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教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

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第74話 交差

挿絵(By みてみん)





 わらわと夜助のために開かれた『生前葬』は概ね順調に進行していた。首都中央近くの道路を前進し、マルタ騎士団と一部白教派閥が手を組み、大聖堂は目前じゃった。戦況を全て把握できとるわけではないが、『黒渦』以降に邪魔が入ったわけでもなく、瀧鳴大神は無言を貫き、表面上は上手くいっとるように見えた。


「…………」


 そこに立ち塞がったのは、一人の修道女。茶髪ボブヘアで黒縁眼鏡……活発なタイプというよりかは地味な印象を受けた。白の修道服を着ていることから、白教派閥であるのは間違いなく、仲間と思わしきダヴィデが軽い状況説明をしておる。ここまでは予想済みの流れ。元々、白教派閥は『生前葬』反対派じゃったから、何らかの接触があるのは分かっとった。乱入され、対話を試み、折り合いをつけるところまでがセット。気にすべきは瀧鳴大神の最後の悪あがきであり、目下の障害である『黒渦』の危険性さえ伝われば、人類の大半は味方になるじゃろう。


 ただ、どうも違和感があった。


 修道女は愛想笑いを浮かべ、適度に相槌を打っておるが、目が笑っておらん。眼鏡の奥に見える黒瞳には深い闇を宿し、それを解き放つ瞬間を探っておるような気がする。……目は口ほどに物を言う。口にする言葉も重要ではあるが、わらわは数世紀に渡って目の観察を怠らんかった。立場上、戦闘よりも交渉する機会が多く、これまで数多くの不穏な目を見抜いてきたからこそ生き残れたと言っても過言ではない。その人生経験が警鐘を鳴らしておる。奴は危険じゃと。


 とはいえ、それをそのまま指摘するのは悪手。言葉選びが重要であり、慎重に伝えねばならん。かといって、考えるのに時間をかけすぎるわけにもいかず、高度な爆弾処理を要求されとるような状況。可能な限り投げかける言葉を頭の中で整え、修道女を刺激しない程度のものを出力しようとした時。


「私、とうちゃーく!!!」


 現れたのは目に見えた爆弾。黒のエージェントスーツを着た、長い緋色髪をポニーテールにした女性。メラメラと燃えるような緋色のセンスを纏い、いつ発火してもおかしくない野蛮な雰囲気を醸し出しておる。十字路の西方向から出没しており、生前葬が列をなす左翼に位置している。


「「…………」」


 時を同じくして現れたのは、ガリガリの枢機卿とアフロの悪魔。十字路の東方向から出没し、列の右翼に位置する。大聖堂に通じる正面道路には修道女が立っており、どんなルートを辿るにせよ、物理的に道が塞がれた状態。


 タイミングがいくらなんでも悪すぎる。


 周囲の空気は一変し、大宗務長グランドコマンダーを含めた騎士団の面々が臨戦態勢に入っていくのが分かる。一触即発のムードとなり、誰かしらがアクションを起こすのを待っておる状態。次の発言には大きな責任が伴う。この場にいる全員の命のみならず、『黒渦』によって人質状態にあるバレッタの民を頭の片隅に入れて考えねばならん。敵対か、対話か、奇策か。何を選ぶにせよ、一番手は譲れんな。


「そこの修道女は何か後ろ暗いことを企んでおる。心当たりがある者は手を貸せ! そうでなければ、黙って見ておれ!!」


 穏健的な考えを捨て、わらわは戦闘を開始する。


 この決断が正しいかどうかは、終わってから考えればいい。


 ◇◇◇


 首都バレッタ中央付近。セントジョージ広場。


 そこで相対することになったのは大財務長グランドトレジャラーだった。


「「――――」」


 遠距離戦に徹し、僕たちは幾多の意思弾をぶつけ合う。


 加減してるのか、これが限界なのか。衝突は五分に近かった。


 均衡は破られず、不気味と思ってしまうほど膠着状態が続いていた。


(妙だな……。以前より強くなったとはいえ、大財務長がこの程度とは思えない)


 何かしらの意図があると読み、脳内で状況を整理する。


 彼の仕事は財務。裏があるなら損得に直結する行動のはずだ。

 

 僕を足止めすれば、何を得する。僕を野放しにすれば、何を損する。


 仮説を立て、行動原理を一つに絞り切り、大財務長の思惑を考察していく。


(レイピア女か? ……いや、死に体の人間になんの価値がある)


 数段飛ばしに思考を飛躍して結論を出すが、しっくりこない。


 旬が過ぎたものに興味関心はなく、すぐさま自らの考えを否定した。


「――――」


 とは思いつつも、僕は視線を落とした。


 レイピア女が倒れている地面に目を向けた。


『………………』


 そこには、彼女の傷口をペロペロと舐める黒猫の姿。


 見る見ると胴体部分に広がる穴は塞がり、治癒されていく。


(リノベーションか……。賢いな。治せば価値は新築同然か!!)


 今更、矛先を変えることなく、僕は距離を詰めた。


 興味関心がある大財務長の懐まで瞬獄を用い、迫った。


 彼女が助かろうが、彼を倒さなければ僕は自由に動けない。


「そうくるだろうと、思っておりましたよぉ!!」


 置かれていたのは、鳥かご。意思弾で構成された簡易結界。


 瞬獄を使えば出られないことはないが、恐らく、間に合わない。


 休憩時間インターバルが存在する。瞬獄の連続的使用には技量の差がもろに出る。


 その先に待ち受けるのは――。


「…………っっ!!!」


 僕は身構え、防御に徹する。四方八方からの爆発に備える。


 ここにきて一か八かの戦法を試すほど、僕の命は安くなかった。


(……?)


 しかし、覚悟していた痛みは一向にやってこない。


 妙な静けさが満ち、僕は違和感の正体を瞬時に探した。


 見えたのはフワフワと浮かぶような謎挙動をしている球体。


 脳の情報処理が追いつくことはなく、種は第三者に明かされた。


「――意思弾は僕たちの十八番」


「――遊ぼうよ。バグ技ありでね」

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