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教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

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第33話 call

挿絵(By みてみん)





 聖エルモ砦、中央。日が差し込む中庭。


 閉じ込められたのは、赤い電話ボックスの中。


 長方形のガラス張りで、中にはレトロな電話が一台。

 

 扉は固く施錠されており、押しても引いても全く動かねぇ。


 ガラス越しに見えるのは、執事服を着た黒髪オールバックの老人。


(じいやが元凶か……。余計なことしやがって……)


 立場と状況を考えりゃあ、助けに入ったのは分かる。


 砦内の戦いに区切りがつき、参戦したってところだろう。


 ラウロの回収が目的なわけだし、介入したい気持ちは分かる。


 作戦の根幹を成す僕が敗北すりゃあ、全てが無意味化するからな。


 ただ……。


「作戦完了、でございますな」


 じいやの様子がどうもおかしかった。


 発言もそうだが、センスが変な感じがする。


 揺らぎがなさすぎっつうか、一定すぎるっつうか。


 客観的な根拠に乏しいが、とにかく信用するのは危うい。


切り取り(カット)なら無理やり出るのも可能なんだろうが……)


 真っ先に思いつくのは、ここから逃れる選択。


 能力的には可能だと思うが、どうも嫌な予感がした。


「やっるじゃーん♪ さすがはリリだけのげ・ぼ・く」


「あんま調子乗んなよ。俺が上でお前が下だ。分かったな」


 現れたのは、修道士と思わしき少女と少年。


 言動から見て間違いねぇ、リリアナとルーチオだ。


 想定済みの敵だが、作戦をどこまで把握してるかは不明。


 まぁ少なくとも、じいやが奴らの術中にハマったのは確定だな。


 ――原因はリリアナの魅惑能力。


 直近で戦ったリディアから報告済みの情報だ。


 味方が敵に回る展開も、当然ながら頭の片隅にはあった。


(敵の手に落ちたじいやの意思能力に閉じ込められた僕って状況か。ソラルの姿は見えねぇが、恐らく中庭に訪れた敵を無意識で弾くプログラムと化したんだろう。じいやは身内判定で見過ごされてるって考えるのが無難だろうな。……ようするに、仮にここを出たとしても、一対四の図式が出来上がる。味方の登場を待ってもいいが、その逆もしかり。大病院長グランドホスピタラーが出張ってきたら目も当てられない状況になるわけだが、どうする……)


 状況整理を重ね、刻々と過ぎる時間に焦りが募る。


 何を選んでもリスクが伴い、安全な選択肢はなかった。


 トラブルは大なり小なり覚悟していたが、ここまでとはな。


『……っ!?』


 そこに突如鳴り響いたのは、呼び出し音。


 どういう仕組みか電話として機能してるらしい。


 番号さえ知っていればかかる理屈ではあるんだが……。


『――ニャア(誰だ)』


 悩んでいても埒が明かず、僕は受話器を取って鳴いた。


 言葉が通じるとは思ってねぇが、これで電話の主は分かる。


『もしもーし。ストリートキング振りだね。今暇?』


 何の気なく声をかけてきたのは、まさかの人物。


 というより、電話で話すまでもなく近くにいる少女。


(嘘だろおい……)


 視線の先には、携帯電話を耳に当てつつ手を振るリリアナの姿。


 おちょくってるか、真面目にやってるかは知らねぇが、意味不明だ。


『あー、話せないのは分かってるし、事情はボスから全部聞いてる。だから、単刀直入に言うね。リリたちは君たちの味方だよ。肩書きはマルタ騎士団所属なわけだけど、心はいつもラグーザファミリー。つまり、ジャコモがリーダーなのは変わらず、あいつの方針に動く兵隊がリリたちってわけ。……理解できた?』


 そこで流れるように開示されたのは、激熱の情報。


 事前通告なしの反転ってわけでもねぇ。前置きはあった。


『あいつらなら、今は訳あってマルタ騎士団に所属してる。下っ端も下っ端だが、見かけたら頼れ。話は通してある』


 思い出すのは、水中都市で交わしたジャコモの言葉。


 あいつ自体、敵味方不明だったが、これでハッキリした。


 恐らくだが、こうなることを読んだ上で二人を配置したんだ。


 僕を裏切り、オークションにかけるのが目的だったわけじゃねぇ。


『あっれぇ? おかしいな。聞こえてるー? 返事してよー。寂しーよー』


 思考に没頭しすぎたのか、受話器からメンヘラじみた声が聞こえる。


『……ニャッ(聞こえてるよ)』


 まじで適当な鳴き声を上げ、かまってちゃんを構ってやる。


 状況は理解できたが、なんにしても、ここから先が重要だった。


『うわ、反応冷めたっ。そんな態度でいいのかなぁ。勘違いしてもらっちゃ困るけど、今の立場は、リリたちが上でそっちが下だよ。猫は猫なりに頼み方ってもんがあるんじゃない? 例えば……120点満点の猫撫で声を出してくれたら、協力してあげなくもなくもなくもなくもないよ。あれ? 何回言ったけ。……まぁいいや、ラウラ・ルチアーノの全力猫撫で声まで、3、2、1――』


 言葉を話せないことをいいことに、一方的な情報を流し込む。


 色々と言いたいことは山ほどあるが、人の言葉では伝えられねぇ。


 ――だからこそ。


『ニャーオ!!!!!!!!!!(力を貸せ!!!!!!!!!!)』


 受話器に目一杯叫んでやったのは、熱血系の声色。


 期待にそぐわないかもしれねぇが、思いは伝わったはずだ。


「………っっっ!!!!!」


 耳がキーンとしたのか、リリアナは携帯を耳から遠ざける。


 耳穴に軽く人差し指を突っ込み、オーバーな反応を見せていた。


 それを見たルーチオが睨みを利かせていたが、知らねぇし関係ねぇ。


「――――」


 グッと親指を立て、リリアナは承諾。


 心強い味方を三名追加した上で、作戦続行だ。

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