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教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

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第48話 脅し

挿絵(By みてみん)





 英国王の別荘。ヴィラ・ガーダマンギア。


 一階リビングのソファに腰かけるのは、カモラ。


 その周囲には砦強襲に関与した仲間四名が倒れていた。


 興味がそそる昔話に付き合わされた挙句、問われたのは二択。


 ――『親父』か、『仲間』か。


 僕の意思能力で保存されたラウロを渡せば、仲間は解放。


 出し渋れば、仲間はどうなっても知らねぇっつう脅しだった。


『…………』


 当然、すぐに返事できるわけもなく、僕は沈黙を貫いた。


 前回と違って、呼び鈴は用意されず、意思疎通手段は限られる。


 悩んでる暇はなく、こうしてる間にも砦にいる仲間が危険に晒される。


(手っ取り早い選択肢は、『戦う』か『渡す』かだが……)


 その上で僕は能動的アクションを二つ並べ、考える。


 カモラの言ってることが正しいなら、親父は大クソ野郎だ。


 ユダヤ人を大量虐殺したヒトラーと大して変わらないことになる。


 『渡す』方が丸く収まるのは確かだったが、一つ気掛かりな点があった。


(こいつ、武力で脅せるほど強ぇのか……?)


 大前提として、この取引はカモラの実力あり気で成り立つ。


 断れば即戦闘だが、倒せば『仲間』と『親父』を両取りできる。


 腐っても家族だからな。できることなら引き渡したくないのが本音。


 現状、奴の右目に魔眼がある以外は未知数だったが、今の僕なら恐らく。


「ワンアクションで最低二人は殺れる。行動は慎重に選べよ」


 戦う方向に思考が傾く中、絶妙なタイミングで脅しがかかる。


 カモラの右手には軍用ナイフが握られており、剣呑な空気が漂った。


 体感上、倒せる確率は高いが、仲間に危険が及ぶリスクを抱えるのは確か。


(肩書きはマランツァーノファミリーの元ボス。去年の『リーチェ狩り』ではカモラの傘下に入ったこともあった。沈黙の魔眼を有し、誓約によって身体には髑髏の刺青を刻まれ、白き神にまつわる計画をみだりに話さない縛りを設けられたが、組織に救助されて以降、刺青は消えた。恐らく、組織が抱える祈祷師的な意思能力者により呪いを解除され、今の僕は沈黙の魔眼の支配下にないはず。実際に戦ったシーンを見た覚えはなく、あくまで指示役に徹し、前線からは退いているようにも見えた。少し見ない間にダイエットに成功したようだが、痩せた=強いとは限らない。……やっぱり、どう考えてもブラフなんだよな。水中都市ラグーザ分の質量と意思を扱える僕とタメを張るとは思えねぇ。ここは……)


 刃物で脅されてもなお、僕の優位は揺るがない気がした。


 ワンアクションで倒すイメージを脳内で描き、臨戦態勢に入る。


 もちろん気取られないように細心の注意を払い、体内で意思を練った。


『「………………」』


 追い脅しが入るかとも思ったが、カモラは無言を貫いた。


 ペラペラと喋ればブラフが確定したが、さすが元マフィアだな。


 余裕を崩すことはなく、あくまで僕の能動的行動に全てを委ねていた。


『ニャー(貼り付け(ペースト))』


 微妙な空気と流れを読み取り、僕は詠唱する。


「―――――――」


 直後現れたのはラウロ。カモラが欲しているもの。


 奴の目の色が変わる。緊張が解けたのが顔色で分かる。


 ――ワンアクション。


 相手にとって都合がよく、当然ながら死傷者は出なかった。


 不必要な争いが生まれることはなく、取引は成立しつつあった。


『ニャオウ(召喚)』


 僕はアクセルを全力で踏み込む。口に咥えていた札に意思を注ぐ。


 召喚はこれで四度目。総量がいくら増加しようが、25%の消費になる。


 ――ツーアクション。


 大病院長に叩き込む予定だったが、帰れたならこれでいい。


 あとは『仲間』がどうにかする。『親父』の病は必ず完治させる。


『―――――』


 西洋騎士風のフルプレートを纏う人物が現れ、大剣を構える。


 鎧は黄色で彩られ、度重なる召喚による成長を形で体現している。


「………………」


 同時にカモラは動き出した。『仲間』ではなく、鎧に向かった。


 判断は間違ってない。彼女が通用しなければ、僕の意思は空っぽだ。


 『親父』も獲得できることになり、わざわざ不必要な血を流す必要はない。


『「――――――」』


 両者は自ずと引き寄せ合う。ナイフと大剣は衝突する。


 激しい閃光を散らし、進化したミネルバと真っ向から渡り合う。


 ただの脅しやハッタリじゃなかった。カモラは十分な実力を備えていた。


『…………』


 その攻防を見届けた上で、僕は動き出した。


 ミネルバが拮抗する内は、意思はパンクしない。


 その仮説をもとにして、限界の際の際の際を攻める。


 行き着くのは――スリーアクション。

 

切り取り(カット)


 動けないカモラの肌に噛みつき、詠唱を行う。


 脅しをかけた張本人を一時保存するために行動を起こす。


「――――因果は廻る」


 落ち着いた様子でカモラは言葉を残し、虚空へと消える。


 深い意味があるのかないのか知る由もねぇが、脅威は去った。


 残る仕事は一つ。正気が保てている間に、やるべきことがあった。


『…………』


 テーブルの上に着地し、ある物体に顔を寄せる。


 そこには砦の攻防が映り込み、ルーチオの姿も見えた。


 ビデオ通話は終わってない。カモラは通話を切ってはいない。


 ――フォーアクション。


『ニャア――(僕の勝ちだ)』


 そこで僕の意識は途切れ、聖エルモ砦における一連の騒動は終息した。

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