第4章 1話 「何がしたい…」
あなたを愛す あなたを守りたいから
あなたを愛す あなたを抱きしめたいから
愛するから 私はあなたが憎い…
だって 愛と憎しみは 表裏一体なのだから…
猛と恵が死んでからちょうど一ヶ月がたった。進は燕奈が好きだった薔薇の花束を右手に持ちある場所へ向かっていた。
「お前が死んでもう一ヶ月もたった。早いもんだな…」
墓地に薔薇の花束を置き独り言を呟く。その墓標に飾られていた名は…
神薙 燕奈
「なぁ、燕奈。お前は人間だったのか?」
不思議な言葉を残し進は墓地を後にした。
家に帰ってきた進は家の中には入らず屋根にのぼり仰向けに寝た。
「俺、何がしたいんだろうな? 親父が死んで母さんを殺して、挙句の果てに燕奈まで殺しちまうんだもんな…」
彼の心の中は空虚だった。何も考えられずただ空気のように流れる。今の彼は【人形】そのものだった。
「進〜」
そんな時、家の外から彼の名を叫ぶ者がいた。楓だ。隣には周も立っている。
「屋根にいるのぼってこいよ」
ぶっきらぼうに返事を返し彼は二人が来るのを待っていた。
「なんでこんなとこにいんだよ?」
周が先にのぼって進に質問をする。
「別にいいだろ」
返事を返す進だが、その姿にはどこか寂しいものがあった。
「ねぇ進。あんた何から逃げてるの?」
楓の質問に進は頭に疑問符を浮かべる。
「どういう意味だ…?」
「そのままの意味だよ。あんたは何から逃げてるの? 殺人という罪? 孤独という悲しみ? 思い出という優しさ? あんたは何から逃げてるの?」
「別に何からも逃げてねぇ…」
進の答えに楓は怒り彼の胸倉をつかむ。
「嘘よ!! じゃ、何その態度!? いつものあんたらしくなりなさいよ!!?」
進は彼女の怒りにも動じず据わった目で彼女を見る。
「やめろよ楓」
「周は黙ってて!!」
周の制止を振り切り、彼女はなおも怒りのボルテージを上げていく。そんな中進が口を開いた。
「見つからないんだよ何も…。俺は何をしたいのか。俺が俺なのかすらわからないんだよ」
「どういう意味だ?」
進の答えに周が食いつく。
「お前ら【狼】族は自分が何者なのかわかってるんだろ? けど、俺。つまり【鬼】族はわからないんだよ。自分が人間なのか鬼なのかな…」
「それじゃあ、あんたはそれをずっと悩んでるの?」
「悩んでないさ。答えを出したくないだけだ。これがお前の言う【逃げてる】ってことに繋がるか?」
微笑しながら話す進。しかし、次の瞬間その笑いは消し飛んだ。周が彼の顔を殴ったのだ。楓が彼の胸倉をつかんでいたおかげで進は屋根からは落ちずにすんだ。
「ふざけんなよ…」
「ふざけてねぇ。これが俺だからな」
「お前、変わったな…」
周は怒りを押し殺し進に呟く。しかし、その呟きを聞いた進は笑った。
「ハハ・・。変わった、か。そうかもな…」
周の怒りは限界だった。しかし、彼は拳を握り締めるだけで何もしなかった。そんな中、進はある提案を思いついた。
「このまま話し合っても意味ないだろ? いっそ、剣で勝負をつけないか?」
この提案に皆納得し、屋根を下り進の家の道場に向かう。
−−−俺の【力】、見せてやるよ。楓。周…。