6話 周と楓
「これでよし」
二人を背負い保険室まで来た周は、二人をそれぞれ違うベッドへ寝かせた。
「楓も力に目覚めたのか…」
ーーーじゃあ、これで【全員】が力に…。
彼が考えているときに楓は目を覚ました。そして、彼女の体を見た周は目を見開いて驚いた。それは彼女の傷がすべて癒えていたのだ。
「使ったのか?」
「ええ。【私の力】って体力を犠牲にするらしいの…」
一度は起きあがった楓だが、体を支えきれずにベッドに倒れた。
それを見た周はゆっくり立ち上がり楓に近づく。
「ダイジョブか?」
「少し無理…。ねぇ、しよう?」
「ここでか?」
周は少し慌てて周りを見る。そして、誰もいないのを確かめ楓の方を向き小さく頷く。
「じゃ、早くね…」
「はいはい…」
そう言い二人は唇を合わせる。しかし、楓は動けないので正確には周が楓に口づけをする形になっている。
「んっ……」
甘い声を漏らす楓。しかし、そんなことをよそに周は舌を絡める。
彼の舌が彼女の口内を一巡すると、彼は唇を離した。
「終わりだ」
「ありがと。さっきよりは楽になった」
そう言うと、楓はベッドから体を起こす。そして、進を見る。
「ねぇ…」
「なんだ?」
「進って本当に【人間】なのかな?」
その言葉に周は反応した。蛇のような眼、楓を躊躇なく殺そうとした姿、そして人間とは思えないほどの力…。どれもいつもの進なら考えられなかった。
「さあな。けど、こいつが人間だろうが【鬼】だろうが関係ねぇ…。こいつは…進は俺たちの友達だろ?」
友達。その言葉を聞いた楓は微笑んで進の額を撫でた。
一方、進はまるで死んでいるかのように眠っている。
「けど、【鬼】ってなんなんだろ?」
楓は撫でていた手を止め周を横目に見る。
「それはわかんねぇ。ただ、俺ら【狼】と対の存在ってこと以外はな」
「【鬼】と【狼】か…。【鬼】ってどんな力を持ってるのかな?」
彼女は少し笑みを浮かべて進を見ている。
「さぁな…。只、得体が知れない力だ。俺ら【狼】は力に目覚めるとともにその力のすべてがまるで昔から知ってたような感覚になる。しかし、力を制御しなきゃいけないけどな。だが、それが【鬼】にあるとは思えない」
「なんでそう言いきれる?」
楓の質問に少し悩む周。
「これは憶測にすぎないけど……、おまえが気絶してすぐに俺は進に【やめろ】と言った。けど、あいつは止めるどころかこう言った。【ここに進という人間はいない。鬼だ】と。だから、な」
「つまり、早い話が鬼が体を支配するってこと?」
「多分な…」
「有り得ない!!じゃあ、進の体には二つの命が入ってるってこと!?」
楓が周に叫ぶ。しかし、それでも話の中心になっている進が目を覚ますことはない。
「有り得ない。って言うなら俺らも【有り得ない】ぜ?人間から狼になれる力。その一人一人に与えられる特別な能力。違うか?」
「た、確かにそうだけど……」
急に静かになる空間。
「とりあえず楓、寝とけ。力の代償が体力だとキツイだろ」
「そうだね…。おやすみ」
そう言い彼女はベッドに横になり眠りについた。そして、周は椅子に座り背もたれに寄り掛かり天井を見上げた。
ーーーこのまま進が目を覚まさなかったら、楽なのに……。
残酷なことを考える周。彼はいつの間にか窓の近くに立ち景色を見ていた。
「【血】か……」
周は進を見て呟いた。
第二章 完