第10話
ソーファンの世界には多くの秘境が存在している
そこには数々の遺跡や強大なモンスターたちが冒険者たちを待ち受けている
その中の一つ
『天壇山脈』
そこは世界最高峰であり、伝説の竜が住まう地
天壇山系にはもっとも標高の高い地点が二か所ある
すなわちそれが『北天峰』と『南天峰』である
そこに二匹の竜が住んでいる
北天に棲まうは、黒竜の『ドメフメアミア』
南天に棲まうは、白竜の『ギイガミア』
二体は一つの卵から生まれたとされている
元は一つの山であった『極天峰』に産み落とされたその卵は奇跡的に二体の竜を宿していた
しかし一つの卵から二体の竜が生まれることはない
何故なら卵の中には一体分を育てるエネルギーしか内包されていないからだ
ではどうやって二体は生まれたのか
卵はまだ二体が未熟な状態から二体を生み出すのに必要なエネルギーを集めるべく、周囲の生命や自然から魔力や生命力を集めた
それにより極天峰の周辺は生命の住めない、精霊力の乏しい土地になった
かくして二体は誕生した
そして生まれたその時から数千年に及ぶ戦いが始まった
一つの峰が二つに裂けたのはそのせいである
二体はお互いを食らうべく戦う
そしてエネルギーを使い果たしたとき眠りにつく
その戦いが100年ごとに繰り返されている
二体の戦いは苛烈である
山はそのたびに形を変え、山頂の雪は解けて下界に洪水を起こす
15年前、周辺国にて連合軍が形成されて討伐を試みたことがあるが、一体を攻撃している最中にもう一体が飛来し、壊滅したという
だがしかし歴史学者の見解では、敗因の一つは時期の悪さであったという
残り数年で再び戦いが始まるタイミングで戦いを挑んだのは悪手である。と
すなわち二体の竜はお互い傷が癒え、戦う力をほとんど蓄え切ったタイミングであったからだ
連合国軍を壊滅させた竜たちはそのままお互いに戦いを始め、やがてまた眠りについた
今はそこからまだ5年ほどしかたっていない
「つまり竜たちのエネルギーは現在まだ5%しか溜まってないってことなの」
古代図書館にて巨大な本を机上に広げたまま、マリチは得意げに言った
「後半の情報は、冒険者新聞の記事まとめだけど」
「初めて聞いたイベントだな」
「イベントって……。私にはもうリアルな伝承にしか聞こえないわよ」
基本的に俺はゲームの時に実装されているイベントは全制覇していた
しかし壁に貼られている依頼には知らない物がたくさんあった
ギルドのシステムも少しずつ違うようだし、やはりここは完全に同じ世界ではない
というか、少しずつこの世界も独自の変化や進化をしているのかも
「今のとこまともに戦えた人がいないから(秒殺されるので)レベルや戦闘力とか攻撃方法はまったく不明だねえ」
「天壇山脈なら、途中の山小屋までは転移できるな。行ってみるしかない」
いちおう薬とかはそろえておいた方がいいだろう
やや気圧されている日枝さんを促し、俺たちは競売へ向かった
基本的に店売りされているアイテムはしょぼい
効果の高い装備や道具は、他の冒険者たちが手に入れて競売に出したものを買う
「たっかい」
マリチが呻いた
「なるほど供給が少ないから希少性が高すぎるか」
それを横で見ていた日枝さんは自分のアイテム欄をみながらため息をつく
「装備は持ってるのに、お金や道具はないんだね」
そう。ステータスや装備そしてイベントなので手に入れる”だいじなもの”は引き継いでいるのに、お金や消耗品は全然持っていないのだ
なので生きていくためには普通に日々の糧を得るための仕事をしなくてはならない
なんというか、上手くできている
まあ強力な回復アイテムが手に入らなくとも、我々には転移魔法がある。ヤバそうだったら一旦退却すればいい
マリチは俺と日枝さんの手をパッと取ると、すぐさま転移を開始した
「さあ登るか」
転移した先は雪山である
明らかに極寒の地であるがソーファンの世界に寒暖を感じるパラメータはない
なので、寒いなとは感じるもののなんとなく過ごせないほどではない
「ところで天壇山脈としか情報がないんだけど何処なんだろうね」
マリチは立ち止まっていった
「山脈って広すぎるだろ」
「伝承ではもっとも高い二つの頂きと書いてあったから、あの二か所の山頂を目指せばいいんじゃないかな……」
ここから見える山頂はまだ遥か遠くだ
「足が速くなる呪歌とか歌おうか…?」
日枝さんは恐る恐る提案した
迷わずうなずく我々
ファンタジーの世界は便利だ。走り続けても疲れはステに反映されない
そして広大な世界であればあるほど移動時間の短縮はそのまますべての効率に関わる
魔力のこもった歌の力で倍速になった我々はひたすら走り続け、程なく(といっても小一時間)南天峰とよばれる方の山頂に到着した
山頂は標高も相まって植物など一切生えていない荒野である
一見すると何か生物がいるようには見えないが……
「ところどころに大きなクレーターみたいな窪みがあるわね」
天壇山脈が火山であるという設定はないはずだ
つまりこの地形は竜同士の戦いの何かしらの攻撃でこうなっているのだろう
ということはそう遠くない場所にいるはずだ
とか考えてる間に一番大きいクレーターの前まで走っていたマリチがこっちを向いて手を振っているのが見えた
下をのぞき込むと、巨大は灰白色のドラゴンが丸くなっているのが見える
「さすがに大きいねえ」
「けどがっつり寝てくれて助かった」
「……身体が傷だらけで……ちょっと痛ましいけど」
これがゲームだからとかは関係ない。というか今となっちゃ現実だしな
俺は人間なので、人類に仇なす存在は倒すのみというポリシーがある
「早速準備しよう」
「さすがに本気で行こうかね」
どんな攻撃がくるかはわからないが、即死や破魔の攻撃が一番怖い
光耐性や闇耐性をあげ、防御魔法を張る
マリチは白く光る魔導書で蘇生付与(瀕死になっても生き返る)、自動回復、物理防御、魔法防御をしたのち、黒く揺らめく攻撃用の魔導書に切り替える
「わ、私は何したらいいだろ」
一人焦っている日枝さんに対し、マリチが不敵に笑った
「普段通り、魔法剣士の戦い方でいいよ!ただ、死なないように自己回復優先で」
……死ぬ?
たしかに現実世界でもこっちにきてからも死を予感したことはなかった
だが自分よりも強い敵と戦ったら死ぬんだよな
死に面すると人はかえって生を実感するものである
「面白くなってきた」
俺は眠っている白竜に対し、閃光(敵の命中率を一瞬さげると同時に敵を強く引き付ける)の魔法を放った
ギヌロ
微動だにしなかった白龍の目が開く
だがまだ動かない
「さあやるよーー!特氷魔法!…からの特水魔法!」
マリチは小さな氷魔法をぶつけた。この魔法は普通の氷魔法ではなく特殊な性質を付与されている
そこからさらに同じ性質をもった水圧の魔法をぶつける
二つの特殊な性質をもった魔法を続けて当てると連携というものが発生する
「さあ、これでどうだ~!極大氷河!」
冷気攻撃を超強化する『湾曲』連携空間が発生した瞬間、マリチは超巨大な氷柱を白龍めがけて発射した
「からの、漆黒斬!」
連携は繋がる属性であればどんどんつなげることができる
湾曲連携に重力属性を持つ技をぶつけると、連携は『闇』へと進化する
さっきまでの湾曲空間がズズズズと闇オーラに包まれる
「あ!私も…!氷柱Ⅲ!!」
連携は複雑な方程式で成り立っているが、こういう教科書的な法則にはおそらく強いであろう
日枝さんはすかさず属性ダメージの強化される氷魔法を合わせてきた
「さあこれでどうだ~~極大岩石!!」
闇連携中のオーラに包まれる白龍の周辺に巨大な岩石がいくつも浮かび上がり、そしてそれらが勢いをつけて目標に集中した
連携時に極大魔法を当てるとダメージは何倍にも跳ね上がる
轟音が鳴り響き、地面が大きく揺れた
穴を見下ろしたまま、マリチはぼそっと呟いた
「……死んだかも」
竜の見開かれた眼は光を失っていた
「さすがに5%のエネルギーしかなかったから…?というかミナトくんとマリチさん…強すぎる」
「……」
「死んでるねえ」
マリチの分析魔法が相手のステータスを表示する
確かにそこには白竜ギイガミアのHP0が表示されていた
「うーん。こんだけの大がかりな新イベントでもワンパンちゃワンパンだったか~」
「じゃあ次は北天峰の方に……あ、待った」
「え?」
なるほどそういうことか
一瞬巨大な影が天の光を遮ったかと思うと、上空から巨大な影が舞い降りてきた
羽ばたく翼が暴風を生み、思わず後ずさる
黒龍が来た…!
そして地面にドンッと足をついたそいつは、白竜の死体に勢いよく噛みつく
何度かガツガツと食らってるうちに白竜の身体は淡い輝きになり黒龍の身体に吸い込まれていった
と、同時に黒龍の身体にもあったたくさんの傷が消え、身体が大きく膨れあがる
そして我々三人の方に向き直り
ヴオオオオオオオオオ
魂をも揺さぶる咆哮をあげた
「なるほどこれからが本番ってわけか」
「面白くなってきたなの~」
「……いや、怖いんだけど…やるしかないよね…」




