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教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

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第32話 うだるような暑さ

挿絵(By みてみん)




 僕の予感は正しかった。


 小手先の攻防は必要なかった。


 端から王霊守護符を使うべきだった。


 あの修道士野郎が障害になる気がしていた。


 戦う手順を省略した僕の判断に間違いはなかった。


 ただ……それらを肯定し得る理由が、吉報とは限らない。


「――――――――――」


 気絶したはずのソラルは起き上がる。


 異様な赤いセンスを纏い、再び立ち上がる。


 正気か狂気。……はたまた、その狭間にいるのか。


『――ニャオウ(召喚)』


 僕は迷うことなく二度目の王霊守護符を使用。


 現れたのは黒の大剣を装備する第一王子ミネルバ。


 こいつは、一回の呼び出しに対し、攻撃は一度までだ。


 体感上、消費センスは全体の25%。一日に四度までの計算。


 今回ので二度目だから、計50%のセンスを消耗したことになる。


 意思と能力の維持コストも考えりゃあ、四度目を打てるかは怪しい。


 ――だからこそ、ここで決める。


「せりゃああああ!!!!!!」


 裂帛の気合いと共に、守護霊ミネルバは駆ける。


 黒いドレスのスカートを揺らし、大剣を振りかざす。


 性質上、攻撃は一回が限界だが、一回の定義は人による。


「――――――――――――――――」


 無防備なソラルの身体に刻まれたのは、十二の刃。


 惚れ惚れするほどの剣技。軽いとは言え、度が過ぎる。


 同じ得物を使ってるからこそ分かる、腕の違いってやつだ。


 しかも、成長型の守護霊と銘打つ以上、まだまだ伸び代がある。


 これが初期レベルに近い動作だと仮定するんなら、バケモンだった。


(さて、今ので倒せるなら御の字だが……)


 期待半分不安半分で、僕は距離を詰めていた。


 ポカンと口を開けて釣果を待つほど腑抜けじゃねぇ。


 ソラルの姿は明らかに異常だ。通用しない前提で動くべき。


(な――っっ)


 目に飛び込んできたのは、飛来するミネルバの姿。


 あわや衝突寸前だったが、攻撃を終えて眼前で霧散した。


 結果的に都合のいい方に転んだわけだが、原因が片付いてねぇ。


『――――――ッッ!!!!』


 ゾワリと悪寒が走り、反射的に背面にセンスを集中。


 遅れてやってきた衝撃が、耐えがたい痛みをもたらした。


 意識が吹っ飛びそうになったが、どうにか気絶せずに済んだ。


 ――センスの山勘が当たったらしい。


 仮に失敗していれば、あの世へまっしぐらの一撃。


 ピンポイントで防げば助かるが、もう受けたくねぇな。


 なんて呑気な感想が浮かんだが、それどころじゃなかった。


『――――!!』


 地面にめり込みかけた瞬間、受け身を取り、身体を反転。


 攻撃を行ったであろう相手に視線を向け、状況把握を優先する。


(いない、だと……。気配も感じないときた……。どうなってやがる)


 理解が追いつかない展開を前に、困惑が勝る。


 肥大したセンスは、気配が濃いと相場は決まってる。


 どれだけ光量を抑えたとしても、嗅ぎ付ける自信があった。

 

 ――結果がこれだ。

 

 空気の一部になったみてぇに、気配をまるで感じねぇ。


 砦内の奴らは概ね把握できるが、ソラルだけが認知不能だ。


 視覚的にも肌感覚的にもセンス的にもいないと錯覚してしまう。


(消耗の激しい守護符を闇雲に使うわけにはいかねぇ。ここぞって時に備えておくべきで、猫状態での体術戦に移行すべきだな。なりが小さいせいでフィジカルが全く通用しない恐れがあるが、この身体のポテンシャルをまだ試してねぇ。分が悪いと思う分にはいいが、試す前から無理だと決めつけるのだけは違う!)


 思考を整理し、僕は王霊守護符を口にくわえたまま疾駆。


 的を絞らせないようにしつつ、来るべき接近戦に備えていた。


『………………』


 小さな足音だけが響く中、不意に感じるのは異様な暑さ。


 ソラルの熱気が残ってると言えばそれまでだが、違和感が残る。


(暑さが野郎の現れる兆候だとすりゃあ、能力の本質は……)


 仮説に仮説を重ね、想像を膨らませる。


 神経を研ぎ澄ませ、出現位置を予想し、そして――。


「『――!!!!』」


 繰り出した猫パンチと、ソラルのメイスが空中で拮抗。


 タイミングはドンピシャ、威力は完全に五分といっていい。


 嬉しい誤算だったわけだが、ソラルの完全攻略には程遠かった。


「――――」


 再び野郎は姿を消し、空中に溶け込んだ。


 厄介なのは変わりねぇが、能力の表層は見えてきた。


(太陽光の影響を受けてるのは確定として、暑さも考慮するなら……肉体の赤外線化ってところか。紫外線とかもそうだが、目には見えない部分も多いからな。人であろうが猫であろうが変わらんはずだ。……まぁ、そもそもとして、猫が本来見えない赤色を認識できる時点で、この身体は人間に近いんだろうがな)


 いくつか予想を立て、考察の余地は残るものの答えを絞る。


 雑多な内容も含まれるが、攻略する上で欠かせないのは後半部分。


(というか、ただの猫パンチであれなら……やってみるか)


 感じたのは、猫化状態のフィジカルの手応え。


 人間顔負けの馬鹿力を引き出せる可能性を秘めていた。


『――――――』


 ピョンピョンと華麗に移動を繰り返し、温度をセンサーに探る。


 暑さがトリガーだ。異常を検知した方向にカウンターを打てばいい。


(来た……)


 ジリジリと肌が焼けるような感触を伴い、出現は間近。


 著しい暑さを発している左方向に山を張り、出方を伺った。


「――――」


 思った通り、ソラルは左側に出現し、メイスを振るう。


『―――――』


 すかさず僕は猫特有の爪を尖らせ、その切れ味を試そうとした。


「――展示物立体表現技法ジオラマディスコ


 そこに割って入ってきたのは、見覚えのある老人。


 小ぶりのジオラマが投げつけられ、僕は中に囚われる。


『……ニャン!?』


 みっともない鳴き声を上げ、僕は電話ボックスに幽閉された。

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