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教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

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第72話 矛盾

挿絵(By みてみん)





 ソフィアの強さの本質は『矛盾』だ。感覚系なのに最も適性のない肉体系だと思い込み、誰よりも異常なのに正常だと言い張る。無意識的に自らに制限を設け、それがパフォーマンスに直結した稀有な事例だ。『天然の無意識』ってのが重要で、洗脳だと再現性はなく、他のナンバーズには取り入れられなかった仕様だった。


 ゆえに、最強。


 弱体化した今となっては過去形になるが、今後どうなるかは分からない。全盛期を超える可能性もあるし、大幅に下回る可能性もある。本人が『矛盾』を自認した上でどう立ち回るかが重要であり、同じ道を辿るようなら……。


「…………」


 思惑を胸に潜め、あたいは構える。大穴の底で大量の魔物たちに見守られながら、一対一の状況を作り出す。厳格に勝敗条件を定めたわけじゃないが、最低でもどちらかが致命傷を負うまでは終わらないだろうね。


「確認だけど、聖遺物レリックは使っちゃ駄目ってルールはないよね」


 すると彼女は、エージェントスーツに備わる胸元のファスナーを開き、茶色毛のニワトリを見せた。組織秘蔵のコレクションなのか、はたまた、第三者からの貰い物なのか。……なんにしても、切り札を出し惜しむ気はないらしい。


「好きにしな」


 あたいは構え、紫色のセンスを身に纏う。


 安心したのかソフィアの肩の力を抜いた気がした。


「……ただし、詠唱を待ってやるほど、気長じゃないけどね!!!」


 すかさず駆け寄り、戦闘を強制的に開始する。


 懐に忍び込んだあたいが振るうのは、右ストレート。


「おっと……」


 不意打ちに動じることなく、ソフィアは側転して回避。


 今ので倒せるとは微塵も思っておらず、狙いは他にあった。


「粛清烈破光!!!」


 回避した方向に拳を定め、センスを放つ。


 紫色の光が迸り、直線上のソフィアを狙い撃つ。


 物理的に回避が難しい状況。選択肢は自ずと限られる。


「――!!!」


 緋色の閃光を伴い、ソフィアは防御の刹光を用いる。


 威力は半減され、烈破光を受け止められる程度に留めた。


 教科書通りの戦法。予想通りの展開。これだと最強は程遠い。


 あたいはセンスを絶ち、消え行く紫光と同化して、距離を詰める。


 残滓の影響で感知は困難。チャフグレネードと似た要領で察知を妨害。


 視認するのも難しく、あたいは容易に懐に近づき、次の一手を繰り出した。


「………………」


 研ぎ澄まされた感覚と共に放たれたのは、裸の拳。


 吸い込まれるように腹、胸、頭と正中線をなぞり、打つ。


 右左右と交互に拳を突き出し、基本的な動作のみで完結させる。


 センスあり気の攻防だと話にならないが、あたいの場合は別物だった。


「――――雲耀三連」


 成功を確信し、あたいは心意気を言葉に乗せる。


 振りかざした三連の拳は光の軌跡を生み、開花した。

 

「――――!!!」

 

 迸るのは稲妻の如きエフェクト。『雲耀』に至る刹那の輝き。


 上があるのは知っている。『阿吽』が最高火力なのは分かっている。


 理論値の場合は『阿吽』三連がベスト。ただ、実践値の場合は話が別だ。


 ――あたいは『雲耀』を安定して出せる。


 それが最大の強みであり、『阿吽』を嫌う理由だ。


 だからこそ連撃を可能にした。唯一無二の個性へと至った。


「…………」


 ただ、これで勝負が決まるとは思ってない。


 あたいが注目するのは空中に放り出された聖遺物レリック


『――――』


 去り行く鶏の足を掴み、情報を読み取る。


 根源は『力の渇望』。同調するほどに進化を促す。


 60%なら『武器化』。80%なら『鎧化』。100%なら……。


「赤き星の輝きよ、勝利と平和を願う神よ、我に大いなる力をもたらし給え」


 ◇◇◇


 さすがは原点オリジナル。『雲耀』を安定させ、私を殺すつもりで本気で拳を叩き込んだ。おかげでコンマ数秒は気を失っちゃった。劣化版の刹光三連で防御して助かったわけだけど、その間に聖遺物レリックは奪われ、当然のように詠唱して自分のものにしていた。切り札はなく、魔眼は使えず、刹光勝負では手も足も出ず、身体とセンスは徐々に削られ、敗色濃厚。これからどうなっちゃうの私? と弱気な台詞を吐きたいところだけど、私の長所は持ち前の明るさ。いつものようにメンタルを持ち直し、現実に目を向ける。マルタの変化を見届ける。そこに広がっていたのは……。


「は、ははっ……。いくらなんでもそれはないっしょ……」


 溢れ出すのは乾いた笑い。持ち前の明るさを遥かに上回る絶望。


 両手には赤と青の槍を持ち、軍神という二つ名が似合いそうな様相。


 真紅の鎧に身を包み、細部はニワトリのモチーフが取り入れられている。


「……少しばかり理性を抑えるのが大変でね。見誤ると死ぬよ!!!」


 そんな末恐ろしい前置きと共に投擲されたのは、赤い槍。


 青い槍に紐づく白い鎖が延長され、不規則な動きを可能とする。


 的を絞らせないように縦横無尽に飛び交い、私の背後から迫っていた。


「――――」


 私はここぞとばかりに息を吐く。


 右手首にある紺碧の腕輪に意識を向ける。


 世界に溶け込んでいき、存在認知を不可能とする。


「馬鹿だね。可動域を狭めるまでだよ!」


 マルタが展開するのは、私を閉じ込められる程度の結界。


 透明化じゃないから出れない。中には飛び交う槍が残ってる。


 腕輪の能力を即座に見抜いて、一番面倒な選択肢を提供していた。


(困ったなぁ。使える手札は全部切った。今の私に残ってるものはない)


 冷静に現状を分析し、極限まで追い込まれているのを感じる。


 変わらないといけない。今の自分から成長しないと殺されちゃう。


「…………」


 私は自分の心臓に右手をそっと当て、鼓動を聞く。


 そこには、意思の大半を注ぎ、生還した神秘が備わる。


 私は一度死んでる。魔眼は使えないんじゃなく、使わない。

 

 使ったら死ぬと本能が知っていた。だからブレーキがかかった。


 だって、おかしいもん。私の意思が心臓の機能を負担できるなんて。


 意思の力は体系化されてるとはいえ、まだまだブラックボックスが多い。


 私は未踏の領域に自ら足を踏み入れる。ここで死んでもいいと覚悟を決める。


「…………」


 槍は結界内を切り裂き、片っ端から索敵し、斜め後方から私の方へ迫る。


 反撃も防御も回避も難しい。諸々の事情を理解した上で私は左目を見開いた。


「――――」


 覚悟に応じ、光を取り戻したのは、『正常』の魔眼。


 周囲数十メートルに半強制的な呪いを飛ばし、無効化する。


 魔眼の枠組みからは外れている。矛盾してるのも即座に理解した。


 任意ではなく強制。恐らく私の身体は、世界の常識が一つも通用しない。


「私は生まれた時から恵まれてる。……そうでしょ? マイマザー」


 迫る赤い槍が消え失せるのを見届け、私は言い放つ。 

 

 『獣化』が解かれていくマルタの姿を見て、私は確信する。


天授恩寵ディバイングレース。可愛くない子だね。素直にやられておけばいいものを!!」

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