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教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

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第86話 シャッフル

挿絵(By みてみん)





 建物が崩壊する。首都の構造が変化する。街そのものの作りが変わっていく。私がいる大聖堂前も例外じゃなかった。パズルのピースのように分解され、組み替えられ、天に散らばる。生前葬組とも分断され、私は孤立していた。


「「……」」


 異常を察知し、衝突寸前の拳が止まる。相手は黒の修道服を着た黒髪ロングのひょろガリ男。恐らく手応えからして……大政務長グランドチャンセラー。ルール作りや社会の秩序を保つことが求められ、最も実力が求められる肩書き。たぶんだけど、腕っぷし限定なら四大官職の中でもいっちゃん強い。予期せぬ強敵に私情がダダ漏れになって敵対したわけだけど、事情が変わった。

 

 目の前に広がるのは、紛れもない『超常現象』。

 

 予想が正しいなら、私たちの目的は共通している。


「やめよっか。遊んでる場合じゃないかも」


「概ね同意、ですねぇ。一時休戦といきましょうか」


 最低限の意思疎通を図り、センスを鎮める。


 自ずと目線が向く先は、青猫ラウラと総長ジェノα。


 都市の問題は後回しにして、片付けておくべきことがあった。


「状況整理の時間だね。ひとまず私が知る限りの情報を教えるよ」


 ◇◇◇


 騎士総長宮殿前。セントジョージ広場。


「「……………」」


 そこで繰り広げられていた戦闘。僕と大財務長グランドトレジャラーとの対決は突如として終わりを告げた。どちらが勝って、どちらが負けた。そんな短絡的な決着がついたわけじゃない。物理的に進行するのが不可能になったんだ。

 

 広場の断裂。僕がいる北側と彼がいる南側との分断。


 上空数百メートルに散りばめられた星々の一部となり、接触するのが困難になる。それはまるで、七夕にだけ再開を許された織姫と彦星のようだった。もちろん彼とは初対面に近いし、ロマンチックな関係でもないけど、状況的には似てる。


「この決着はいずれ、また……」


「うん。今はこれを何とかしないとだよね」


 去り際に言葉を交わし、僕たちは背を向け合う。


 バトルフェイズは終了した。次なる工程へと移行した。


 謎解きの時間だ。都市の構造を理解しないと何も始まらない。

 

 ◇◇◇


「――ばしゃと、きれぼし……」


 首都バレッタの常識は変わった。反天則ルールブレイカークオリアによって、空に疑似的な海が生じ、そこに都市の建物が散りばめられた。見たところ、殺傷能力はない。ランダムにマップを切り分けられ、適当に配置された感じ。何らかの理屈や法則があるかもしれないけど、バグに常識や道理を求めるのは素人のすること。玄人ならあるがままを受け入れ、その上でどう調理できるかを考えるしかない。


「――私の専門分野がこんなところで役に立つなんてね」


 小刀の前で停止するクオリアを見つつ、私はしみじみと考える。バグに関する知識は、あくまで個人の範疇で留めていた趣味。それがこんなところで意味を持つなんて思いもしなかった。これも神の気まぐれか、運命のいたずらか。……なんにせよ、都市の構造の原因を知り、バグを解析できる可能性があるのは私だけ。


「――うっし、いっちょやったりますか!!」


 ない袖をまくり、私は柄にもなくテンションを上げる。


 腐っても姉妹。本質的な性格はソフィアと変わりなかった。


 ◇◇◇


「……」


 私は十字路で行われる主戦場を眺めていた。一歩引いた目線で物事を客観的に見ていた。共通点は『音』。介入する余地はあった。運命じみた接点はあった。でも、参加しなかった。できなかったという方が正しいのかもしれない。


 方向性の違い。


 きっかけは、黒髪アフロの悪魔との戦闘。『音』と『音楽』は違う。当たり前のことながら、本質的な部分は全く別物であることに気付かされた。点と線の違い、キャラとストーリーの違いと言い換えてもいいかもしれない。趣や思想が異なるキャラを適当に配置しても、それはただの点と点の羅列に過ぎない。何の意味も法則も一貫性もなく、必然性に欠けている。その場限りでは楽しいかもしれないが、いずれ飽きが来る。意味も法則性もない『音』を無作為に奏で続けても、耳障りなだけだ。テーマやジャンルや舞台に沿い、何らかの共通点を見出し、キャラとキャラを繋げるのがストーリーであり、エンタメ。私が思う『音楽』にも大なり小なり通ずるものがあった。どちらも観衆を楽しませることが根っこにあり、それに欠けるのであれば、私が彼らに迎合する必要性は感じられなかった。私の見立てでは生前葬組の有利は変わらず、あのままいけば敵を退き、儀式は果たされたはず。


 ただ、潮目が変わりつつある。


 首都の構造は大幅に変化し、生前葬組は分断され、上空にまばらに配置されている。見た限り、誰と誰が一緒にいるか把握できないほど入り乱れていた。線が点になった瞬間であり、私如きが干渉できるかどうかも分からない。でも、根っこは変わらない。世界がどうなろうと揺るがない信念がある。


(ラウロ様の遺言は果たす。……何がなんでも!!)


 点と点を線にする決意を示し、私は荒ぶる都市の波に乗る。


 何が起こるか分からない。それでも、亡き主の忠義は貫きたかった。

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