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教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

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第98話 曖昧な関係

挿絵(By みてみん)





 ソラルの一命は取り留めた。左の肺にチューブを繋ぎ、緊急性気胸とやらを一時的に応急処置した。すぐに死んだりはしないだろうけど、戦える状態じゃない。肋骨が折れてるなら外科的手術が必須だし、専門家に診てもらう必要があった。


「「…………」」


 私たちは彼を乗せた担架を持ち、倉庫を後にする。現在、歩いているルートは砦西方面に向かう廊下。砦西に目ぼしい施設はないものの、医者がいると思われる砦北を目指すにはこのルートを通るしかない。中庭を経由した方が早いけど、アルカナはそれを断念した。私としてはリスクを冒す価値があると思っていたし、今でも行った方がいいと思ってる。……ただ、私の頭の中は別のことでいっぱいだった。


(――アルカナは多分何か知ってる。――私の出自について)


 確定ではなく、ただの疑惑。直接的な証拠はないし、聞いてみないことには分からない。だからといって、馬鹿正直に質問しても真実が返ってくるとは限らないし、後ろめたいことがあるなら探りを入れた時点で警戒されてしまう。


 聞き出したいなら遠回りに聞くべしだ。


 アルカナに警戒されないような雑談の延長線上であるのが理想。ただ、さっきの余計な一言のせいで険悪なムードになってしまっている。私から話しかけるのは気まずいし、事務的会話以外で向こうから話しかけてくることはない。


「――正直に答えて。――何か私に後ろめたいことでもあるの?」


 頭では分かっていたのに、私は馬鹿正直に質問した。興味関心を抑えることができなかった。もう後には引けない。答えるかどうかは別にして、何らかの反応を引き出すまでは止まることができなかった。


「言えない。というか、言いたくない。言えば傷つくと思うから」


「――決めるのは私。――あなたじゃない」


「じゃあこれは例え話なんだけど、君がクローン人間だと言ったら耐えられる?」


「――私の出自は特殊だって言ったでしょ。――そんなの気にならない」


「だったら、僕と君の出会いが仕組まれたものだと言ったら?」


「――なにそれ。――何の根拠があって」


「ここまで。言えば傷つきそうなのが分かったから、これ以上は言わない」


 アルカナは一方的に遮り、会話を切り上げる。今ので私の思惑は透けただろうし、遠回しに聞いたとしても警戒されて誤魔化されるはず。収穫があったとすれば、私とアルカナの『出会いの必然』。例え話とは言っていたけど、発言したタイミングと声のトーンから考えて、真実の可能性が高い。


(――アルカナとは何らかの縁があった? ――生後じゃないなら、生前?)


 パッと思いついたのは、根拠に乏しい仮説。さっきよりかは多少の筋道が通ってるけど、正しいとは限らない。例えを飛躍させただけで的外れかもしれない。……それなのに、なんでだろう。胸の奥底には妙な納得感があった。


「次は僕が質問する番だ。悪意のことをもう少し聞いてもいい?」


「――勝手にしたら。――答えるかは気分次第」


「じゃあ聞くね。あくまで体感なんだけど、悪意は元々の意思に比べて肌触りが違うと言うか……今まで得意だった意思能力との食い合わせが悪いような感じがするんだけど、気のせい? 悪意を使いこなしつつあるソラルさんが、元々の意思能力を使うんじゃなく、新しい技を考案したのは偶然じゃないような気がするんだよね」


「――あーそれか。――言うの忘れてたけど、感覚的には正しいよ。――普段と真逆の能力を開発するのがベストかも」


「実体のない太陽をモチーフにした能力が表だとして、実体のある皆既日食をモチーフにした能力が裏……だったもんね。参考にしようかな」


 仲直りをしたわけじゃない。かといって、絶縁したわけでもない。知人と友達と仲間の狭間を反復横跳びして、不思議と心地いい会話が繰り広げられる。私たちの行き着く先はどこになるんだろう。砦のゴールは何となく見えてるけど、関係性の終着点は全く見えてこない。……ただ、どんな結末を迎えたとしても、アルカナとの関係は後腐れがないような気がしていた。

 

『―――――』


 そこに現れたのは、一匹の黒っぽい巨大甲虫。見た目的にはカブトムシ系に近いけど、角がない。代わりにゴツゴツとした岩のような外骨格を持ち、見るからに防御力に全振りしたような生態なのが見て取れる。


「――ソラルは任せて。――そいつは任せたよ」


「……任された。ちょうどいい実験台の登場だ」


 意思疎通を図り、アルカナは担架を離し、背中にある両手杖を構える。


 多少のいざこざはあったけど、なんだかんだ頼れる相手なのは確かだった。

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