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教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

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第4話 状況説明

挿絵(By みてみん)





 ジルダに連れられ、たどり着いたのは宿屋めいた場所。一人用のベッドに、必要最低限の家具が配置されている。吹き抜けの天井が特徴的で、都市は透明の膜のようなもので覆われ、その先には深海が広がっている。


 ここまで状況説明はなし。


 長話は落ち着いた場所でということなり、案内された次第だ。ジルダの勧めで部屋に備え付きのバスルームでシャワーを軽く済ませ、用意されていたサイズピッタリの白のカッターシャツとスラックスに着替え直す。交替で入ったジルダがシャワーから出てくるのを地べたに座り、胡坐の体勢で待っていた。

 

(なんつーか。彼女の家に転がり込んだ彼氏の気分だ……)


 室内は妙に甘ったるい匂いがして、相手は実の息子だってのにソワソワする。……いや、実の息子だからこそだろうな。親心なんてもんは腹を痛めて産んだ子じゃねぇから分からんが、思春期に親から部屋を覗かれるのが嫌な気持ちは分かる。それの逆バージョンというか、親としての気配りの延長線で居心地の悪さを感じていた。


「それで……ここまで何があったです?」


 気付けば、湯気を発するジルダはベッドに座り、問いかける。服装は紺のチュニックに、白のスリムジーンズを履いている。民族的というよりかは、現代的なファッションだ。女性的だったが、男性としても通用する格好。宿の設備から考えても、地上と物資の流通があるのは間違いねぇだろうな。とはいえ――。


「ストリートキングの後から……だな。率直に言うが、血眼になってお前のことを捜してたわけじゃなかった。急に消えたのが心配ではあったが、手掛かりもねぇし、あてもなく捜すわけにもいかねぇ。そこで思いついたのは僕の父親……『ラウロ・ルチアーノ』と接触して、ルチアーノファミリーを再興させることだった。お前の当初の目的だったし、再興すれば、おびき寄せられるんじゃねぇかってな。死んだ親父が生きてるってのは、お前の口から聞いたし、確実な証拠も揃ってきてた。その延長線で捜してたのが、『カモラ・マランツァーノ』だ。親父の後釜になった男だし、行方を知ってるんじゃねぇかってな。もし見つけられれば、そこがセンターピンになって、芋づる式に全員と接触できる可能性があった。カモラ→ラウロ→ジルダってな。……でも現実ってのは甘くねぇ。別の問題に巻き込まれちまった」


 今までの経緯を簡潔にまとめ、視線を飛ばした先には白のフード付きローブと白の修道服。ずぶ濡れになったものを軽く絞り、ハンガーにかけて部屋干しをしている状態だった。本来ならクリーニングに出すべき代物だが……。


「今は白教の『教皇』ですね。修道服を見れば分かる、です」


 ジルダの仰る通り。ここに乾燥機やクリーニング屋があるかはともかく、あの服は情報量が多すぎる。赤の他人に知られれば、恐らく面倒なことになる。ここまではローブを上に着ていたおかげで何とかなったが、修道服姿で出歩くのはまずい。宗教戦争なんて言葉もあるぐらいだし、万人が白教だと考えるのは危うい。宗教上の対立で殺される可能性も十分考えられた。


「そういうわけだ。色々あって教皇になった僕は、マルタ騎士団との会合を行うために船旅をしてたところ、大波が来てドボン。そこからは知っての通りだ。……ってなわけで、礼が遅れたが、ありがとうな。お前がいなけりゃ、僕は死んでた」


「ボクは……何も……」


「謙遜すんなって。それより、お前の話を聞かせてくれ」


 つつがなく語り終え、僕のターンは終了。


 会話のバトンはジルダに渡され、続く言葉を待つ。


「言えることと、言えないことがあるです」


「だろうな。言える範囲でいいから教えてくれ」


 ジルダは歯切りの悪い反応を見せ、分かり切った前置きを挟んだ。前後関係を考えれば、奴もまた余所者。都市の状況を全て把握できてるわけがないだろうし、所属する団体と身内次第で余計に複雑になるはず。……ただ少なくとも、ここがどこで、何を目的にしているかは分かるだろう。


「……ここは水中都市ラグーザ。今より1000年前、白き神降臨によって沈められたシチリア島の一部だと言われてるです。当時の災厄を生き残った島民……純血異世界人が多く生存している最後の聖域であり、白教への風当たりは……」


「強いだろうな。それも教皇ともなりゃあ、街中でフルボッコにされてもおかしくねぇ。信仰していたはずの神が故郷を滅ぼし、こんな辺境の地に追いやられた上に1000年も時間が経てば、精神が病む。怨まれて当然だわな」


 歯切れが悪い理由がようやく分かった。余所者が都市に訪れたことが問題じゃねぇ。水中に追いやられた元凶の神……それを信仰する宗教団体の親玉がいるのが問題なんだ。僕の立場は相当に危うい。身分がバレれば戦闘になるのは確実だ。


「はい、です。できれば誰にも知られず、地上にお帰したいところですが、マルタ共和国に通じるゲートは厳重で、絶対に人目についてしまうです。それも、利用には身元確認が必須で、余所者であるボクや母様だけでは絶対に通ることはできません。現地民の同行が必須で、彼の協力なしには突破することは不可能」


「概ねミッションは理解したが、彼って……?」


「ご紹介します。入ってくださいです」


 ジルダは視線を吹き抜けの天井に向け、言い放つ。


 人の見る影もなかったが、すぐに正体は明らかになった。


「――飛燕舞踏会ロンディネ・バッロ!!!」


 軽快な声音と共に天井から飛んできたのは、シルクハット。


 細い糸で制御され、狙い澄ましたように僕の方へと迫ってくる。


「……ッッ!!!」


 反射的にセンスを纏った僕は右拳を振るい、打ちつける。激しい閃光を伴い、猛攻を妨げるもののハットの勢いは止まらねぇ。宿屋の壁際に背中ごと叩きつけられて、壁面にヒビが入る。ダメージ自体は大したことねぇ。それより問題なのは、このまま壁を破壊して、外まで騒ぎが広がることだ。そうなれば、ゲートの潜入はおじゃん。それどころか、身元が割れて、宗教戦争の口火を切ることになる。


「んのォォォォっっ!!!!」


 状況を整理した上で、僕は拳に渾身の力を込める。これは自分だけの問題じゃなく、ジルダにも火の粉が降りかかる。ご挨拶の一撃だろうが、過去の因縁の消化だろうが、ここで踏ん張らないわけにはいかなった。


「………………」


 全力に近いセンスを引き出し、ようやく停止。


 回転するシルクハットは主人の下へと帰っていった。

 

「――――腕は鈍ってないようだな。ルチアーノの女」


 天井から颯爽と現れたのは、シルクハットを被る銀髪の男。


 黒スーツに白のベストをバチッと決め、帽子を上げて挨拶する。


 赤の他人ってわけでもなく、現地の協力者にしては気心の知れた仲。


「ストリートキング振りだな。ラグーザファミリーのボス。ジャコモ・ラグーザ」

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