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第3章 1話 暴力

 いつからだろう 死を望んだのは



 いつからだろう 生を拒んだのは



 それはわからない だって私は鬼なのだから……




 静かな空間に静かに眠っている進。


 彼は呼吸音すら聞き取りづらいほど静かに眠っている。保険室には先刻まで周と楓がいたが朝になったので家に帰ってしまった。


「ん……」


 何かに反応し進は体を起こし目を開く。


「あれ?ここ…」


 彼はまだ、自分がどこにいるかわかっていない。周か楓がいれば説明しただろうが。


「保険室か?頭痛てぇ…」


 両手で頭を押さえる進。相当な痛みなのだろう、顔も苦痛でゆがんでいる。


「今、何時だ?」


 ベッド横に置いてあったバッグから携帯を取り出し時間を確認する進。そして、今の日時は。


 06/07/29(土) 10:49


「約一日寝てたのか…。しかも保険室に」


 ーーーなんで寝てたんだ?まぁ、いいや。とりあえず帰ろう。帰ったら父上に平謝りだな…。


 深くため息をつき鏡で寝癖を直し、彼は学校を後にした。




 ーーーさすがにこんな昼間から制服着て歩いてると周りの人に見られるよな。


 そんなことを考えながら家へ帰る道を一人で歩く進。そんなとき、目に止まったのが二人の不良とそれにからまれてる楓の姿だった。


「ネェチャンよぉ!!人にぶつかっといて誤りもしねぇってどういうつもりだオラァ!!」


 ーーーまだいたのか?あんな時代錯誤の不良。しかもなんでポケットにスタンガン隠してんだ?バレバレだけど…。


 からんでいる不良は誰が見ても不良とわかるほどだった。休みの日なのにも関わらず長ラン(学ランを長くしたもの)を着ている。それに髪型も今する人は皆無に等しいリーゼント。


「そんな…、あなたたちがぶつかってきたんじゃないですか……」


 やけに女の子っぽい楓。それを見て進は苦笑いをしている。もちろん楓のはるか後方から。


 ーーー面倒くさいが助けてやるか。


 そう決めた進は楓に近づき肩をポンと叩いた。


「よっ」

「す・進!?なんでここに?」


 相当驚いている楓。この道は進の帰り道なので通るのは当たり前だ。


「細かいことは気にすんな。助けに来た」

「んだとゴラァ!!!はったおすぞ!!?」


 ーーー男にはったおされて嬉しい奴はいねぇよなぁ…。例外を除いて。


 隠し持ったスタンガンを進の腹めがけて突き出してくる不良の一人目。二人目はまだ動いていない。


 それを確認した進は突き出してきた手を右足で上へ蹴りあげ、体を回転させ蹴りあげた右足が地につくと同時に左足を不良の鳩尾(みぞおち)に繰り出す。

 不良は豪快に後ろへ倒れ、まだ移動していない不良に助けを求めている。


 一方、助けを求められた不良は倒れた男の秘部を踏みつけた。男は体をビクンとさせ、動かなくなった。


 ーーーうわ……。【あれ】は効くだろ男にとっては…。


 軽く男に同情する進。しかし、そんなことも束の間。不良はどこからか木刀を取り出し進の頭めがけて振り下ろす。

 彼はギリギリ避けて、バックステップを踏んだ。事実、後一瞬避けるのが遅れていれば彼の頭は頭蓋骨もろとも粉砕していただろう。


 ーーーあっぶな…。あんなの防具付けてても重傷だぞ!?まぁ、今喰らえば死ぬな……。怖っ…。


 間合いを空ける進だが不良は剣道の経験者だろう。一気に間合いを詰め、首に突きを当てる。

 進はなんとか紙一重でかわす。しかし、避け続けるのも無理があるだろう。そう考えた進は自ら前に出た。


 ーーー多少は痛いが心(刀の重心部分より前方の事)さえ外せば…!!


 木刀が進のこめかみに当たった。振り下ろすと思っていた二撃目は柄の部分を使った不意打ちに近い攻撃だった。当然、至近距離にいた進は避けられずに木刀を喰らった。だが、頭は横に逸れたが彼は体勢を低くし不良の腹に渾身のボディブローを浴びせる。


「ぐ……」


 両膝を折り地にうずくまる不良。周りを見ると一人目の不良はもういなかった。


「すごいよ!進。不良を二人も倒すなん…て……」


 楓が進に近づこうとしたが足を止めた。理由は明白だった。彼はうずくまる不良に更に攻撃を加えていた。それも、木刀で。


「ガッ!!ギッ!!やめで!!くだ!!!」


 不良が謝っているのにも関わらず進は止めない。それどころか、更に力を加え叩く。


     メキッ!!! ゴシャ!!!   ブシャ!!!


 不良の骨が折れても、血を吐いても、意識を失っても彼は不良を叩き続けた。木刀の先端は赤黒く変色していた。


「進!!もうやめて!その人はもう大丈夫だよ!!」


 楓が進に抱きつき制止する。彼は木刀を手放し、こう言った。


「【羨ましい】…」

「え?」


 そう言った後、彼はバッグを片手に持ち家に帰った。不良を殺しかけた場所から数m離れた場所で彼はいったん振り向いた。そして、楓はその目を見逃さなかった。


「あの目、【昨日と同じ】…」


 彼女は、ただ静かに歩く進に恐怖しか感じなかった……。

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