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教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

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第47話 修羅場

挿絵(By みてみん)





 聖エルモ砦西の外側にある日陰付近。


 そこでは、予期できた修羅場が広がっていた。


「「「「…………」」」」


 構えるのはマルタ、アミ、夜助、椿。


 内二名は白い鎖に繋がれ、不自由な状態だ。


 恐らく、束縛した対象の力を制限するもんだろう。


 アミが手綱を握ってるが、マルタが用意した物っぽいな。


 聖遺物レリックか、邪遺物イヴィルか、意思能力か……。


 まぁ、色々と候補はあるが、鎖の長さ的に手足が届く距離だ。


 仮に意思の力が封じられてたとしても、砦と同じなら十分戦える。


 『潜在センス量』のコントロールによる肉体強化は可能だろうからな。

 

 問題は……。


「彼女の転送を最優先に!!」


 そこで響いたのは、リディアの声だった。


 怪我の度合いを考えれば、次は彼女のはずだった。


『ニャッ!! ニャニャン!!! (待て!! そんなことしたら!!!)』


 反射的に言葉を並べるが、伝えることはできない。

 

 いや、仮に伝わったとしても、流れに逆らえなかったはずだ。


「――!!」


 ルーチオは僕の首根っこを掴み、地面においた携帯に寄せる。

 

 画面上に表示されるのは、ビデオ通話の画面と見覚えのある別荘。


 相手は見えなかったが、お決まりの手順で僕は移動を余儀なくされた。


「残影通転身!!!」


 ◇◇◇


『――――』


 ここまで紐づく全ての要素が用意された手札の範疇だった。


 予想は可能だった。時期と展開と人員の予測が困難だっただけだ。


「………………ふぅ」


 別荘のソファに深く腰かけて、電子タバコを吸う野郎がいた。


 立ち上げた黒髪を横に流し、右目に眼帯をつけ、黒スーツを着る。


 痩せ型で容姿は中年。現れた僕に驚きもせず、堂々と一服してやがる。


 周囲には気絶したアルカナ、修道騎士、じいや、ジャコモが転がっていた。


(カモラ・マランツァーノ……。因縁の終着点はコイツか……)


 語り合う言葉を持たず、僕は状況を察して、一人で自己完結する。


 親父との関係性は不明だが、親父の事業の一部を引き継いだのは確か。


 焼き払われたルチアーノ邸に、カモラが屋敷を建てていたのは知っている。

 

 ――詳しい因縁は分からねぇ。


 親父の舎弟だったのか、同僚だったのか、競合だったのか。


 当時は子供だったから聞いてねぇ。というか、知りたくなかった。


 ラウロ・ルチアーノが犯罪をビジネスにしてるなんて信じたくなかった。


「少し……昔話をさせてもらおうか」


 予想不能な領域に、カモラは一歩足を踏み入れる。


 経緯を省略し、一方的なコミュニケーションを繰り広げる。


『…………』

 

 僕は否応なしに口を閉ざした。


 決して喋れないのが理由じゃねぇ。


 床で寝てる奴らは、言わば人質なんだ。


 それが分からねぇほど察しは悪くなかった。


「ラウロ・ルチアーノは元々、運送関連のビジネスを取り仕切っていた俺のお得意様だった。奴はレアな遺体や遺物に目がなくてな、それらしい商品を仕入れれば金に糸目をつけず、どんな高額な品でも現金一括払いする気持ちのいい野郎だった」


 切り出されたのは、親父の話だった。


 知り得る犯罪の中なら許容できる範囲のもの。


 遺体の売買は違法なんだろうが、この先が重要だった。


「なぜ遺体を集めるのか。なんて野暮なことは聞かなかった。根源的な欲求には原因がないことが多く、特に趣味嗜好やフェチズムに関していえば、どれだけ突き詰めても『好きだから』で終わる。だから俺は別の切り口で探った。……いつから遺体に興味を持ち始めたのかってな」


 カモラは丁寧に淡々と外堀から埋めていく。


 ラウロを主題に、関連情報を一つ一つ積み重ねる。


 不必要な情報は一切存在せず、聞き手としては心地いい。


 ただ、語りが進む度に、嫌な緊張感が高まっていくのを感じた。


「幼少期にエジプトのピラミッドを観光して、王墓に感銘を受けたのがきっかけらしい。俗っぽい理由だったが、最初は誰でもそんなものだ。あくまで趣味は趣味であり、見るだけなら合法だ。……問題はどこまで拗らせるか。根拠のない熱量で、大した見返りもなく、突っ走れる距離には個人差がある。ラウロに関して言えば、ブレーキが存在しなかった。アクセルを踏む続けるという選択しかなかった。特定の遺体に興味を持ち、未知なる存在に惹かれた。ただの人間には興味を持たず、異なる人種に興味を限定した。俺から買い集めるだけでは飽き足らず、供給量を増やすために行動した。だから奴は……異世界人を標的とする殺し屋を組織した」


 畳みかけるように告げられたのは、親父の仕事。

 

 趣味の自給自足のために殺し屋に転じたストーリー。


 嘘の可能性もあったが、頭によぎったのは禍々しい遺品。


(ネクロノミコン外典……。無数の魔眼……。殺し……。収集癖……)


 ラウロに関連していた情報が一つに繋がる。


 異世界人の遺体集めが趣味なら、全てに納得がいく。


 非合法的だったが、リーチェが所属していた理由に辻褄が合う。


 ――超常現象の対策。


 異世界人の存在は、説明のつかない災厄の元凶になり得る。


 白銀の鎧を追うリーチェとなら、利害関係が一致することになる。


 政府の管理下にある『ブラックスワン』が野放しにしていた理由に繋がる。


「ラウロの首には300億円相当の懸賞金がかけられている。生死は問わず、お前が無償で差し出すなら、お仲間とお前の自由を保証する。今のストーリーを聞いた上で、親父を取るか、仲間を取るか……選べ」


 最終的に告げられたのは、平等で残酷な二択だった。


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