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教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

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第85話 天外魔都

挿絵(By みてみん)





 潮目が変わった。それを十字路での攻防の果てに感じ取る。


 彼女と敵対する理由に直結していた『超常現象』が巻き起こる。


(よっ、待ってました! 本日のメインイベント!!)


 首都バレッタは静かに壊れ始める。南西方面を中心に捻じ曲がり、地面から切り離された建物が球体状に展開する。上空で等間隔に浮かび、天から建物が降ってくることもない。この世のものとは思えない光景が広がっていた。


(いや、違う……。あれは……)

 

 蝙蝠型の灰色の鎧越しに一風変わった風情を眺めるも、違和感があった。首都の構造は変わったけれど、壊れてはいない。天界の意向とは同じようで全然違う。空に走る海に天体を浮かべたような景色が広がる。巨大フレスコ画というか、巨大プラネタリウムというか……不可思議で趣深いデザインが施されていた。


「わらわたちを相手によそ見とは、余裕じゃな!!!」


 響き渡るのは、椿の軽快な声音。威勢のいいことは言うものの、彼女は後方で待ち構えるだけで、基本は何もしない。前線にいる『獣』と『化け物』に命令を下し、後方支援に徹している。椿の強みを最大限に活かした構成。『刃で対象に触れれば勝ち』というこちらのメタ構成とも相性が悪い。操る手下には何の知能も記憶もなく、近距離限定の忘却能力は一切役に立たず、戦況は五分を強いられていた。


『『――――』』


 椿の命令により動き出したのは、二体。鵺は『音の咆哮』を前方に飛ばし、上空に飛翔した私に対し、天海は『大鎌』を横薙ぎに振るう。


「ちっっ!!」


 両手の音叉剣を扱い、鎌の刃先をいなし、どうにか回避する。手傷はなかったものの、防戦一方になっているのは事実。聖遺物レリックのパフォーマンスを100%引き出しながら、思うような結果が出せない自分に腹が立った。慣れてないというのは言い訳だ。センス頼りの闘い方の限界……欠点が浮き彫りになっただけのこと。ようするに私は、体術が未熟。それを認めざるを得ない展開が目の前で起こっていた。


 『黒渦』が展開されたなら、必ずしも彼女たちを倒す必要はない。ただ、不測の事態が起こっているなら、対立状態にしておくのは面倒。実地調査をする前提だと、関係改善か、もしくは倒しておく必要がある。


(あと一人……味方がいればなぁ……)


 答えを決め切れず、攻防と超常の狭間で私は夢を見る。


 なんの見込みもない現実逃避であり、ただの他力本願だった。


 ◇◇◇ 


 首都は彩る。非凡なる現象をもってして、命が芽吹く。これは幸福の種だ。人々が不幸な状態に陥り、ありふれた些細な幸せに気付くための試練だ。ボクが手を下すまでもなかった。神は見ておられる。手塩にかけるまでもなく、心から望んだ結果が手に入る。……これが引き寄せの法則というものか。内面を整えるだけで、外界が望んだ通りに動き出す。眉唾物とばかり思っていたが、こうもボクにとって都合のいい現実が訪れれば、少しは耳を傾けたくもなってくる。


「――鹿ししおどし」


 そこに襲い来るのは大量の鹿だった。小十郎が刀を横薙ぎに振るい、意思で動物を具現化し、空中を走らせている。青い蛇型の鎧を纏うボク……完全聖遺体ペルフェクティに目掛けて数の暴力をけしかけていた。誤解を解くための言葉を交わす暇などなく、闘うことを余儀なくされている。まぁ、これは僕が始めた物語だ。なんの不平不満もないし、今はすごく機嫌がいい。少しだけ遊んであげようか。生かさず殺さず程度にね。


爬王招来パキラキス!!」


 両爪を振るい、具現化したのは巨大な青蛇。背には二対の翼が生え、龍と見紛うような化け物が飛翔する。体長は数百メートル級。恐竜顔負けの存在が生まれ落ち、弱肉強食の時代を再現する。淘汰されるのは当然ながら弱き者。


『『『『――――』』』』


 センス産の鹿は絶滅し、招来された蛇の王は勢い余るままに小十郎へ牙を突き立てる。……回避も防御も反撃も難しいだろうね。体積がデカすぎるうえに、質量に余りあるセンスが伴い、まともに受けた時点でぺしゃんこだ。切り札を使うなら今しかないが、それでもボクに分があると読んでいた。


「秘奥剣…………」


 小十郎は何かを口にし、刀を振るう。最後まで言葉を聞き取ることはできなかった。抵抗する意思は感じたが、何をやっても――。


「――っっっ!!!!」


 蛇王を容易く破り、襲い来るのは百獣の王。ボクの鎧を引き裂かんと縦横無尽に爪を振るい、牙を立てる。ボクも両手甲の爪で応戦するが、速すぎる。こちらが一手動くごとに、相手は四手動いている。場数と手数が違う。闘争本能によって身体能力は極限まで研ぎ澄まされ、殺すためだけに生きると誓ったことでしか発揮されないパフォーマンス。歴史の浅いボクでは足元にも及ばない。完全聖遺体ペルフェクティだろうが、爬虫類の王だろうが、アレの前では触れ伏す以外の選択肢しかない。


『――ォォォオオオッッッッ!!!!』


 雄たけびを上げ、贋作ではない本物の爪を振るう。それはボクの鎧の胴体を削り、胸元に届き、赤い血飛沫が散り、受け身を取る隙もないまま地面へ落ちる。完膚なきまでの敗北だ。一瞬の気の緩みと、完全聖遺体ペルフェクティへの慢心が招いた結末。


(夢は叶っても、現実は無情だな……)


 神はいない。引き寄せの法則など存在しない。


 夢の果てに、経験不足と実力不足が露呈しただけだった。


「似た者同士、キャーッチ!!!」


 地面と激突する寸前、軽いトーンの声音が不意に聞こえてくる。


 フワリと身体が浮いたような心地がし、やんわりと受け止められる。


 ――正体は不明。


 鎧兜に覆われているから、顔は分からない。


 ただ、ボクたちには運命じみた共通点が存在する。


「もう一人の完全聖遺体ペルフェクティか。……君、名前は?」


「イブ・グノーシス。ただの白教修道女。そっちは?」


「ボクはアーケイン・ディ・カリオストロ。ただのしがない眼鏡職人さ」


「目的は?」


「あの黒い渦が芽吹き、人々が不幸の中で幸福を見つけること。だがそれも……じきに叶うだろう」


「んー、どうかな。私も志は似たようなもんだけど、アレは別の思惑が働いているように感じる」


「例えば?」


「神に仇名す者の抵抗。アレじゃ誰も死なない」


「なら、話は早い。一時的に手を結ぼうか」


「おk! 同盟成立!! こっからは運命共同体といこう!!!」


 出会って数秒しか経ってないが、相性は良好。

 

 足並みはピタリと揃い、進むべき方向性は一致する。


『『『――――!!!』』』


 そこに襲い来るのは、錚々たる顔ぶれ。獰猛な三体の『獣』。


 似た要素があるボクたちは、惹かれ合う運命なのかもしれないな。


「「……!!!」」


 両爪と音叉剣を振るい、志を同じくするボクたちは共鳴する。


 共振作用を引き起こし、センスが急激に増大するのを肌で感じた。


 それ以上のことは分からない。形状や数値などで表すことはできない。


『『『――――――』』』


 ただ気付けば、三体の獰猛な獣を倒していた。


 事実として、ボクたちの相性の良さが証明された。


 止まる気がしない。この衝動を止められるわけがない。


「我々は神の代弁者。天界の意向を尊重する存在」


「騎士団総出でかかってくるといい。今のボクたちは……無敵だ」

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