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教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

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第79話 バトル×バトル×バトル

挿絵(By みてみん)





 えーと……どうしてこうなっちゃったんだっけ?


『ニャア!!!!』


超光速航法タキオン!!!」


 ラウちーの右手から溢れ出す都市に、それをアルファ君が粒子化する。経緯を聞かされてないから、まるで意味が分からない。二人は見えない何かで繋がってるような感覚。信頼というか、友情というか、阿吽の呼吸というか。打ち合わせする暇はなかっただろうから、場合によっては私とダヴィちゃん以上のコンビかもしれない。


 ま、経緯はどうあれ、私の仕事は変わらない。『超常現象を対策する』って目的が根っこにあって、今は『ラウちーを奪還する』って目標がある。素性のしれない都市のことは彼と彼女に任せるとして、次に向き合うべきは……。


「状況が分かりかねますが、ご説明願えますか?」


 丁寧口調な細身の男。黒髪ロングで前髪を無造作に伸ばし、表情を見定めることはできない。ただ、着ているのは黒の修道服。第一級騎士に相当し、総長の息がかかった人物であるのは確か。弱々しい見た目ではあるんだけど、纏う雰囲気がヤバイ。これまで数々の激闘を繰り広げてきた私だからこそ分かる。


 歴戦の猛者の中でもトップ5には入る。


 恐らく、四大官職の一人かな。リスト化されてたら一発で分かったんだけど、マルタ騎士団の秘匿性は極めて高い。組織の情報網でも掴めないことが多く、無名の猛者の可能性も十分ある。『生前葬』のこととか、『ラウちーの証明』とか、色々と課題が山積みなわけだけど、私の好奇心は抑えられなかった。


「私に勝ったら教えたげる。……構えなよ。ひょろガリ男!!」


 ◇◇◇


 首都バレッタ中央付近、十字路。


『「――――!!」』


 そこで衝突するのは、獣と鵺。蝙蝠型の鎧を纏う修道女と、四足歩行の猿狸虎蛇が混じった妖怪。音と音をぶつけ合い、単純な出力勝負が繰り返されておった。状況は修道女が微有利といったところか。鵺は敵の攻撃から生まれ落ちたもので、構造上、劣化コピーという立ち位置になる。敵は切り札を残しておるじゃろうから、このまま続けてもいいことはない。……と、並みの使い手なら考えよるじゃろうが、『威転戯画』の真骨頂はここからじゃ。


「音は馳走じゃ、喰らえ」


 複雑な命令は使わず、シンプルな行動方針を鵺に与える。戦術面は完全に任せておるが、戦略面はこちらがサポートできる。『非力』という致命的な短所を、『知恵』という長所で補うのが、わらわに合った戦闘スタイルじゃった。


『―――――』


 それにより、鵺のセンスが増大する。敵が音に頼る度に、ぶくぶくと膨れ上がる。これで出力勝負は五分以上に持ち込める。長期戦になればなるほど、雪だるま方式で複利のように実力が積み上がる。株式と似ておるな。安定した成長が見込める銘柄を買い、ある程度の波はあれど、長期保有し続けるだけで手堅く勝てる。……とはいえ、100%勝てるわけではなく、いくつかのリスクが存在する。


「それなら、頭を潰すまで!!!」


 勘付いた修道女は、羽根を機動力に使い、わらわのもとへと一直線に迫る。『元を断てば勝てる』というシンプルな考え。真っ先に思いつくリスクの一つではあるが、それを想定していないわけがなかった。


「――画戯転威」


 わらわは筆を操り、意思を込める。発想力と創造力を駆使し、頭の中に浮かべたイメージを形にする。今度は受けじゃなく、攻め。センスはわらわに依存するため、燃費が悪いが、この程度で息切れするほど衰えた覚えはない。


「――――――南光坊天海」


 ◇◇◇


 首都上空に突如現れたのは、一人の武士。佐々木小十郎は、世間の情勢に流されず、夜の満月を嗜めるだけの感受性を秘めていた。消すには惜しい。似たような趣味嗜好を持つ人材は生かしておきたい。それでもボクは止まれない。個人対個人では到底満足できない。個人対世界の構図であるからこそ、ボクたちは最大限のパフォーマンスを発揮することが出来る。


「邪を以て邪を禁じ、毒を以て毒を制し、暴を以て暴に易う。

 我、この理を以て、悪に幸いをもたらす邪悪の化身なり」


 黒スーツの懐から取り出したのは、一匹の青い蛇。聖遺物レリックに該当し、軸となる欲望とボクが同調することによって段階的に進化する。60%なら武器化、80%なら鎧化、100%なら獣化という区分が用意され、同じ得物を扱うラウラは60%が限界だった。相性の問題もあるが、聖遺物レリックの欲望を読み取り、寄せられるかが重要だ。その鍵は詠唱文の中にあり、ボクが着目したのは『幸い』だ。人類に幸福をもたらそうとするボクの信念にも一致し、手段を選ばないことからも、心の相性はいいはずだ。どの段階でも上手く扱えるだけの気概はあるが、ボクは自分自身の考えと可能性を一切疑うことはなかった。

 

「―――――」


 訪れたのは、進化の極み。聖遺物レリックの最上位形態。蛇型の鎧を纏い、両手には色が異なる爪が装着されている。右手が『毒』で、左手が『治癒』だ。これによりボクの病は癒された。死の淵から蘇ったことにより、急激な成長を遂げた。今のボクがどこまでやれるか試したい。長らく縛り付けられていた感情を解放したい。期せずして、好敵手は目の前にいる。闘う準備を整え、ボクを待ってくれている。期待には応えないといけない。ボクの気持ちを文章や言葉だけでは伝えきれない。


 ……だからこそ。


「半端に受けると死んじゃうよ!!!」


 空中に展開した小結界を蹴りつけ、ボクは両爪を振るう。


 余すことなく全力をぶつけることこそが、彼への回答だった。

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