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教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

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第53話 異様な熱気

挿絵(By みてみん)





 ラウラ救出作戦は始まった。予定外と予定通り含め、各地で戦闘が勃発したのが肌感覚で伝わる。作戦通りに任務を遂行するのはもちろんのことだけど、私個人……ジュリア・ヴァレンタインとしては裏の目的があった。


 ――聖遺物レリック『カマッソソ』の回収+接触。


 現在、ソフィアと私たちの間には『シビュラ・ウォー』が行われた時期の認識に2年間のズレがある。8年前と主張するのがソフィアで、10年前と主張するのは私とダヴィデ。その原因は『カマッソソ』である可能性が高く、記憶回帰の条件である接触を果たせば、歪んだ認知が解消されるかもしれなかった。少数派であるソフィアだけが接触すればいいように思えるものの、多数派が異常であるケースに備えて、三人がそれぞれ『カマッソソ』に接触することで正常な認識が担保されると考えている。


 一見、どうでもいいと思える記憶違いに固執するのは、他でもないソフィアが言い出したからだった。なんせ彼女は、あらゆる超常現象のメタとなる『正常』の魔眼を有している。その能力の性質上、正誤の認識が他の人間よりも正確なため、相対的に発言の信憑性が高くなる。現在は使えない様子で、『正常』の認識はソフィアの主観に依存するけど、それを補って余りある万能感。直で体験したことがある人間ほど、信を置いている。


 もちろんそれだけじゃなく、トルクメニスタンで霊体アンドレアと接触した際も記憶の齟齬があった。彼は私を裏切り者(ユダ)と認識したけど、私の認識では真逆。『シビュラ・ウォー』内で同意のもと、彼の手で殺されたはずだった。誰の記憶を参照にして霊体アンドレアが生み出されたか分からないけど、私の記憶そのものが操られていた可能性があるなら、前提が崩壊する。悪魔になることで進んだ計画にも支障が生じ、私という存在そのものが危ぶまれる。

 

 地に足ついて前に進むためにも、私の『カマッソソ』接触は最優先事項であり、救出作戦に精を出すフリをして、単独でその行方を追い続けた。現在は修道女イブが隠し持っており、枢機卿カルドと対立し、戦闘が行われようとしている。


(――彼女が裏切り者(ユダ)なら戦う口実はある。――ただ)


 ある意味で都合のいい展開を前にしながらも、踏ん切りがつかない。物事には流れとタイミングというものが存在し、少なくとも今じゃない気がする。最小効率で『カマッソソ』との接触を果たすなら、その存在が現れた瞬間を狙うのがベスト。そんな打算的な理由が心理的障害となり、参戦をこまねいていると……。


「――!!」


 突如、強烈な強い気配を察し、背後を振り向く。


 そこにいたのは木彫りの両手杖を持つ青髪短髪の少年。


 青いローブを着ており、魔術師タイプなのが一目で分かった。


 もし、今の油断と隙を突かれれば、初手で負けていた可能性が高い。


(――もしかして、味方?)


 淡い願望を寄せ、現れた少年と目と目を合わせる。


 言葉を交わすことはなかったものの、答えは告げられた。


「不意打ちは嫌いなんだ。正々堂々、君を倒す! 恨みっこなしだからね!」


 ◇◇◇


 青い甲冑を鳴らし、俺は夜のバレッタを堂々と出歩いていた。住民から白い目で見られるも、どうだっていい。教皇ラウラの救出なんてものに興味はない。隠密行動を律儀に守ってやる必要はない。……強い奴と闘うことができればそれでいい。刀を抜く価値のある人間と出会えればそれでいい。最終的に成長できればなんだっていい。俺にとっては『強さ』が全てだ。どの世界でも通用する変動的な通貨といっても過言じゃない。実力を磨くことが、絶対的に正しい行動だと心の底から信じている。


 ここは格好の戦場いくさば


 悪魔的特徴を有し、奇抜とも言える甲冑を着る人物がいたら嫌でも目に付く。常人は離れていき、俺と志を同じくする人物が自ずと引き寄せられる。世界はそういう風にできている。自分が求めている周波数に導かれ、同じような奴らと出会うようになっている。この世に偶然はない。この出会いもきっと必然だ。


「我は佐々木小十郎と申す者。手合わせ願おうか!!」


 ◇◇◇


 首都バレッタ、聖マルタ大聖堂の近くに面する通り。


 生前葬に備えて道路が封鎖される中、向き合うのは二人。


 柄物シャツにベルボトムを履く黒髪アフロの悪魔は口を開く。


「リズム刻むのが本能。それゆえの葛藤。めぐるめく煩悩。

 捜索が正常。対決は異常。優先は友情。試すされるのは人情」


「リリックが得意のご様子、セッションと洒落込みましょうか!!」


 対するのはバイオリンの弓を武器にする黒服の女性。


 ビリー対リディアの戦闘が、静かに始まろうとしていた。


 ◇◇◇


 今の首都は明らかにおかしい。異様な熱気に包まれている。ラウラ救出作戦を決行した以上、各地で戦闘が勃発するのは理解できる。……ただ、あまりにも数が多すぎる。濃い気配が混線し、誰が誰と戦っているか全く把握できない。仲間の動向を把握したいのは山々だが、『自己像幻視体ドッペルゲンガー』による分身は二体が限界。それも自己防衛に回さなければ危うい状況ときた。


「「「やれやれ……。どこのどなたか存じないけど、適切な配置だね。僕を三人分で評価していただけたとは嬉しい限りだ。その様子からして、戦いは避けられないんだろうけど、良ければ動機を聞かせてもらえるかな?」」」


 首都北部にある屋上で相対したのは、三名。


 レイピア女と、シルクハット男と、執事老人だ。


 僕は分身体を二体生じ、最初から全力で立ち向かう。


「生前葬は命に代えても遂行されなければならない」


「義理と人情を通し、汚名を返上するには格好の舞台」


「ということですので……お覚悟はよろしいですかな?」


 女、男、老人が順に話し、各々はセンスを纏う。


 いやはやいやはや、今日は『熱い夜』になりそうだ。

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