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教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

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第54話 新たな領域

挿絵(By みてみん)





 私の原点オリジナル……マルタ・ヴァレンタインが得意とするのは、『体術』と『剣術』。意思能力では肉体系に該当し、細かい能力を抜きにして他を圧倒するのが彼女の戦闘スタイル。マルタの遺伝子を参照にして生まれた私にも受け継がれていて、肉体的な条件は五分といっても過言じゃない。


 差が出るしたら、技量。


 戦闘経験値が初期化された今、長期戦になればなるほど不利になる。動きの幅や選択肢が狭く、体術が相対的に単調になり、そこを絡め取られる。全盛期ならまだしも、通常の攻防にこだわるのは賢くない。今の私でワンチャンがあるとしたらアレだ。リスクを承知の上で、ラッキーパンチの一発KOに賭けるしかない!


「「――刹光!!!」」


 首都上空に迸ったのは、稲妻の如き意思の奔流。


 拳と拳がぶつかり、衝突と同時にセンスが込められる。


 総量が同じなら、打撃時の出力誤差が少ない方が威力で勝つ。


 ――しかし、技量は五分。


 同タイミングを示す『雷』エフェクトを伴い、拳は拮抗している。


 差が生まれるなら、一方が異なる反応を見せ、雌雄が決するはずだった。


(さすがは原点オリジナル……。ラッキーパンチは通用しないか……)


 打ち砕かれるのは、初手で仕留め切るという淡い願望。


 もちろん想定の範囲内で、倒す算段がないわけじゃなかった。


「やはりというべきか。あんたは致命的な勘違いをしてるね」


「…………?」


「いつ、あたいが『肉体系』だと言った?」


 マルタが口走る言葉に鳥肌が立つのを感じる。


 仮に事実だとすれば、自分にも関係のある話だった。

 

 得意を伸ばすのが王道だと信じ、彼女の生き様をなぞった。

 

 その前提が崩れる。最強だった私がひどく矛盾した存在に見える。


「待って……。それって……」


 至る結論に思考が追いつかない。感情の整理がつかない。


 初期化した今なら取り返しがつく要素だけど、受け入れられない。


「――独創世界『福音の扉』」


 衝突した拳を握り込まれ、マルタは手印を成立させる。


 木製の両扉が展開し、肉体系が到達不可能な領域に導かれた。


 ◇◇◇


 噴水広場には、相当な手練れが集結している。生前葬の喪主を務める大宗務長グランドコマンダーだけでも面倒だが、辺りにいる修道士の数が尋常じゃない。それもほとんどが『修道誓願』済みの第一級騎士相当だ。実力はピンキリだろうが、全員を相手にするには骨が折れる。片っ端から倒し切れとの命令だったら、一人で実現するのは困難だろう。全盛期であろうとなかろうと、無茶な内容となる。


 ――ただ、今回の任務は『陽動』だ。


 必ずしも倒す必要がなく、時間を稼げるならそれでいい。


 多くの騎士団の注意を引けるなら、期待された役割は果たせる。


「聖エルモ砦の多重構造結界は非常に参考になった」


 騎士団で満員の噴水広場で口走るのは、端的な感想。


 結界を極めようと思った俺にとっては革新的な技術だった。


 全てを取り入れることは出来ないが、部分的なら取り入れられる。


「褒めても何も出ませんよ? 手加減されるとでもお思い?」


 正面で相対する大宗務長は、刺々しい態度で接する。


 その反応も無理はなく、言葉だけならなんとでも言える。


 問題は行動だ。発言に中身が伴っているかはそれで決定する。


 いくら自分を誇示しても、目に見えなければ評価のしようがない。


「ささやかな夢のひと時を永久に感じるがいい」


 俺は彼女との会話を成立させることなく、手印を形作る。


 両手でフォーカスを合わせるように演出し、中央には大宗務長。


 これは芸術系と感覚系の複合技。自分の世界に固執しない独自の手法。


「――仮想世界『現実逃避行エスケイプイズム』」


 ◇◇◇


 出会いは突然だった。運命の人は突然現れた。


 目と目が合い、欲望が抑えきれず、思いが溢れ出す。


「どうかこの私めと結婚してください!!」

  

 搦め手を用いることなく、ドストレートに感情をぶつける。


 思い立ったが吉日。仮に盛大に振られたとしても後悔はなかった。


「……俺で良ければ、喜んで」


 期せずして婚約が成立する。人生の絶頂期が突如訪れる。


 噴水の勢いが増し、ハートの模様を描くと、花火が上がる。


 あり得ないサプライズ。仕組まれたような劇的なプロポーズ。


「「「「「――――――――」」」」」


 そこに響き渡るのは、参列している修道士の万雷の拍手だった。


 惜しみなく結婚を祝福され、挙式が行われる準備は既に整っている。


「では、共に歩みましょう。私たちのウェディングロードを!」


 気付けば、純白の花嫁衣裳に着替え、新郎の腕に寄りかかる。


 いつの間にか白のタキシードを着る彼は、快く受け入れようとした。


「ちょっと待った!! そう言わざるを得ませんね」


 そこに声がかかり、結婚式を邪魔立てするのは紫髪の女。


 黒のフォーマルスーツを着ていて、参列するモブと思われる。


 気になる点と言えば、縁起の悪い刀を腰に帯びていることだった。


「女の嫉妬は見苦しい。そう思いませんこと?」


「男に目が眩んだ女よりマシ。私はそう思いますね」


 彼女は刀を抜き、紫色のセンスを纏い、戦闘態勢。


 衝突は避けられそうにないものの、これも何かの縁でしょう。


「挙式を邪魔するなら、死に晒せ! この性悪大お局女狐が!!」

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