【カマイタチ】を発生させ鬼の体を切る。はずだった。
しかし、鬼は自分の刀の切っ先で地面を軽く叩く。すると、たったそれだけで燕奈が作り出したカマイタチは空気中で爆ぜた。
「!!! マダマダ、【斬空閃・連】!!!」
燕奈は諦めずに刀を何度も横に薙ぎカマイタチで鬼を切ろうと試みた。しかし、結果は先程と同じ。数多のカマイタチは皆、空気中で爆ぜるばかり。
「ナンデ! ナンデ!?」
「力に溺れた【混血の子】よ…。それがお前の限界なのだ…」
「ウソヨ!!! ワタシハ【人】ノチカラト【地】ノチカラヲモッテイルノヨ!?」
「【人】と【地】か…。狼は【天】、烏は【人】、【鬼】は【地】。これは古き時代に我が決めた定義だ。【天地人】の参の理。悲しきかな…」
そう言うと、鬼は哀れむような瞳で燕奈を見た後、攻撃に移った。距離があるにも関わらず右手に持っていた刀を振り上げただ振り下ろす。
道場には静けさが戻った…。
「ぅ…ん」
目を覚ました進の目の前に入ってきた光景は地獄だった。自分の妹が床に倒れている。だけならよかっただろう、しかし現実はそうではなかった。右肩から左足にまで及ぶかなり深い刀傷。そこから溢れ出る赤い液体。そして、うつ伏せのままから動かない妹…。
彼は立ち上がろうとしたが体が言うことを聞かない。腕は動かず指一本動かすのがつらい状態だった。しかし、それでも彼は自分の体を叱り付け無理に体を動かし燕奈のもとに向かう。
「燕奈!!」
膝立ちの姿勢になり妹を仰向けにさせる進。
「ぁ、おに…ゃん…。ど…の?」
燕奈は完全に虫の息だった。声すらまともに聞き取れない。
「燕奈待ってろ!! 今薬持ってくるから…!!」
燕奈を寝かせ家から薬をもってこようとする進。しかし、燕奈の力ない腕が彼の服を握っている。振りほどこうと思えばそうできただろう。しかし、彼はそうしなかった。
進は燕奈の近くで腰をおろした。
「ぁ…のさ、お父…さんとおか…さんは?」
必死に声を出し進に質問をする燕奈。進はもう助からないと知っているから正直に答えた。
「親父は母さんに殺されて、母さんは…俺が殺した」
「そぅ…じゃぁ、先…に行…てるね」
「あぁ…。バイバイ…燕奈……」
出てきそうになる涙を必死に押さえ進は燕奈の死を見届けた。天井を見て眠る燕奈の眼を閉じ、血まみれの体を抱きしめる進。その時、彼は決意した。
−−−俺は、【償い】のために生きつづけよう…。そして、相手が友達でも戦いになったら心を【鬼】にして戦おう!!!
彼の左目は赤く輝いていた。