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教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

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第66話 命を張る理由

挿絵(By みてみん)





「「…………」」


 首都屋上にバタリと倒れ込んだのは二人。


 執事老人とシルクハット男は意識を失っていた。


 そばにはレイピア女も倒れ、三人揃ってノックダウン。


 問題は山積みだが、僕に降りかかる脅威は去ろうとしていた。


「さてと……生前葬も大詰めといったところかな」


 気配の濃い位置を探り、次の一手に意識を向ける。


 ラウラ救出が本命ではあるが、気になるのは部下の動向。


 各地で行われていた戦闘の結果に意識を巡らせようとしていた。


「………………」


 それを物理的に遮ったのは、レイピア女。


 おもむろに立ち上がり、鋭い目線を向けている。


 確かに手加減はした。立場も状況も事情も理解できる。


 修道騎士の務めであり、使命と言われれば、それまでだろう。


 ――だが。


「解せないな。何が君を駆り立てる。命を張る理由がどこにある。黙って寝ていればいいものの、次はそうもいかない。今度こそ正真正銘、生きるか死ぬかの闘いだ。そこに踏み入れるに足る動機と因縁が君にはあるんだろうね」


 沸々と煮えたぎるような感情が内側から溢れ出す。僕は柄にもなくイライラしていた。将来を見越して見逃したというのに、命をドブに捨てようとするレイピア女に殺意が芽生えようとしていた。相応の理由がなければ納得がいかない。修道騎士という理由だけでは理解できない。彼女の覚悟が半端なものであってはならない。


「元死刑囚クオリア・アーサー。罪状は第一級強盗罪、第一級殺人罪、第一級強姦罪。法治国家であれば、死刑および終身刑にあたる罪。人間だろうと悪魔だろうと、その背負ったカルマは変わらない。貴様はこの私が裁いてみせる!!! 誰が何と言おうとも!!!!!」


 ◇◇◇


 迸るのは感情。誰も覚えていないルミナ・グレーゼの記憶。それでも私は覚えている。看守長時代のことを今でも思い返せる。クオリア・アーサーは私が勤務していたアルカトラズ連邦刑務所に収監されていた。担当外だったが、『刑務所占拠騒動』に関与していた。切って切れない因縁がある。修道騎士という肩書きに縛られない今だからこそ、向き合うべき相手。法の番人としての務めを果たす時。


「――――」


 腰に手を回し、左手に装備したのは警棒。右手にはレイピアを装備し、私は新たな領域に足を踏み入れる。異色の職業が合わさり、私が私である理由が体現される。前例はなく、再現性はなく、試したこともない。自分自身、この戦闘スタイルが確立できるかは分からない。……ただ、熱量だけはある。前職で司法制度の抜け穴に煮え湯を飲まされた苦い経験がある。私的制裁だろうと関係ない。悪魔は人間ではない。人間界の法律は適用されず、私は私の正義を全うすることができる!!!


「アルカトラズの関係者か。こいつは失敬した……」


 クオリアは二体の分身を生み出し、臨戦態勢。


 互いの手の内の一部を晒した状態で、戦闘は深化する。


「「「全力でお相手しよう!!!!!」」」


 ◇◇◇


 数百年に渡る因縁には決着がついた。風潮逆光の効果が解け、世界には色合いが取り戻されていく。地面に転がるのは、真っ二つに折れた滅葬具【小刀・濡羽烏】。振り返った先には、逆袈裟がけに斬られた夜助の姿。手当てをしなければ死ぬ。それぐらいの深い傷を負い、悪魔と違って人間には高度な再生能力は備わってない。肉体系の回復に特化した意思能力者なら話は別だが、人間界に来るまでの夜助の情報と今まで闘った傾向から考えれば、自力で治すのは困難のはずだ。しばらくの間は戦闘不能になるのは確実であり、少なくとも生前葬の間は起き上がることはないだろう。


「…………」


 俺は敵に情けをかける。息の根を止める機会を見逃し、納刀。どうせ殺したところで悪魔になるだけだ。両者の間で交わした契約でもない限り、生き死に固執する必要はねぇ。夜助が回復し、再戦を望むならそれもまた一興だし、できれば人間のまま生きていて欲しい。そうじゃないと張り合いがねぇ。悪魔対人間の構図でなければ、俺たちの関係は続かねぇ。まだ見ぬ場所に行くにはお前が必要なんだ。こんなところで死んでくれるな。悪魔として殺されるなら夜助がいい。


 俺は決して口が裂けても言えない言葉を頭の中で並べる。おかげで感情の整理がついた。次に進む決心がついた。生前葬がどうとか、教皇ラウラの救出がどうとか、ハッキリ言ってどうでもいいことばかりだが、その延長線上にはまだ見ぬ強敵がいる。組織や集団に属することが必ずしも悪ってわけじゃなく、今の自分勝手なやり方を通すためには、ある程度の筋を通しておく必要があった。


「……そろそろ、仕事するか」


 意識を切り替え、俺はやらなければならないことに目を向ける。その先には敵意の欠けた小十郎と、白い鎖から解放された長い白髪の少女が立っていた。赤い椿が彩られた黒い着物に袖を通し、両目には黄金こがね色の瞳を有している。生前葬の関係者なのは間違いなさそうだが、あいつとは闘う因縁がねぇ。適当に聞き込みして、何もなければ『はい、さよなら』。骸人の出生に関わっていようといなかろうと、悪魔になった俺にとっては興味がなかった。


「このたわけが。勝負はまだ終わっておらんぞ!」


 しかし、椿が口にしたのは興味のそそる一言。


 視線は後方に注がれ、ゾワリと鳥肌が立つのを感じた。


(まじか……。まだ楽しませてくれんのかよ、おい!!!)


 冷えていた感情に再び火が灯るのを感じる。


 後ろを振り返り、底力を見せた人間を視界に入れる。


「――――」


 だが、そこにいたのは夜助であって夜助じゃなかった。


 傷は化け物じみた速度で塞がり、気配は一切感じられない。


 アレは人間でも悪魔でも魔獣でもない。俺の記憶が正しければ。


「神……いいや、名の知れぬ大神か!!!」


「未ダ神ニ至ラヌ未熟ナ子ラヨ、ココデ息絶エルガイイ」

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