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教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

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第77話 論争

挿絵(By みてみん)





 話は概ね理解した。枢機卿の話と今の会話を盗み聞いた。


 だけど信用できない。辻褄が合っても前提を覆す能力がある。


 ――それが、ジェノα(仮)だ。


 ラウちーの身内と因果を入れ替えれば、偽装は可能。


 それを見抜けるのは恐らく、『正常』の魔眼を持つ私だけ。


 ただ……万能じゃない。いくつか懸念点があるのも事実だった。


「騙されちゃ駄目だよ、ラウちー。そいつには因果を入れ替える能力がある」


 胸の内の不安を押し殺しつつ、私は大聖堂に足を踏み入れる。


 外は大騒ぎだったけど、腕輪の不在化能力を使えば、潜入は楽勝。


 一人でここに来たのは、私以外だと操られる可能性が高いからだった。


「確かに僕には、あなたがおっしゃったような『相応の力』がある。ルーチオ修道士と僕の因果を入れ替え、ラウラを騙したのは事実。でもそれは、彼女に無理をさせないための善意の行動であって、悪意があったわけじゃない」


「だとしても、信用できないよ。大前提として、ラウちーとの関係自体が捏造された可能性も残ってる。仮に見ず知らずの他人を旧知の仲にしたんなら、悪意しかない。私目線、彼女を利用するためについた嘘にしか思えないんだよね」


「だったら、証明したらどうです? その左目を使って」


 関係者だから当然とも言うべきか、彼は本題に踏み込んだ。


 私が『正常』の魔眼を使い、虚実を見定めれば済む話ではある。


 マルタ戦を経て強化された感触もあるけど、そこまで単純じゃない。


「別にやってもいいけど、『生前葬』が台無しになるよ」


「……というと?」


「神を送るには、ここでお座りしてる猫ちゃんたちが重要なんでしょ。ここで魔眼を展開したら、余裕で元に戻っちゃうよ。それでもいいの?」


 視線の先には、大聖堂内の長椅子に座っている大量の猫。


 もちろん予想でしかないけど、全くの無意味とは思えなかった。


「それは逃げの口実ですね。論点がずれてる。ラウラと僕の関係が捏造かどうかを証明できるかが重要なのであって、『生前葬』の成否は関係ない。……察するに、僕の懐事情を盾にして、証明できない事実を隠したいのではありませんか」


「逃げでもなんでもいいけどさ、状況的にやりたくてもできないって言ってんの。利害や損得を無視してもいいならやるけど、神送りを成功させたいのはこちらも一緒。優先度で言えば『生前葬』が上で、『ラウちーの証明』は下。神送りが終わるまでは、君を信用する気はないし、これ以上、議論するつもりもないよ。……そんでもって、私の役割も変わらない。ここでアルファ君が悪さしないように見張っておくのが、代理者エージェントとしての仕事」


「じゃあ、ラウラをお貸しするので、魔眼の証明をやってもいいですよ。外でゴタゴタが続いている今なら、『生前葬』に支障が出ることもないでしょうし、猫たちのことが気にかかるなら、大聖堂の外で試せばいい」


 話し合いを終わらせようとするも、アルファ君は議論を続行。


 しつこいなぁ……。こっちの事情は全部話したはずなんだけどな。


「だぁかぁらぁ、やりたくてもできないって言ったでしょ。どんな好条件を追加されても一緒。『ラウちーの証明』が『生前葬』より上にくることはない。証明中に不測の事態が起こるかもしれないし、何かあったら一方的に割を食うのは私。証明は神送りが終わった後で十分だし、今ここで証明するメリットがない。……そんなに『正常』の魔眼の可動域を知りたい?」


「ええ。僕の予想では、猫を元に戻すことは出来ても、ラウラの記憶や認識を元には戻せないと思っていますから」


「……それさ、ちゃんと根拠はあるの?」


「『正常』の魔眼はソフィアさんの主観に依存する。ラウラの記憶を照合することは物理的に不可能であり、人間が猫になったような『表面的異常』には強いが、記憶を改変されたような『内面的異常』は検知できないという仮説です。……ようするに、あなたは僕の能力を阻止できない。名ばかりな最強だ」


 一つずつ丁寧に積み上げられるのは、論理。


 戦闘とは対極に位置する嫌な展開が続いている。


 マルタ戦との温度差で風邪を引いちゃいそうだった。


 静かに、淡々と、感情を見せることなく私を追い詰める。


 ――これが、本物のジェノ・アンダーソン。


 実績と肩書きに負けない独自の闘い方を心得ている。


 恐らく、戦闘は最終手段。それまでは理屈で通すスタイル。


 脳筋で敵を倒すスタイルの私とは、相性最悪と言っても良かった。


(これで十代前半かぁ。伸び代しかないなぁ……)


 口に出すことはないものの、心の内で彼を賞賛する。


 真偽はともかく、アプローチの仕方は間違ってなかった。


 私の得意な肉弾戦じゃなく、彼の得意な能力戦に持ち込んだ。


 仮に事実だとすれば私に勝ち目はない。体術が強かろうが無意味。


 敵味方の前提が覆る能力の前では、私の強さはなんの役にも立たない。


「そこまで言うなら、分かった。そっちの土俵に乗ってあげるよ」


「……具体的には何を?」


「『ラウちーの証明』だよ。私の魔眼……『正常』の力を見せたげる」


 それでも私は目を背けない。苦手な分野と向かい合う。


 不利な相手と能力ではあったけれど、私はまだ負けてなかった。

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