第48話 脅し
英国王の別荘。ヴィラ・ガーダマンギア。
一階リビングのソファに腰かけるのは、カモラ。
その周囲には砦強襲に関与した仲間四名が倒れていた。
興味がそそる昔話に付き合わされた挙句、問われたのは二択。
――『親父』か、『仲間』か。
僕の意思能力で保存されたラウロを渡せば、仲間は解放。
出し渋れば、仲間はどうなっても知らねぇっつう脅しだった。
『…………』
当然、すぐに返事できるわけもなく、僕は沈黙を貫いた。
前回と違って、呼び鈴は用意されず、意思疎通手段は限られる。
悩んでる暇はなく、こうしてる間にも砦にいる仲間が危険に晒される。
(手っ取り早い選択肢は、『戦う』か『渡す』かだが……)
その上で僕は能動的アクションを二つ並べ、考える。
カモラの言ってることが正しいなら、親父は大クソ野郎だ。
ユダヤ人を大量虐殺したヒトラーと大して変わらないことになる。
『渡す』方が丸く収まるのは確かだったが、一つ気掛かりな点があった。
(こいつ、武力で脅せるほど強ぇのか……?)
大前提として、この取引はカモラの実力あり気で成り立つ。
断れば即戦闘だが、倒せば『仲間』と『親父』を両取りできる。
腐っても家族だからな。できることなら引き渡したくないのが本音。
現状、奴の右目に魔眼がある以外は未知数だったが、今の僕なら恐らく。
「ワンアクションで最低二人は殺れる。行動は慎重に選べよ」
戦う方向に思考が傾く中、絶妙なタイミングで脅しがかかる。
カモラの右手には軍用ナイフが握られており、剣呑な空気が漂った。
体感上、倒せる確率は高いが、仲間に危険が及ぶリスクを抱えるのは確か。
(肩書きはマランツァーノファミリーの元ボス。去年の『リーチェ狩り』ではカモラの傘下に入ったこともあった。沈黙の魔眼を有し、誓約によって身体には髑髏の刺青を刻まれ、白き神にまつわる計画をみだりに話さない縛りを設けられたが、組織に救助されて以降、刺青は消えた。恐らく、組織が抱える祈祷師的な意思能力者により呪いを解除され、今の僕は沈黙の魔眼の支配下にないはず。実際に戦ったシーンを見た覚えはなく、あくまで指示役に徹し、前線からは退いているようにも見えた。少し見ない間にダイエットに成功したようだが、痩せた=強いとは限らない。……やっぱり、どう考えてもブラフなんだよな。水中都市ラグーザ分の質量と意思を扱える僕とタメを張るとは思えねぇ。ここは……)
刃物で脅されてもなお、僕の優位は揺るがない気がした。
ワンアクションで倒すイメージを脳内で描き、臨戦態勢に入る。
もちろん気取られないように細心の注意を払い、体内で意思を練った。
『「………………」』
追い脅しが入るかとも思ったが、カモラは無言を貫いた。
ペラペラと喋ればブラフが確定したが、さすが元マフィアだな。
余裕を崩すことはなく、あくまで僕の能動的行動に全てを委ねていた。
『ニャー(貼り付け)』
微妙な空気と流れを読み取り、僕は詠唱する。
「―――――――」
直後現れたのはラウロ。カモラが欲しているもの。
奴の目の色が変わる。緊張が解けたのが顔色で分かる。
――ワンアクション。
相手にとって都合がよく、当然ながら死傷者は出なかった。
不必要な争いが生まれることはなく、取引は成立しつつあった。
『ニャオウ(召喚)』
僕はアクセルを全力で踏み込む。口に咥えていた札に意思を注ぐ。
召喚はこれで四度目。総量がいくら増加しようが、25%の消費になる。
――ツーアクション。
大病院長に叩き込む予定だったが、帰れたならこれでいい。
あとは『仲間』がどうにかする。『親父』の病は必ず完治させる。
『―――――』
西洋騎士風のフルプレートを纏う人物が現れ、大剣を構える。
鎧は黄色で彩られ、度重なる召喚による成長を形で体現している。
「………………」
同時にカモラは動き出した。『仲間』ではなく、鎧に向かった。
判断は間違ってない。彼女が通用しなければ、僕の意思は空っぽだ。
『親父』も獲得できることになり、わざわざ不必要な血を流す必要はない。
『「――――――」』
両者は自ずと引き寄せ合う。ナイフと大剣は衝突する。
激しい閃光を散らし、進化したミネルバと真っ向から渡り合う。
ただの脅しやハッタリじゃなかった。カモラは十分な実力を備えていた。
『…………』
その攻防を見届けた上で、僕は動き出した。
ミネルバが拮抗する内は、意思はパンクしない。
その仮説をもとにして、限界の際の際の際を攻める。
行き着くのは――スリーアクション。
『切り取り』
動けないカモラの肌に噛みつき、詠唱を行う。
脅しをかけた張本人を一時保存するために行動を起こす。
「――――因果は廻る」
落ち着いた様子でカモラは言葉を残し、虚空へと消える。
深い意味があるのかないのか知る由もねぇが、脅威は去った。
残る仕事は一つ。正気が保てている間に、やるべきことがあった。
『…………』
テーブルの上に着地し、ある物体に顔を寄せる。
そこには砦の攻防が映り込み、ルーチオの姿も見えた。
ビデオ通話は終わってない。カモラは通話を切ってはいない。
――フォーアクション。
『ニャア――(僕の勝ちだ)』
そこで僕の意識は途切れ、聖エルモ砦における一連の騒動は終息した。




