表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/91

第45話 フィジカル勝負

挿絵(By みてみん)





 聖エルモ砦の西側廊下に集結したのは、少数精鋭。


 共通した目的を持つ同志が奇しくも一斉に揃っていた。


 同じ場面、同じ面子、同じ強敵が一致することは多分ない。


 80億分の7っつう天文学的な数字を味わうのは『今』しかない。


 因縁も恨み辛みもたっぷりあるわけだが、目的は『復讐』じゃねぇ。


『「「「「「――――――――」」」」」』


 見ず知らずの野良を含めた六名の視線は一人に注がれる。


 赤マント付きの修道服を着た、聖エルモ砦のかしらが立ち塞がる。


「…………」


 大病院長グランドホスピタラー。名前は知らねぇが、実力は本物だ。


 転写体とはいえ、親父を倒したってだけで実績は十分。


 とはいえ恐ろしいのは、こいつ戦闘タイプじゃねぇんだよな。


 ――RPGなら『僧侶』。


 パーティの補助を担当するサポート型のはずだ。


 騎士団の四大官職の配置から考えても、役割は明らか。


 『修道誓願』なしの第二級騎士って点を踏まえても間違いない。


 ――恐らく、幹部の中なら実力は一番下だ。


 それに付随して、聖エルモ砦の難易度も最下位になる。


 他の奴らが支配する地域だと、更に苦戦を強いられるはず。


 これがチュートリアルってんならインフレもいいところだった。


 まぁ、片っ端から攻略する気はサラサラないが、今は一つ一つだな。


『――――』


 意思の力が封じられた今、確かめるべきは謎膂力。


 猫化状態が解けてないなら、質量は保存されてるはず。


 『意思保存の法則(エクスマギア)』は使えねぇわけだが、敵も条件は同じ。


 フィジカルが勝敗を左右するなら、僕が最も活躍できる場面。


『「――――!!!!」』


 明確な打算込みで先陣を切った僕は大病院長と接触。


 頭突きを繰り出し、相手は右手の拳をもってして応戦する。


(こいつは……)


 確かに謎膂力は発揮された。猫状態で大病院長の拳とタメを張った。


 こちらの理屈は理解できるわけだが、向こうの理屈は全く理解できない。


 ――都市の質量≒大病院長の質量。


 方程式化するなら、こういう理屈になるわけだ。


 いくら身体を鍛えていようが、限度ってもんがある。


 これでセンス抜きならイカレてるとしか言いようがねぇ。


 重力が数十倍ある星から来たなら分からんこともないが……。


「もう満足したのかね? 初撃を打ち合えただけで」


 耳朶を揺らしたのは、大病院長の冷たい声音。


 一瞬にして現実に引き戻され、肝が冷えるのが分かる。


『――――ッ!!!!』


 考察を切り上げ、次の一撃を繰り出そうとするも、遅い。


(か、は…………っっ)


 猫の胴体に向け執拗に放たれたのは、八連の拳。


 ほんの一瞬気を抜いただけで、意識がぶっ飛びかける。


 吐き気を催し、気分は最悪だったが、予期せぬ収穫があった。


(そうか……。力が全く使えないわけじゃねぇんだな……)


 掴むのは、砦の神秘の本質。


 都市の質量とタメを張った絡繰り。


 基礎の延長線上にある汎用化された技術。


(潜在センスによる肉体強化。それが大病院長の強さの秘訣っ!!)


 最後の一撃を顔面で受け、殴り飛ばされながら、理解する。


 意思の力を外に出せないだけで、身体の内側は話が別ってワケだ。


「「「「「――――――」」」」」


 遅れて他の五名は肉弾戦を開始しようとしていた。


 情報を伝えたいのは山々だったが、人の言葉を話せねぇ。


 自ずと選別される。力や知恵を持たない者は自然と淘汰される。


「「…………」」


 脱落したのは、アルカナと見ず知らずの修道騎士。


 見たところ、これまでの戦いで相当消耗していた様子。


 駆けつけただけで精一杯って感じで、ダウンも無理はねぇ。


 そもそも、アルカナは魔術師だろうし、接近戦は不得意のはず。


 それに加え、首回りに黒い包帯を巻いており、怪我の重さが伺える。


 修道騎士に関しても、折れたレイピアで戦っていて、無理が祟った形だ。 

 

 ――生き残った面子は三名。


 攻略法は各々違ったが、大方の予想は立つ。


 小十郎は剣術、ルーチオは意思、リディアは体術。


 中でも、砦の神秘に正攻法で対応したのはルーチオだな。


 元々、砦に勤務してたみてぇだし、一日の長があるって感じだ。


 小十郎とリディアは、上手く力点を受け流して対応した印象を受ける。


(搦め手やハメ技あり気の意思能力戦を考えないでいいから内容はシンプルなんだが、それゆえに厄介だな。今の環境だと実力差がモロに出る。人数で有利を取れても、圧倒的格上なら勝ち目がねぇ。倒すには知恵を合わせて、能力の掛け算をして攻略するってのが王道の勝ちパターンなんだが、それが使えねぇなら向こうの土俵で戦う必要があるわけだ。恐らく、攻略の鍵を握るのは『潜在センス量』のコントロールなんだろうが、どうやって二人に伝えればいい……)


 受け身を取り、現状を分析し、次の一手を考える。


 協力するのは前提として、問題は意思疎通の手段だった。


 こうしてる間にも戦況は悪い方に傾き、作戦を練る時間はねぇ。

 

(いや、他人をコントロールするより、まずは僕のことを考えろ。できることが限られてるなら、それに没頭するしかねぇ。伝える以前に『潜在センス量』をコントロールできてねぇのが問題だ。……ようするに、習うより慣れろってな!)


 早々に考えを切り上げ、最短距離で答えを導き出す。


 合ってるか間違ってるが知らんが、この選択を正解にする。


 それぐらいの気概がないと勝てねぇ。厳しい環境に適応できねぇ。


『――――――』


 大病院長との戦闘を三名に任せ、僕は体内に意識を向ける。


 意思を練り、内側に留め、身体能力に紐づくように最適化する。


 血管や神経と似たようなもんだ。センスを枝状に張り巡らせる感覚。

 

 ――だが、溢れさせちゃ駄目だ。


 勢い余って体外に出ちまえば、センスは封じられる。


 コップの中に水を溜めつつ、表面張力で留めるイメージ。


 恐らくこいつは感覚系の領分。精神掌握を自分に向けた感じ。


 ある種の自己暗示。体内に意思が巡ると思い込むことで至る技術。


(できるかできないかは関係ない。……まずは試せ!!!)


 己を鼓舞し、過ぎた期待が頭を巡る前に僕は突っ走る。


 戦闘を繰り広げる三名を通り抜け、繰り出したのは頭突き。


「…………ッッッ!!!!」


 しかと届き得たのは、大病院長の胴体部分。


 確かな手応えと共に、奴の身体は砦の彼方にぶっ飛んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ