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教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

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第46話 大詰め

挿絵(By みてみん)





 肉体を鍛えなければ、どれだけ意思を高めても、出力や攻防力で肉体強者に劣るというのは間違った常識だ。無論、鍛えられた肉体に意思が乗れば、相乗効果を望めるのは確かだが、それが絶対的に正しい運用法とは限らない。


 長所は短所を補うという言葉がある。


 肉体、精神、才能、性格、嗜好、目的、熱量。どれをとっても全く同じという人間は一部の例外を除いて存在せず、それを一括りにしようというのが前提としておかしい。各々のやりたいことを考慮しない上で、一方的に決めつけた押し付けがましい理屈であり、大前提として意思能力者は必ずしも戦闘に特化する必要はない。


 何か一つ。


 叶えたい欲望のために非戦闘系の能力に全てのリソースを割くのも一興であり、その場合は肉体を鍛える必要がない。例えば、プログラミングに応用できる意思能力を開発したいという若者がいたとして、筋肉を鍛えろというアドバイスは的外れもいいところである。ここで問題なのは、アドバイスする側が相手の要望を大して聞かずに、『お前はこうしろ』と決めてかかることだ。それで実際にやってみて上手くいくケースや、教え子側が駄目だと見切りをつけて学びを得るケースも存在するのは事実だが、教える側に欠陥があるのは揺るぎようがない。


 大抵の場合、相手の長所を読み取る能力に欠けている。


 短所を矯正すれば、よくなると思われがちだが、それだと小生のような凡人が出来上がる。これは卑下でもなんでもなく、客観的な事実。意思能力者としての年輪を深く刻んだことで大抵の若木には負けようがないが、成熟した古木だけで戦闘データを取った場合、中央値よりも下回るのが現実だろう。意思能力の性質上、時間をかければかけるほど成長するのは言うまでもないが、何に時間を割り振ったかで圧倒的な格差が生まれる。


 その致命的な欠陥に気付いたのは、一匹。


 商品名『L.L.』。ラウラ・ルチアーノは小生の実力を見抜いた。感覚系由来のものか、天性の勘かは知らんが、数千年かけて築き上げたものを看破され、たった数分で同じステージに上がってきたのを感じる。少なくとも、『顕在的センス』が封じられた聖エルモ砦では、互角以上の闘いが見込めるのは確かだった。才ある者が多い侵入者の中でも、飛び抜けた将来性を感じる。貧弱な猫の肉体や意思能力者の常識に縛られることもなく、独自の才能を開花させつつある。現段階でも気を抜けば倒される程度には厄介な使い手に育っていた。


 ……だが、まだまだ未熟。


「――――」


 地面に両足をつき、慣性をいなす。


 追撃に備え、廊下の奥へと視線を向ける。


 いつ、どんな画角で襲われても不思議ではない。


 待ちに徹するのが手堅いが、それは自己都合が過ぎる。


 ――敵の目的は『ラウロの脱獄』。


 小生と闘い、決着をつけるのはマストではない。


 個人的な感情と侵入者側の事情を混同してはならない。


 闘争と逃走は別物であり、相手目線なら選ぶのは後者のはず。


(結界が機能すれば砦外に出た時点で察知できるが、ここは――)


 ほんの数瞬の間に考えをまとめ、即断即決。


 元いた廊下に戻るため、足に力を込めようとした時。


「…………っっ」


 背後から感じたのは、憎悪に満ち溢れた殺気。


 隠すつもりなど毛頭なく、その矛先は小生に向いた。


「「「「「「「――――――」」」」」」」


 回避する視線の端で捉えたのは、兵器化した人間の数々。


 服装に統一性がなく、性別、年齢、種族、時代感はバラバラ。


 一人一人は取るに足らないが、あまりにもタイミングが悪すぎる。


「これが因果応報というものか」


 無視しかねる状況を前にして、自ずと足が止まる。


 身体を反転し、彼女らを障害と認め、向き合う決意を固める。


「覚悟しなさい、侵略者インベーダー! 私たちは貴方たちの滞在を決して認めない!!」


 声高らかに言葉を発したのは、全身を黒い包帯で巻かれた女性。


 兵器化した者の陣頭指揮を執り、数々の時代を経て小生に牙を剥いた。


 ◇◇◇


「残影通転身!」


 砦外に響き渡ったのは、ルーチオの声。


 携帯の通話画面と影を通じ、移動が開始される。


 複数人同時に送ることは出来ず、一人一人の対応になる。


 怪我人二名を先に送り届けてもらったところで僕は後回しだった。


 ――場には四名。


 ラウラ、ルーチオ、小十郎、リディアだ。


 常軌を逸した強さを誇る大病院長から逃れた精鋭。


 『ラウロの脱獄』が勝利条件なら、達成は間近に迫っていた。


「次はどうする。誰が――」


 ルーチオはこちらに視線を向け、鬼気迫る様子で問う。


 いつ大病院長が仕掛けてきてもおかしくなく、緊迫してる。


 ……と思ったが、なんか違うな。ルーチオの顔が凍り付いてる。


 現在進行形で現れた脅威。それも予想外の面子が現れたって感じだ。


(ちっ……今、ここでかよ……っ!!!)


 見なくても分かる。導火線はとっくの昔に火が付いていた。


 いつ凸られるかってだけの問題だったが、タイミングが悪すぎる。


「次はあたいたちが相手だ。覚悟はいいね? 猫泥棒」


 現れたのは、マルタ、アミ、夜助、椿の四名。


 2億ユーロで繋がった因縁が起爆しようとしていた。

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