表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/87

第57話 得意技

挿絵(By みてみん)





 首都北部屋上で行われるのは、三対三の意思能力戦。対する相手はレイピア女とシルクハット男と執事老人だ。各々の得意技スペシャリテは不明。体術の水準は軒並み高く、並みの手練れではない。すでに分身術を明かした僕の方が不利とも言えるだろう。彼らを倒すことはマストじゃないが、放置すれば救出作戦に差し障る。都市の状況も予想がつかない方向にシフトしつつあり、いち早く教皇ラウラを回収し、この魔境から抜け出すのが最優先事項だった。本来の目的は外交だったが、先日行われた総長グランドマスターとの謁見から考えても、話し合いのフェイズは終了したと思っていいだろう。


 その上で考えるべきは、どこまでやるかだ。


 今の僕の立場としては、悪魔と人間の橋渡し役でしかない。求められる立ち回りは脇役。少なくとも、今回の主役よりも控えめに見せる必要がある。僕の手腕で諸々の問題を全て解決できるかもしれないが、各々の成長が鈍化する上に、悪目立ちするのは避けたい。かといって、手を抜けば殺処分濃厚といった具合。


(程よいプレッシャーだ。腕を磨くにはちょうどいい)


 プラスよりもマイナスの要素が多いアウェイの中、僕の心は躍っていた。精神的には人よりも年齢を重ねているわけだが、成長が止まるわけではない。固定的なマインドではすぐに追い抜かれる。目の前にいる使い手のみならず、人類全体の能力値は急速に向上している。【火】の概念消失という危機に直面し、成長を余儀なくされている。負けてはいられない。宿主のポテンシャルを最大まで引き出し、常に進化し続けることが今の僕に課せられた使命に直結する。


「――――」


 僕は二体の分身を回収し、元の一匹の悪魔へと戻った。


 自ずと三人の目線が合い、散らばっていた敵意は僕に向く。


 向こう目線から考えれば、畳みかけるには頃良いタイミングだ。


飛燕舞踏会ロンディネ・バッロ!!!」


 そこで飛来するのは、シルクハットだった。


 糸と意思を自在に扱い、不規則な軌道で迫り来る。


「――――」


 僕が用いたのは、『瞬獄』と呼ばれる悪魔特有の移動法。


 瞬間的な移動を可能とし、黒い煙を伴い、ハットが空を切る。


 悪魔汎用技術のため、既出の可能性もあるが、一人は落としたい。


「……」

 

 移動先に選んだのは、シルクハット男の側面。


 致命的な隙を晒し、僕は彼の首筋に蹴りを放とうとした。


展示物立体表現技法ジオラマディスコ

 

 それを予期していたのか、執事老人が迫り、能力を繰り出す。


 懐から取り出した物体を巨大化させ、僕の身体は打ち上げられる。


「――――ッッ」


 正体は電車。質量には抗えず、上空に放り出される。


 耐え得る衝撃だったが、姿勢制御には数瞬の隙を要した。

 

「――――!!!」


 そこに飛来したのはレイピア女だった。


 得物を扱い、執拗なまでに刺突を繰り返す。


 集中力を要する瞬獄は困難で回避は難しい状態。


「……」


 防御を余儀なくされ、センスでレイピアの軌道を逸らす。


 直撃は避けられたものの、浅い傷を作り、身体は吹き飛んだ。


 背中は壁に衝突し、その一部をくり抜いて、訪れた先は電車の中。


「「――――」」


 重力に引かれながら、僕はレイピア女と向かい合う。


 本来なら一対三だが、今という時間で区切れば一対一だ。


 ここで倒し切る。少なくとも、一対二の状況まで持っていく。


「――」


 僕は瞬獄を用い、相手の直上に瞬間移動。


 車内天井を蹴りつけ、勢いのまま右腕を振り抜く。

 

 尖らせた爪は刺突武器に成り代わり、彼女の右肩を狙った。


「――――」


 すかさず反応を示した彼女は、レイピアを突き出す。


 僕が放った爪と相打つ形となり、拮抗状態となっている。


 攻防は五分に思えるが、違う。彼女は手の内を見せていない。


「…………」


 拮抗する切っ先は怪しく輝き出し、センスは収束する。


 ゾクリと鳥肌が立ち、僕は本能の赴くまま身体は動き出した。


「――っ」


 安易に瞬獄に頼ることなく、首を逸らし、対応。


 その直後には、細い光線が車内の天井を貫いていた。


 基礎的な技術だが、刺突のアクセントに加われば厄介だ。


 発動は任意、距離に制限はなく、初動は速く、貫通力もある。


 レイピアの形状と性質に合うためバフがかかり、防御困難だろう。


 連続で浴びせられたら、瞬獄を用いたとしても、被弾は避けられない。


(シンプルながら良い能力だね。本人の実力が上がれば上がるほど脅威は増す。折れたレイピアの先をセンスで形作り、レーザーの発射口とするアイデアもいい。得意系統は不明だが、繊細な操作を要求されない分、状況や体調に左右されにくいだろう。……ただ)


 第三者なら手放しで褒めたいが、僕は彼女の敵だ。


 攻略する方に思考を回し、落下する車内と共に行動開始。


「――――」


 彼女は刺突を繰り出そうとするも、腰が入らない。


 足元が不安定な場となり、身体的には僕が有利だった。


「……!!」


 わずかな間隙に放ったのは、バードストライク。


 悪魔の羽根を胴体にぶつけ、彼女を車外へ弾き出す。


 窓を突き破り、空中へ放り出したが、決着はついてない。


 あの程度ではやられない。これでは一人に戻った意味がない。


(さてさて……この程度で壊れてくれるなよ!)


 車内を飛行し、連結部分を解除して、それを持ち手とする。


 1両の重さは約30トン。10両編成だから約300トンってところか。


 それを両腕で分担しても、片腕の重さは150トン程度にはなる見込み。


「………!!!」


 ズシリと両腕が下がり、確かな体積と質量を感じる。


 ミチミチと筋肉が悲鳴を上げ、放したい欲望に駆られる。

 

 それでも耐える。踏みとどまる。筋力と意思力で正気を保つ。


 空中に放り出された女性に狙いを定め、ヌンチャクの如く振るう。


 ――実現するのは質量の暴力。


 10両編成車両を得物に変え、それを存分にぶつける。


 過剰防衛もいいところだが、彼女なら受け切ると信じていた。


「…………」


 遠心力が加わり、見る見ると迫る車両は衝突寸前。


 一名脱落のビジョンが見える中、戦況には動きがあった。


「――――」


 遅れて現れた執事老人が電車に触れて、ジオラマ化。


 レイピア女は空中受け身を取っており、戦闘可能の状態。


 振り出しに戻ったわけだが、敵の攻撃は終わっていなかった。


「…………!!!」


 一瞬の隙を突き、背中に衝突したのはシルクハット。


 地上でしたり顔を浮かべる男の顔が見え、僕は地に落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ