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教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

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第6話 予定調和

挿絵(By みてみん)





 水中都市ラグーザ北端。頂上付近。


 建物の物陰に隠れ、ひっそりと様子を伺う。


「…………」


 見えるのは杖を持った番人と円形状のゲート。ちょうど荷車に物資を積んだ現地民が移動するところで、一部始終を見ていた。見た限り、手順はそこまで複雑じゃねぇ。チケットを手渡し、積み荷を軽く調べ、本人確認して、いくつか問答を重ねる。バチバチのアナログ方式で、機械による自動化は一切されてない。


 まぁ、空港の搭乗手順と似たようなもんだ。杖を叩いて開かれたゲートに住民が入り、荷車と共に亜空間に消えていく。地上にあるゲートにワープしたんだろう。限られた人にしか出入りが許されてねぇのか、頻繁に移動する様子はねぇ。作業量的にも忙しいようには見えず、番人も一人だけで無警戒もいいところだった。


「アレなら楽勝だな。番人をのせば終わりだ」


「いや、もっと楽な方法がある。ついてこい脳筋女」


 カチンとくる一言だったが、否応なしにジャコモへついていく。下見をすっ飛ばした本番のようにも思えたが、さすがにそこまではやらねぇだろう。あくまで警備の欠陥を間近で見せて、体感させるのが目的と見た。


「――――――」


「おい待て、どこまで」


 しかし、ジャコモは一向に止まる気配がなく、番人とゲートの方に向かい、一直線に進んでいく。打ち合わせのない展開に戸惑いながらも、流れと勢いには逆らえず、気付けばゲート前。ギロリと睨みを利かせた黒髪長耳の番人は言った。


「……ご用は?」


 声音は低く、服装は白十字が刻まれた黒の修道服。背は高く、身体は引き締まっていて、ただの魔術師には見えねぇ。不穏分子がいくら出てこようとも一人で十分。そんな自信と気概を立ち居振る舞いから感じ取ることができた。


「大人一名。渡航許可はもらってる」


 ジャコモが懐から取り出したのは、一枚の紙切れ。チラッと見えたが航空券のようなものだ。偽造防止用の刻印が刻まれ、行き先や有効期限などが印字されている。一名というからには、実演するつもりなんだろう。ゲートの欠陥はお前の目で見つけてみろってことかもしれねぇな。


「渡航理由は?」


「貿易だ」


「荷物は?」


「目の前にあるだろ」


「詳細は?」


「……あぁ、かったるいな。奴隷だよ、奴隷!」


 問答の末に、ジャコモは切れ気味に理由を語る。


「はぁ!? ちょっと待て。そいつはどういう――」


 意味は分かるが、強引な展開を前に声を荒げようとする。


 だが、すぐにジャコモの手で口を塞がれて、喋れなくなった。


「何か手違いがあるようだが?」


「逃げるための演技ってやつさ。見たら分かるだろ?」


「納品書と身請の書類は揃っているか? 念のため確認しておきたい」


 叫んだせいか番人の警戒感は増し、悪い方向に転がる。


 さすがにここまでは用意してねぇだろう。ここいらが限界。


 戦闘を考慮して、臨戦態勢に入り、最悪の心構えをしていると。


「ほらよ。これで十分か?」


 事前に用意していたのか、ジャコモは折り畳まれた紙を渡す。


 それを受け取った番人は隅々まで目を通し、最後にこちらを見る。


 まさか、身体検査か? なんて考えていると、結果は明らかになった。


「…………通ってよし」


 木彫りの杖をトンと地面に叩きつけ、ゲートが開かれる。


 どうやら、僕が寝てた間に書類関係はクリアしていたらしい。


 これなら厄介事を起こすことなく、正規ルートで脱出できるはず。


 奴隷に関しては色々と思うことがあったが、憤るのはこの場じゃねぇ。


 問題は――。


「待て。ジルダはどうした? あいつも出る約束だろ?」

 

「彼は来ない。お前を出すために、犠牲になるつもりだ」


 ◇◇◇


 宿屋『ベネット』二階。客室。


「いやはやいやはや。こんなところに壁面収納があったとは」


 大政務長は壁を突き破り、覆った布切れを剥がす。


 水色の結界越しに見えるのは、教皇用の指輪と修道服。


「……何か弁明されますか? マランツァーノ君」


 長い黒色の前髪から、下卑た笑みを覗かせ、問いかける。


 分かり切った非を認めさせるために、意地の悪い問答を続ける。


 ――全部、読めていた。


 いずれこうなることは分かっていた。


 改訂された『シビュラの書』に記されていた。


 ラウラが来ることも、ボクがここで犠牲になることも。


 ――だから。


「……………………白い牙(ホワイトファング)!!!!」


 右手から放たれるのは、名前とは異なる水色の蛇。


 最大の障害である大政務長を牙を剥き、盛大に噛みつく。


「――――」


 大政務長は受けざるを得ず、壁を突き破り、上空に浮上。


 そこで勢いが留まることはなく、ドーム状の天井に衝突する。


 大穴が開き、深海の水が流れ込んで、水中都市の崩壊が始まった。


 特に感傷に浸ることもなく、心が震えることもなく、思うことは一つ。


「予言通り、です」

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