表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/92

第60話 規格外

挿絵(By みてみん)





 アルカノイド用コントローラーの構造は至って単純。移動用のパドルと発射用のボタン、ただそれだけ。十字キーやABボタンですらなく、パドルを回転させることで左右に移動し、ボタンは一つのみ。棒崩しとしての用途に機能を絞り、無駄が一切ない洗練されたデザインは一種の芸術品だった。通常プレイで棒崩しを楽しむことはもちろんとして、私の目に留まったのは説明書に書かれた注意書き。


 ――『他のゲームでは使用しないでください』。


 やるなと言われれば、やってみたくなるのが本能。片っ端から反応を試し、アルカノイド用のコントローラーと最もシナジーがあったのは『ベースボール』だった。本来のゲーム上の仕様では、既存の野球のルールに則り、攻守で打者と投手を交互に操作して、9回裏までに選んだチームを勝利に導くのが基本となる。打者はバットを振る、バント、左右移動の操作。投手はボールを投げる、左右上下の変化球、敬遠の操作に限定される。そこで例のコントローラーを使用すればどうなるか。


 ――攻守の概念が崩壊する。


 パドルを操作すれば、投手側なのに打者のバッドを振らせることができる。ボタンを押せば、打者側だろうと投手がボールを投げる。ゲームの仕様上、想定されていない操作方法を可能とし、明らかなボール球なのに、打者を操ってバッドを振らせ、ストライクを無理やり取ることだってできる。それだけでも十分楽しめたけど、このバグ技はボールを投げた後に真価を発揮する。


「規格外の超変化球……。攻守を無視して意のままに操れる……」


 投手の少年は、真っ先に異様な法則に気付く。


 異様な緩急がついた八つの球弾を見て、確信する。


 答え合わせをする気はなく、言うことは決まっていた。


「――プレイボール」


 盤上を支配する私は、冷静に淡々と試合を開始する。


 主導権が失われた八つの球弾は、元の主に向かって牙を剥く。


「……ッッッ!!!」


 少年が体表面に展開したのは、球弾を反射する薄い結界。


 球弾を追加する愚行には及ばず、防御に100%の意識を割いた。


 思惑が透けて見えたけど、なんでもいい。今はゲームを愉しみたい。


「「――――――」」


 球弾と結界の衝突。幾多の攻防を通じて、意識は溶け合う。


 攻守の感覚が入り混じり、本能のままに己が意思をぶつけ合う。


 展開された結界は徐々に崩されていき、ゲームクリアは目前だった。


「「……………………」」


 そこに訪れたのは空白の間。緩やかに流れる時。


 原因は明らか。崩れる最後の結界から現れたカプセル。


 取ればどうなるのか。そんな知的好奇心が湧き、手を緩めた。


「――――」


 少年が手にしたのは赤いカプセル。Lと書かれた強化アイテム。


 当然、中身は知ってる。純粋な破壊力を持つブロック崩しの代名詞。


「「――光線的破壊レーザー!!!!」」


 私たちの左右の空間から放たれるのは、無数の球弾。


 変化を及ぼすことはなく、直線に飛び、正面で衝突する。


 数に限りはなく、同種の同威力技なら、試されるのは連打力!


「「――――――ッッッ!!!!!!!!」」


 私はボタンを連打し続け、少年はそれに対抗し続ける。


 攻守の概念は存在せず、想定された仕様から逸脱していた。


 ――これを長らく求めていた。

 

 同じゲームで遊んでくれるプレイヤーを欲していた。


 バグ技に翻弄されず、王道に徹する存在を待ちわびていた。


 一方的に押しつけることはあっても目線が同じだったことはない。

 

 ――私は今、この上なく満たされている。


「「………………」」


 鬼気迫る連打勝負の果てに、訪れたのは沈黙。


 これ以上の争いは不要という判断を態度で示していた。


「もう、いいんじゃないかな」


「――私も同じこと思ってた」


 どちらが倒れるわけでもなく、至った結論は恐らく同じ。


 似通った趣味を介して通じ合い、それは目的と勝敗を超越した。


「「――友達になろう」」


 ガシリと握り込んだ同志との握手は、きっと二度と忘れない。


 というよりも、この先もずっと覚えていたい貴重な思い出だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ