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教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

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第83話 三位一体

挿絵(By みてみん)





 変わった。そう思わざるを得ないほどの変化があった。見た目は何一つ変わっていないが、センスに乱れが一切感じない。恐らく、力みや流れから剣筋を読むことは不可能。達人の領域に到達し、それに加えて、何らかの意思能力が発現したと考えられる。……触らぬ神に祟りなしだ。作戦に関係なければ、スルーすべき相手なのは間違いない。それでも、闘わなければならない事情がある。背を向けるべきではない理由がある。無理をしたいと思えるだけの因縁がある。


「「「……僕たちは三位一体でね」」」


 僕たちは動き出す。『反天則ルールブレイカー』の具体的な仕様も分からないまま、三方に散り、それぞれが建物の屋上に着地し、両手の掌を敵に向ける。刀相手に近距離戦に応じるほど、理性は失われてない。遠距離戦に徹し、処理する。この戦闘中に何らかの不具合が生じても、僕は責任を取らない。


「「「卑怯とは言わないでくれよ!!!」」」


 僕と分身体が放ったのは、無数の意思弾。


 道路中央で刀を下段に構える紫髪の女性に迫る。


「…………」


 迸るのは閃光と爆風。辺りは煙に満ち、生死は不明の状態。


 もちろん倒せるとは思ってない。移動を促すための小手調べだ。


 彼女との決着はつけたいが、刃影の死体は回収しておきたいからね。


 意思弾に不自然な挙動があったとしても、あの様子なら対処するだろう。


 次第に煙は晴れていき、周囲を十分に警戒しつつ、彼女の行く末を確かめる。


(……っ)


 目の前に広がる光景に、僕は絶句した。


 焼き焦げた女性の遺体が地面に転がっている。


 あれが現実なら、弔いの半分は完了したことになる。


 だが僕は知っている。あの異様な光景には心当たりがある。


(もうそこまで使いこなしたのか……。この短期間で……っ!!)


 【羅刹・真打】は抜刀時、空気の層を纏うことができる。


 光の屈折率を調整して透明化するのが基本だが、応用も可能。


 恐らくアレは、現実とは異なる光景を映し出す鏡。空気層の変化。


 プロジェクションマッピングに近く、光の出力はセンスで調整できる。


 ――つまり彼女は、抜刀状態に特化した。


 納刀による空気層の解放は使わず、己がスタイルを確立した。


 一発目で思い至る発想じゃない。通常なら年単位の鍛錬が必要だ。


(感心してる場合じゃない。本物の彼女はどこに……!!)


 僕は分析を終えた後に周囲を見渡し、痕跡を辿る。


 彼女本体が透明化状態であることも考慮に入れ、警戒した。


「チェストォォォオオオオッッ!!!」


 突如、背後から響いたのは、示現流特有の掛け声。


 姿は見えないが、狙いは恐らく上段からの振り下ろし。


「フゥゥゥ!!!!!!」


 続けざまに聞こえてきたのは、吐息。


 安いマイクで拡張されたようなノイズが響く。


 それに呼応するように空気層が剥がれ、彼女が見えた。


 ――刀は下段。


 振り上げのモーション途中で、僕の脳を狙っている。


 助力がなければ死んでいた。刃の切り口を誤認していた。


 とはいえ、僕はまだ生きている。優秀な仲間に恵まれている。


「残念賞をくれてやる!!」


 斬撃を見切った僕は懐に忍び込み、右の掌を伸ばす。


 彼女の腹部に押し当て、意思を集中させ、零距離で放つ。


「――違う!! ――そいつは!!!」


 鬼気迫る様子でジュリアは声を張り上げている。


 今更止まれない。意思は炸裂し、彼女の腹部を抉った。


(なっ!!)


 しかし、手応えがない。僕の意思は空を切っている。


 恐らく、空気層の分身。掛け声も斬撃も全てがフェイク。


 声だけ本物で、本体は別の場所に隠れ、様子見に徹していた。


 ――この後の奇襲が本命。


 もしそうなら理屈は通るが、嫌な予感が拭いきれない。


 ジュリアの言葉が引っかかる。あの後に何を言おうとした。


「残念賞は謹んでお返しします」


 すると、紫髪の女性は消えゆく狭間に応答した。


 文脈を理解した上で、ウィットに富んだ返しをした。

  

 手応えがなかったのは、事実。本体じゃないのも、確実。


 だとすれば狙いはなんだ。僕が彼女と同じ立場だったら……。


「――――!!!!」


 直後、全身を斬り刻まれるような痛みが走る。


 いや、比喩でもなんでもない。実際に斬られている。


 青い血が飛び散り、見境なく身体の部位が切断されていく。


 ――空気層の解放。


 僕の攻撃が発端となって発動した、風の斬撃。


 恐らく納刀を必要とせず、敵の出力を利用した返し技(カウンター)


「――!!!!」


 僕は黒い墨上の煙を発生させ、離れた屋上に瞬間移動。


 大事には至らず、再生に意識を向け、周囲に気を配っていた。


(とんでもない使い手だ。似た能力だが、発想力だけなら僕よりも上)


 素直に今の攻防の負けを認め、敵を称賛する。


 初めてでこれなら、更に成長すれば止めようがない。


(いや、褒めてる場合か。次の手を考えないと、今度こそ……)


「――ぁぁぁあああッッ!!!!」


 息が詰まる思考の中で聞こえたのは、ジュリアの叫び。


 恐らくだが、焼死体が彼女の本体。標的を変え、刃を振るった。


(くそ……っ。僕の分身体は何をしている!!!)


 ジュリアは悪魔だ。今ので絶命したとは考えたくない。


 急ぎ足で戦場に戻りつつ、僕の分身体の居場所を確認する。


「「……………」」


 彼らは建物の屋上に半分埋まっていた。


 物理演算が機能せず、使い物にならない状態。


 典型的なバグだ。僕にとってはなんの優位性もない。


(結局、頼りになるのは自分か。死ぬなよ、ジュリア!!)


 僕は地面を蹴りつけ、跳躍し、道路へ急行する。


 敵の奇襲も想定していたが、起きたのは予想外の現象。


「「――――」」


 弦から解放された矢の如く、分身体は飛翔する。


 地面と壁にぶつかり、反射し、意図せぬ挙動をする。


 起きた現象の意味は理解できるが、思考が追いつかない。


 僕の頭は敵で手一杯だ。僕の分身体に意識を割く余裕がない。


「「「……………」」」


 混沌とする戦場の中、僕たちは互いに干渉する。


 似た者同士を引き寄せ合い、疑似的反応を引き起こす。


(よりによって、今か!!!)


 幸か不幸か分からないが、起きた現象は理解できる。


 三位一体の構造となり、訪れるのは成長が見込める体験。

 

 ただ、今回に関しては、理性が保証されることはないだろう。


「4F 6A 3C 9D FF 00 12 8A 7B D4 FA 01」

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